14. 「まずまず」は困る

宮本

でもね、みんな、最初は自分がつくったものに対して
当たり前に責任感を持ってたと思うんですよ。
ところがやっていくうちに、
だんだんと売上を計算するようになったり、
コストパフォーマンスを考えるようになっていって、
もちろんそれ自体はいいんですけど、
その、責任感がね、どこか他人事になっていく。

糸井

ああ、他人事ね。

宮本

だから、つくったものを、見せるときも
「こんなところで、いいんじゃないでしょうか」
みたいなことを言ったりする。
そういうのがぼく、すごく納得できないんですよ。

糸井

ああー、はいはい。

宮本

ディレクターに
「どう、仕上がりは?」って聞くと、
「まずまずじゃないかと思います」
っていう答えが返ってきたりする。
「まずまず」なんていう言い方はないでしょう。

糸井

おおー。

岩田

そういうときは宮本さん、
ものすごく厳しいんですよ(笑)。

糸井

いや、わかりますよ。
「まずまず」は困っちゃいますよね。
まぁ、うちと任天堂を比べても意味ないんだけど、
うちでは・・・うん、「まずまず」はつかわないね。

岩田

どんなことばがつかわれてるんですか?

糸井

うーん、なにを言ってるんだろう。

宮本

でも、「どう?」って聞かれて、
「ちょっといいんですよ」っていうのは勇気いるでしょ。

糸井

うーん、そうだね、
「ちょっといいんですよ」っていうのは、
「いいです」ってことだからね。

宮本

ですよね。

糸井

あ、でも、こっちが「いいじゃん」って言うと、
「いいでしょう?」っていう答えが返ってきたりする。

岩田

あーー、言うまでは黙ってるけど。

糸井

うん。手応えを感じてるわけだよね。
うまくいくプロジェクトの場合はそんな感じだよ。

岩田

なるほど。

宮本

それに比べると、「まずまず」って、
なんにも言ってないのといっしょですよね。
100パーセントのうちの、
10なのか、80なのか、60なのか、
それすら言ってないっていう感じがしますよね。
だから、「まずまず」って、誰も責任を持ってない。

岩田

絶対値の軸がない状態でしゃべるから、
気持ち悪いんですね。

宮本

そうなんです。

糸井

俺はだから、そこのところで、
作品論に入らずに、姿勢の問題にやっぱり、頭がいくね。

宮本

ああ、ああ。

糸井

俺がやっぱりいちばん腹を立てるのは、
バッターボックスに立ってるっていう
よろこびが感じられないとき。

宮本

ああー、それですね。

糸井

それは、やっぱり怒るね。
みんな打ちたいに決まってるのに、
バッターボックスに立ってるやつが・・・。

岩田

やる気なさそうに。

糸井

うん。
振るだけ振って帰って来ました、みたいな。
しかも、「悪かったですか?」みたいな開き直りがあると、
「ちょっと失敬じゃないか、世界に対して」みたいな。

宮本

そう、そう。
ぼくが感じてることと、すごく似てます。

糸井

そうですか。
で、結果がね、ただのセカンドゴロとか、凡フライとか、
それは俺、けっこう許す。
でも、バッターボックスに立ってるときに、
打ってやろうとか、なんにも思わずに、
ああ、1打席だったー、みたいなことだと、
年に1回2回は、怒る。

岩田

はい。