岩田
今日はまず最初に、青沼さんが
日米欧の3拠点のコンサートツアー(※1)をひとまわりした、
その体験からお訊きしたいと思います。
わたしはちょうど出張と重なってしまい、残念ながら
どのコンサートにも参加できなかったんですけど、
どのコンサートもすごく盛り上がったみたいですね。
※1
コンサートツアー=『ゼルダの伝説』生誕25周年を記念し、日米欧で開催された「ゼルダの伝説 25周年 シンフォニー オーケストラコンサート」。日本では2011年10月に開催。
青沼
そうなんです(笑)。
本当にありがたいことに、
ご来場いただいたみなさん口々に
「素晴らしかった!」と言ってもらえて・・・。
岩田
涙を流して聴かれていたお客さんも
たくさんいらっしゃった、と聞いています。
青沼
そうなんです。
じつは僕自身もそうだったんですが、
生のオーケストラを聴くことで
自分のなかのいろいろな気持ちが刺激されて・・・。
うるうるしたり、
高揚して背筋がぞくぞくしてしまう感覚が、
コンサートの間、ずっとありました。
岩田
一瞬の場面だけではなくて、
コンサートの間中
ずっとそうだったんですね。
青沼
はい。日本では、本当にたくさんの方が
涙を浮かべながら聴いてくださって。
司会者の方も驚かれるほどでした。
岩田
きっとみなさん、
自分がそのゲームを遊んでいたときの
記憶も含めて思い出すんですね。
音楽には、記憶を呼び覚ます力がありますから。
青沼
しかも、海外のコンサートでは
演奏中、スクリーンにゲーム画面が映されていたんです。
それもあって、自分の場合は
つくっていたときのことを思い出してしまって・・・。
岩田
ああ、そうか(笑)。
青沼さんはつくっていたときのことを
思い出したんですね。
青沼
はい。つらいこととか、いろんなことを(笑)。
その頃の記憶が、ありありとよみがえってしまいました。
岩田
アメリカ・ロサンゼルスのコンサートでは、
みなさん、絶叫しながら聴いていたそうですね(笑)。
青沼
すごかったです、アメリカは。
岩田
最初にこの話を聞いたときは、
ロックならともかく、
クラシックのコンサートで
絶叫という表現はちょっと大げさなんじゃない?
って思っていたんですが・・・。
青沼
それが、本当に絶叫なんです(笑)。
もちろん全編ではないんですけど、
音楽と絵が切り替わるたびに
「うわぁー!!!」って。
岩田
へえー(笑)。
青沼
居ても立ってもいられない、っていう気持ちが
声になって出ちゃうんでしょうね。
静かに聴いている場合じゃない、っていう・・・。
岩田
国民性の違いなんでしょうか。
自分の感情を表現することに躊躇のない西洋の文化と、
一定の自重を美徳とする日本の文化、というか。
青沼
そこは、まったく違いましたね。
岩田
イギリスはアメリカとは違う印象がありましたか?
青沼
「アメリカほどの絶叫はないと思う」
と事前に聞いていたんですけど、
そんなことはなかったです(笑)。
曲の始まりや曲の間は比較的静かなんですが、
曲が終わったあと、すごい拍手と歓声が・・・。
岩田
「うわぁーっ!!!」っていう感じですか?
青沼
はい(笑)。
そうなるともう、同じです。
ロンドンはゲストとして
ゼルダ・ウィリアムズ(※2)さんが登壇されて
ショーアップされた感じが印象的でした。
※2
ゼルダ・ウィリアムズ=アメリカの映画俳優ロビン・ウィリアムズさんを父に持つ女優。名前のゼルダは、父親ロビンさんが大の『ゼルダ』ファンであることに由来した本名。欧州では『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』のTVCMにも登場。
岩田
アンコールでは、
近藤さん(※3)がソロピアノを披露したんですよね。
※3
近藤浩治=任天堂情報開発本部制作部所属。これまで、『スーパーマリオ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズなど、数多くの作曲を担当。
青沼
そうなんです。
近藤さんがあまりにも格好よすぎて、
(身もだえしながら)僕もピアノ弾きたいっ!
ってなりました(笑)。
岩田
あははは(笑)。
『風のタクト』(※4)の曲を弾いたと聞きましたが、
曲目は何だったんですか?
※4
『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。ゲームキューブ用ソフトとして、2002年12月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
青沼
「おばあちゃん」でした。
すごくピンポイントな曲だったんですけど、
みなさんご存じで。
あと何がすごいって、近藤さん、
ぜんぜん、練習していないんです。
岩田
えっ? リハーサルなしのぶっつけ本番なんですか?
青沼
そうなんです。
近藤さんいわく、
「この曲は間違わないから選んだんだ」って(笑)。
むしろ、その後のスピーチの方がドキドキしたそうです。
岩田
近藤さんらしいですね(笑)。
青沼
近藤さんが情感たっぷりに演奏を終えた瞬間、
会場総立ちの、スタンディングオベーションで・・・。
まさに「巨匠ここにあり!」という感じでした。
岩田
うん、それは素晴らしいですね。
青沼
でも、3つの場所全部に言えるのは、
感動の表現はさまざま違っていても、
みなさんの心のなかにある想いは
一緒なんだということだ思います。
岩田
今回、青沼さんはコンサートに同行しつつ、
海外のメディアの取材も受けられていますよね。
手ごたえはどうでしたか?
青沼
かなり強い手ごたえがありました。
岩田
青沼
はい、そのうえ、ほとんどのみなさんが、
「『スカイウォードソード』は
『ゼルダ』シリーズ史上、最高傑作だ!」
と言ってくださるんです。
岩田
これまではずっと『時のオカリナ』(※5)が
最高傑作と言われていましたけど。
青沼
もちろん、『時のオカリナ』以降のタイトルも
それぞれ評価をいただいているんですが、
「そのレベルを遙かに超えている」
と言ってくれるんです。あと、
「なぜ、それができたのか?」と。
盛んにみなさんから理由を聞かれるんです。
でも、それにひとことで答えるのがとても難しくて・・・。
※5
『時のオカリナ』=『ゼルダの伝説 時のオカリナ』。1998年11月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム。2011年6月には、リメイクされたニンテンドー3DS版『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』が発売。
岩田
では、その「なぜできたのか?」は
この後また、じっくりお訊きします。
そのほか、今回の世界横断ツアーで
印象的だったことはありますか?
青沼
欧州のメディアの取材がちょっと変わっていました。
熱狂的なファンの方を招待して、
僕の取材に同行させる、というものでした。
岩田
ファンの方たちが
直接、青沼さんに質問したんですか?
青沼
はい。『ゼルダ』のムービーの
創作コンテストで入賞した方なので、
みんなとにかく『ゼルダ』が大好きなんです。
岩田
そのムービーはどんなものなんですか?
青沼
2Dのゼルダを、紙細工でコマ撮りしたもので、
それだけでもすごいんですけど、
シリーズ全作の要素がすべて詰め込まれているんです。
1週間かけてつくったそうなんですけど、
絶対そんな期間じゃつくれないくらい、
凝っているんです。
岩田
ありがたいですね。
そんな熱心なファンの方たちが
青沼さんに聞きたいこと、話したいことって
どんなことだったんですか?
青沼
まずはやっぱり、
自分が好きだったタイトルのことですね。
それからその後に必ず、
「この『スカイウォードソード』は、それらを超えています」
と訴えてくるんです。
岩田
でも、そのファンの方々は
メディアのレビューをしてくださった方々と違って
まだゲームにはさわっていないんでしょう?
青沼
はい(笑)。そのはずなんですけど
「画面を見ればわかる!」って言い切るんです(笑)。
「こんなことも、あんなこともできそうだから!」って。
たしかにそれは当たってるんですけど。
岩田
実際にプレイせずとも、
動画から得られる情報を自分なりに読み解いて、
受け止めてくださっているんですね。
青沼
そうみたいです。
で、結論として、
「とにかく早く遊びたい!」って。
岩田
それは期待とはまた違った何か、なんでしょうね。
一般の方にはまだゲームの価値って、
ほんの少ししかお伝えできていない状況で、
普通こんなことは、ありえないですから(笑)。
青沼
それが今回は、ファンの方々に
しっかりと伝わっているようなんです。
実際にメディアの方やファンの方々と話をして、
そこから伝わってくる情熱から、
今回の濃密さを感じとってもらえている、
という手ごたえみたいなものを感じました。