17. 絶対ダメなわけじゃない

糸井

自分がストップさせたはずの企画を、
自分のチームの若い子とかが、
知らないうちに進めてて、
それがすごくおもしろかったっていうような経験ある?

宮本

あ、ありますよ、いくつか。
とめてるのは、危ないからとめてるだけで、
絶対ダメっていうことはないので。

糸井

ああ、そういうことなんだ。

宮本

そうですよね。
絶対ダメじゃないけど、危ないから。

岩田

勝算の問題ですよね。

宮本

そうそう、勝算が低いっていう。

糸井

はぁー。

岩田

で、やっぱり、コンピューターの仕組みを
つかってつくるものですから、
何を組み上げるにも、ひとつひとつ細かいことを
積み上げていく必要があるんです。
だから、勝算の低いものに投資をすると、
すごくエネルギーをたくさん投じて、
結果、それをぜんぶ捨てなきゃならない
ってなる可能性が大いにある、
っていうときに、それをとめるのが、
やっぱり宮本さんの目であり、経験なんですよ。

糸井

うーん、なるほど。

宮本

だから、どっちかっていうと、
とめてたやつも、うまく出口が見えたら手伝いますよね。
あの、『マリオ64』(※4)で、クッパの尻尾をつかんで
ぐるぐる振り回すアクションがありますよね。

糸井

はいはい。

※4

『マリオ64』=『スーパーマリオ64』。1996年6月に、NINTENDO64用ソフトとして発売。マリオシリーズ初の3Dアクションゲーム。

宮本

あれはけっこう、とめてたんですよ。

糸井

え、なんで?

宮本

絶対ダメ、とは言ってなかったですけど、
「ああ、もうそっちは行くな」って。
危ないなぁっていうぐらいの気持ちで。
で、あるきっかけでプログラムがうまく動いて、
めどが立ったので、これはもう、それをメインで行こうと。

糸井

へぇー(笑)。

宮本

プログラムの仕組みとしてクッパを振り回すというのは、
親となるオブジェクトに
子どものオブジェクトをくっつけて、
親が動いたら子どももいっしょに動く、
っていうシステムなんですけど、
これ、やろうとするとかなり重いシステムなんですよ。

岩田

NINTENDO64のハードと同時に
開発を進めていたソフトですから、
どれだけの計算処理ができるハードなのかが
誰にもわからないので、
重い処理を前提にした仕組みでは、勝算が低いんですね。

糸井

あー。

宮本

ところがこれがちゃんと動いたので、
もう、クッパを振り回して
投げるのを前面に出して使おうと。

糸井

つまり、当初それをとめたのは、
企画の方向性というよりも、
実行力として難しいなと思ったということですか。

宮本

そうですね。

岩田

やっぱり、物事を仕組みで考えていますから。

糸井

なるほどねぇ。
いや、おもしろい。