宮本
昔、あるプロ野球の選手がね、
負けてる試合で大フライを打ったんですね
フェンス間際の。そして
ちょっとニヤッとしながら帰ってきたんですね。
糸井
ああ(笑)。
宮本
あれを監督はどうして叱らへんのかなと思って。
観てるほうはアウトになってがっかりですから。
糸井
うん、うん。
当人は、「惜しかったな」と思いながら、
ベンチに帰ったんでしょうね。
宮本
そう。
つまりアウトに終わったという意味では
フェンス際の大フライも三振もいっしょですよね。
それを「まだマシやったかな」っていうふうに
思ってほしくないんですよね。
プロには、アウトになったことを
しっかり悔しがって欲しいですよね。
岩田
「面目が立った」といって
満足してる感じがイヤなんですね。
宮本
そうです、そうです、
その「面目立った感じ」がイヤなんです。
面目は立ってもしょうがない。
そりゃ、140キロの球を打ち返すだけでも
すごいことですけどね。
糸井
それはどっかで、覚えるのかしらねぇ。
宮本
うちなんかでも、組織のなかで、
ディレクターという役割とか肩書きがつくと、
いま岩田さんが言った、
ディレクターとしての帳尻とか面目とかが前に出てくることがあって、
そこで失われていく情熱というか
「必死さのなさ」が、なんか、ちょっとイヤなんですよ。
糸井
「必死」ね。「必死」はキーワードだなぁ。
宮本
ですよね、なんか、そこは。
岩田
「面目」について考える人は、「必死」じゃないですよね。
糸井
そうですね。
「面目」と「必死」は真逆のことばですね。
岩田
逆なんですよね。
宮本
そう、きっとそうなんですよ。
糸井
あの、この間、
『困ってるひと』っていう本を書いた
大野更紗さんにお会いしたんですよ。
岩田
ああ、大野さんとお会いになったんですか。
糸井さんからおすすめされたあの本はすごかったです。
糸井
おもしろかったでしょう?
彼女は26歳の女性なんですけど、
まぁ、いわゆる難病を抱えている人でね、
そのぶん、生きてる時間が濃いんです。
岩田
ものすごくめずらしい自己免疫性の病気で、
原因がわからなくて、そもそも病名がわかるまでに、
ものすごいたいへんな思いをして、
かつ、それは治療法が確立されてる病気ではないので、
毎日の生活がほんとうにたいへんなんですけど、
でも、一方でその人の書く文章は、
客観性とユーモアに満ちていて、
ものすごく魅力があるんですよ。
宮本
へぇー。読んでみよう。
糸井
その大野さんとお会いしたときに、
まぁ、手前味噌になるんですけど、
わたしは糸井さんを信用しているんですって
言ってくださったんですね。
で、その理由として、
「糸井さんは必死だから」って言ったんですよ。
宮本
ほう。
糸井
で、俺、「必死」って言われることって、
世間一般的には、あんまりないことで。
一同
(笑)
岩田
どちらかというと、
そう思われてない人の典型でさえある(笑)。
糸井
そうそうそう(笑)。
マンボウとかナマケモノみたいに
思われてるところがあってさ。
とくに、一回も会ったことのない人からは。
楽しいことだけしてていいですねー、みたいな。
一同
(笑)
岩田
その糸井さんを、ひと目で「必死だ」と。
糸井
うん、そう言われてね、
まぁ、こう言うのは口幅ったいですけど、
ほんとうはこの人はわかってるなぁと思った。
ほら、俺は、自分が必死だっていうことは、
俺だけは知ってると思ってるから。
岩田
まぁ、必死じゃなきゃ、ほぼ日刊イトイ新聞を
13年間、一日も休まず毎日更新するなんてことを
できるわけがないので(笑)。
糸井
で、「あ、そう見える?」って大野さんに言ったら、
「やっぱり、新しいことをやるときは
誰だって必死ですからね」って言ったの。
宮本
ほう、ほう。
糸井
その答え方もいいでしょう?
つまり、やったことあることは、
「面目」も守れるし、「形式」も守れて、
1のつぎは2ですね、みたいなことができるんだけど、
やったことないことは、
うまくいかないに決まってますからね、って言うんだ。
ああ、そのとおりだなぁと思ってさ。
岩田
はい。