3. “曲を選ぶ楽しみ”
岩田
お待たせしました。
いよいよ『Wii カラオケ U』についてですが、
まず吉満さんが今回のWii U版に
かかわることになったキッカケはなんですか?
吉満
はい。『カラオケJOYSOUND Wii』につづく
新たなカラオケの企画を考案中に、
ちょうどWii Uの発表で
はじめてWii U GamePadを見た瞬間、
「あ、これはキョクナビだな」と思って、
「これはもう企画を出すしかない」と思ったんです。
岩田
そうなんですね。
カラオケのことを1日中考えている人が見ると、
Wii U GamePadはキョクナビに見えるんですね(笑)。
吉満
はい(笑)。
そこでさっそく企画書を書きました。
ただ、ちょうどその折、山上さんからも
カラオケのお話をいただいていたんですよね。
山上
じつはトーセの社長さんからも、そのちょっと前に
カラオケの提案をいただいていたんです。
でもその時は、まだWii Uを発表していなくて、
企画もWiiで、ということだったんです。
でも、「これは絶対にWii Uでやりたい」と思って、
それで社長さんに「1週間お待ちください」
とお伝えして、Wii U発表後に改めてお返事をしたんです。
そしたら吉満さんからすぐに企画書があがってきたので、
「(深々とおじぎしながら)これをやらせてください」
って何も言わず、岩田さんに差し出したんです(笑)。
岩田
山上さんが、ああいう出しかたをするのは
めずらしいですよね。
山上
なぜ恐る恐る出したかといえば、
「もうすでに誰かがやっているのではないか」
と思ったからなんです。でもまだ誰もやってませんでした。
せっかくつくるのであれば、わたしは、
カラオケは多くの人に親しみがあるので、
「最初から本体に内蔵したほうが喜ばれるだろう」
と考えました。
吉満
わたしはあまりにも
前例がなさすぎる内容でしたので、
「はたして、いけるだろうか?」
という気持ちが正直、ありました。
岩田
どういうところが
「前例にない」と感じていたんですか?
吉満
トーセとしては本体内蔵ソフトをつくるのが
はじめての試みになるからです。
カラオケは、一見シンプルに見えると思いますが、
じつは、いろんなことが同時に起こっていまして、
たとえば、曲を読み込みながら再生したり、
マイクにエコーをかけたり、
歌に合わせて映像を流したり、
曲の検索を行っていたり、
見えないところでは、次の曲を読み込んでいたり、
チケットの有効期間を確認していたりですね。
これらの機能を、プリインストールの段階から
フル実装するという点に、前例がないと感じていました。
それから、これまでのソフトは、
カラオケが好きな方が買われて楽しむものでしたが、
今回は、とくにカラオケに慣れていない方も対象になるため、
そういった点もあわせて、前例にないと
当初は感じていました。
山上
でも、じつは大きなハードルがひとつあって、
Wii Uにカラオケを入れることについて、
宮本(茂)さんからこんなお話があったんです。
「Wii Uがオフラインのお客さんにも、
“曲を選ぶ楽しみ”を体験してもらいたい」と。
岩田
「Wii Uをインターネットにつないでいない方も、
カラオケの楽しさを味わえる仕組みをつくってほしい」
ということですね。
山上
はい。しかも、通信カラオケの楽しさは
「歌うこと」と「曲を選ぶこと」にあるので、
「体験版で10,000曲ぐらい選べるものにしたい」
と言われたんです。
岩田
宮本さんはそのときすでに
「たとえば10,000曲」と言っていたんですか?
山上
はい。
岩田
では、そのとおりになったんですね(笑)。
山上
はい、そうです(笑)。
そこで中谷さんにご相談にうかがいました。
わたしも多少、音楽著作権の知識があったので、
そのことの難しさはわかっていましたから、
「わたしひとりの力ではとてもダメだ」と思って、
「歴史の長いエクシングさんのお力を
お借りできないだろうか?」と考えたんです。
岩田
すみません、無理難題を申し上げまして・・・。
中谷・伊神
いえいえ(笑)。
岩田
「何を言うんだ?」と思いませんでしたか?
中谷
そうですね(笑)。
ただ、今回はあくまで「ディスクの商売ではない」
ところがカギだったと思います。
岩田
「お客さんにネットワークビジネスの
入り口に入っていただくための体験を、
ネットワークにつなぐ前にしていただく」
ということが今回のポイントですかね。
中谷
はい。なので
「商業目的でないなら可能性はあるかな」と思いました。
山上
くわしくはお話しできない
いろんな苦労はありましたが、
いろいろJASRACさんにお話をした結果、
ネットワークの疑似体験として
われわれが望んでいるライセンス許諾モデルに
まとめることができました。
難しい相談でしたので、許可をいただいたときは
思わず鳥肌が立ちました。
岩田
それほど今回の相談は、
任天堂にとって過去に例のないチャレンジだったんですね。
こうして『トライアルディスク』(※24)によって、
本来、ネットにつながないとできなかったことが、
曲数制限と有効期限がつくものの、
体験できるようになったんですよね。
宮本さんからの難題はクリアしましたが、
しかし、それだけでは終わりませんよね?(笑)。
山上
はい(笑)。
正式にスタートしたのはいいものの、
恥ずかしながら、わたし自身は
ほとんどカラオケに行ったことがありません。
そこでカラオケ好きなスタッフを加えたんですが、
逆に好きすぎてマニアックになってしまい、
わかりにくいところを指摘しても話が通じません。
「これはやばい!」と思って、
『ガールズモード』(※25)で
忙しかった服部さんを巻き込んだんです。
岩田
服部さんの“未経験者の目”を活かして、
できあがったソフトがこれまでもありましたけど、
「その目を今回も使おう」ということですね。
山上
はい。宮本さんも言われていたように、
「カラオケの楽しさは歌うことと、選ぶことである」
というキーワードを服部さんと共有していきました。
岩田
山上さん、好きなだけ夢を語って、
忙しい服部さんに仕事を渡したんじゃないですよね?(笑)
服部さん、災難でしたか?
服部
・・・はい(笑)。
でも、『ガールズモード』が運よく、
発売よりちょっと前に完成していたので、
ピークがずれて、何とか実現できました。
岩田
実際に入ってみてどうでした?
服部
・・・・・・はぁ・・・(深いため息)。
一同
(笑)
岩田
この深いため息には、
どんな意味があるんでしょうか!?(笑)