宮本
でも、ぼくはね、自分がそんなに
細かいことに気がつく人間だとは思ってないんです。
ただ、ひとつだけ気にしているのが、
それが、薄っぺらいものに見えてないか、
っていうことなんですよ。
岩田
「薄っぺらいもの」。
宮本
そう。
なにかをつくっているとき、
それを薄っぺらくないものにする
っていうことに、すごく意識がいってる。
だから、たぶん、モニターを取りながら見てても、
その人がプレイしているそのゲームを
薄っぺらく感じてるかどうか?
みたいなことがすごく気になるんですよ。
糸井
ああー。
薄っぺらいか、どうか。
宮本
そう。
薄っぺらいか、厚いかっていう。
岩田
宮本さんがいう「薄っぺらいもの」って、
もうちょっとことばで説明すると
どういう感じのものですか。
宮本
手触りでいえば、かっちりしたものは厚みを感じる。
ほかの要素でいえば・・・、
たとえば、そうですねぇ・・・
自分の予想の範囲で収まってるものは、
薄っぺらいものですね。
あと、ありえないことを、
平気でそのままにしてあったり。
そういうものが、あちこちに見えると、
すごくイヤになるんですよ。
岩田
興ざめするんですね。
宮本
うん。
舞台裏が見えるっていうかね、
ゲームってぜんぶプログラムで動いてるから、
舞台裏が見えることに対してわりと平気で、
業界の常識の範囲でつくってしまってて、
一般の人が見たらおかしいと思うやろ、
みたいなことに、ぜんぜん突っ込んでなかったり。
そういうところが見えると、すごいイヤで。
糸井
うん、うん。
宮本
自分がかかわっているゲームのなかに
そういうものがあると、
ひとつひとつ、潰していくんです。
糸井
それはもう、ある種の批評ですね。
自分への批評。
宮本
そうかもしれません。
糸井
そういう薄っぺらいものって、
どこか、都合でつくっちゃってるんですよね。
つくり手の都合だったり、会社の都合だったり。
それじゃよくないと、薄々は感じているんだけど、
それこそ「まずまずです」ということで
そのまま世に出してしまう。
岩田
はいはいはい。
糸井
都合をまったく考えるなとは言いませんけどね。
岩田
言いませんけど、
最終的に都合が勝っちゃうときって、
すでに優先度がおかしくなってますからね。
危ないですよ、それは。
糸井
ああ、そうですね。
岩田
だから、都合や事情があるときも、
都合と折り合いをつけなきゃダメなんです。
都合しか考えられなくなってるとしたら、
それはよくないんですから。
宮本
だから、今回の新しい『ゼルダ』、
『スカイウォードソード』にしても、
会社の都合だけでいったら、
去年のクリスマスに中途半端な完成度で
売っててもおかしくないんですよ。
会社が間に合わせろというので、
なんとか間に合わせました、みたいな。
糸井
あーー、なるほどね。
岩田
たとえば、わたしが、去年のクリスマスに
「どうしても年末の軸になるソフトが必要だから、
『ゼルダ』の新作を出してくれ」って言ってたら、
商品のようなものは出せていますよ、きっと。
だって、それまでのあいだに、
それだけの時間とエネルギーをかけてますから。
糸井
でも、この『ゼルダ』にはならなかった。
宮本
ならなかったですね。
岩田
絶対ならない。
糸井
つまり、たっぷり1年かけて仕上げている。
宮本
そうですね。
半年ぐらいを、純粋な制作にあてて、
もう半年間を、チューニングにあてたんですよ。
糸井
いったんできちゃってから
やったことが、大きいんですね。
宮本
うん。そこまで粘る必要があるくらい、
つくってたものが大きかったんです。
あと、もったいないっていうことですね。
すっごいつくりこんで、いいものができてるので、
きちっと仕上げないともったいない、っていう。
岩田
それまでのあいだに積み重ねた
おもしろい素材がいっぱいあったんですよ。
その素材をちゃんとゲームのなかに
詰め込んでいくっていう作業を
最後に時間をかけてやったんです。
だから、そうとう、濃密です。
宮本
うん。
糸井
はーーー。