岩田
さてここからは、
いつもの「社長が訊く」とは
ちょっと趣を変えていきたいと思います。
今回『スカイウォードソード』のデバッグでは、
すごくたくさんの方に、何百時間もの長い間、
プレイしていただきました。
青沼
600〜700時間はザラで、
なかには1000時間という方もたくさんいます。
岩田
それだけプレイしたら普通、
「もう二度と見たくない!」って
思う気がするんです。
でも、その方たちはみんな口を揃えて、
「商品が出たらまた買って遊びたい」と、
言ってくださっているそうなんです。
青沼
本当にそうなんですよ。
けっして、社交辞令とかではなくて。
岩田
それを聞いてわたしは、
「彼らがデバッグのなかで感じたものは何なんだろう?」って、
とても興味を持ったんです。
そこで本来であれば、その方たち全員を招いて
お話を伺いたいところなんですが、
それはさすがに無理なので・・・。
青沼
はい(笑)。
岩田
彼らに、意見や感想をコメントとして書いてもらって、
バーチャルにこの「社長が訊く」に
参加していただけないか、と提案したんです。
青沼
いわば「社長が訊く マリオクラブ(※6)篇」的な企画ですね。
※6
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
岩田
はい。コメントは、日本のマリオクラブ、
そしてアメリカ、欧州、韓国で、デバッグや翻訳などに
携わっていただいた方々にご協力をいただきました。
それらをご紹介しながら、お話ししていきたいと思います。
●
初回プレイよりも2回目、3回目と、
やればやるほどおもしろく、新鮮さを感じました。
なぜそうなのかという答えが出てこないところに
魅力を感じます。
青沼
この方は韓国の方で、880時間プレイした方です。
岩田
いきなり880時間ですか・・・(笑)。
青沼
はい(笑)。
「やればやるほどおもしろく」っていうのは
まだわかるんですけど、
「新鮮」っていうのはどういうことなんだろう?
って思いますよね。
岩田
知ってるところを繰り返しやったら、
普通、新鮮には感じられないはずですが・・・。
青沼
そこなんですが、その理由をもう少し具体的に、
欧州の別の方が挙げられています。
●
謎解きの別の解法はもちろんですが、
敵の新たな倒しかたをみつけるたびに、驚かされます。
やりかたを少し変えたり、別の順番を試したり、
偶然に以前とは違った動きをしただけで、
そういった発見が生まれます。
青沼
この方はプレイするたびに「敵の新たな倒しかた」が
みつけられる、ということを言っているんです。
岩田
・・・それは、Wiiリモコンプラス(※7)のおかげで、
表現力とバリエーションが増えたことが
影響しているんじゃないですか?
※7
Wiiリモコンプラス=2010年11月に発売された、Wiiモーションプラス(ジャイロセンサーを内蔵し、細やかな動きを感知できる周辺機器)と一体型のWiiリモコン。
青沼
そうなんです。
組み合わせ自体が無限にあるわけで、
何度も遊んで経験すると
自分の腕も上がってきて、
同じ場面でも必然的に、
違ったやりかたになるんです。
それで、そのやりかたを試すと
また別の、新たな発見があって・・・。
岩田
ああ、だから何百時間遊んでも、
まだ遊びたい、となるわけですか。
青沼
まだやり残してることがある、と
感じられるようなんです。
岩田
青沼さん、
そういったことはたぶん、
これまでの1人で遊ぶゲームでは
前例のないことだと思いますよ。
青沼
たしかに、デバッグのとき、僕も
何度も同じ場面をプレイしていましたけど、
苦ではなかったです。
岩田
苦にならなかったのは、なぜなんですか?
青沼
まあ、僕の場合は、まだ開発途上で
ゲームがどんどん改良されていったのもありますが、
人から見たり聞いたりした攻略法を
試したくなるんです。
僕のやりかたはじつはダサいやりかたで、
もっとスマートなやりかたがあったりしたので(笑)。
岩田
なるほど(笑)。
とは言っても、マリオクラブの方たちは、
ゲームを極める最良ポイントを
いとも簡単にみつける、熟練のスタッフたちですよね。
その彼らをもってして「まだ奥があるぞ」って
言わしめるのは、やっぱり相当なことなんじゃないか?
って思います。
●
これまでの『ゼルダ』シリーズをプレイしていて
楽しいと感じる大きな要素は謎解きだったんですが、
今作ではそれに加えて、戦闘の楽しさが大きな魅力でした。
弱点を探したり、場面ごとの攻撃の反応を探るのが楽しい。
戦闘中に頭を使ってうまく敵を倒せると、
それがもうたまらない爽快感。
戦闘がとても楽しいです。
岩田
これは、わたしがとても新鮮に感じたコメントです。
すごく端的に、魅力を表現されていて、
ありがたいなと思いました。
青沼
そうですね。僕は海外のメディアの方に、
「戦闘も、謎解きになりました」って答えていたんです。
本当にふっと素直に、その言葉が出てきました。
岩田
今回は作り手が用意した謎解きのほかにも、
戦闘の謎解きが無限にある、ということですね。
青沼
ボタンで行っていた戦闘とは違って、
いろいろ試すと、それに応じた反応の変化が発見できる。
それが楽しい、っていうことを
メディアのみなさんもおっしゃってくれました。
岩田
そこが、みなさん共通した点なんですね。
青沼
はい。そういう意味では、
『ゼルダ』はもともと1人で遊ぶゲームですけど、
今回の『スカイウォードソード』は
みんなで遊ぶともっと楽しいんじゃないか、って
ずっと思ってるんです。
岩田
なぜ、そう思うんですか?
青沼
まず、人がどんな風に遊んでいるのか気になりますし、
逆に見せたくなる感覚もあったりします。
そんな気持ちが、これから遊ぶ方のなかにも
自然と生まれてくるんじゃないかな、って気がするんです。
友だちや兄弟、家族みんなでわいわい遊ぶ。
これは過去の3D『ゼルダ』にはありえないことだったんですけど、
やったらすごくおもしろいです、きっと。
岩田
そんななかには、スマートな戦いかただけじゃなくて、
むやみに振り回すからみつかる新しい発見も
さらにあったりしそうですよね。
●
リンクが剣を手にした最初の数分間で、
Wiiリモコンプラスを手にしたことで起こる
リンクとの一体感に驚かされた。
それと同時に、この後しばらくの間は、
Wiiリモコンプラスを滅茶苦茶に振る、
自分のくせと戦わねばなりませんでした。
敵を倒すには、敵の弱点を観察し、
それに応じた正確な動きが必要になるからです。
ただし、この悪いくせを克服し、
俊敏な操作と鋭く正確な剣さばきをマスターしたとき、
ザコ敵から大ボスまで、
あらゆる戦いの本当の醍醐味が、明らかになります。
●
いままでの『ゼルダ』と何が違うのかと言われると、
自身のリンクに対する扱いが変わっています。
いままでは「リンクを操作する」でした。
が、今作は「リンクになる」=自分そのもの、なので
この点がまったく違います。
青沼
1つ目のコメントは、
フランスの翻訳のリーダーの方です。
岩田
自分の体験を語るように、
Wiiリモコンプラスになじんでいく様子が
目に浮かんできますね。
青沼
欧州の方はけっこう、自分が感じとったさまを
物語のように書いてくださって、
読んでいて気持ちが伝わってきます。
ゲームの世界に没入した気持ちそのままを
表現しなきゃ気がすまない、みたいな感覚なんですね。
岩田
2つ目は、本編をなんと20周!した方のコメントです。
青沼
「リンクになる」って、深いですね。
岩田
『ゼルダ』はリンクが画面内に見えるから
それを操る「3人称視点」(※8)のゲームなわけですけど、
それにとらわれない一体感のようなものを
感じていただけたんですね。
青沼
いままでは、1人称視点(※9)の目線じゃないと
没入できない、っていう固定観念があったように思うんです。
ところが『スカイウォードソード』は、
その概念を覆すことができているのかもしれない、と
このコメントを読んで感じました。
※8
3人称視点=画面内に映し出されているキャラクターを見ながら操作する視点(でプレイするゲーム)。3rd Person Viewとも呼ばれる。
※9
1人称視点=画面を見たプレイヤーの視点がそのままゲームの操作キャラクターの視点(でプレイするゲーム)。広くはFPV(First Person View)と呼ばれることが多い。