岩田
『ゾンビU』のゲームデザインについて、
もう少し突っ込んだお話をお訊きしたいんですが、
今回、あえなくやられてしまったプレイヤーは
「自分がゾンビとなってしまう」という、
いままでにない変わった設定がありますよね。
ギオム
ゾンビをテーマにすると決まったとき、我々は
「クラッシックなゾンビ映画と同じ感情を
プレイヤーに味わってもらいたい」と考えました。
登場人物がひとりずつ順番にやられていき、
そしてあるときは、ゾンビとなり、襲い来る友を
倒さなければ「自分がやられてしまう」という、
究極の選択、「葛藤」といった感情です。
岩田
「よりゾンビらしいテーマとは?」
を追求していったわけですね。
ガブリエル
でもそれはある意味、
ゲームのプレイヤーとしては
「やられたくない」と思う気持ちがありつつ、
ゾンビストーリーとしては、
「次は自分の番だ!」と無意識に、
襲われるのを期待している気持ちもあると思うんです。
そういったフィクションストーリーならではの
不思議な感覚も満たす必要がありました。
ギオム
ゲーム中、プレイヤーキャラがやられてしまうと、
現実のプレイヤーの手を離れ、
変わり果てた姿でロンドンを徘徊し、
新たな獲物を探しはじめます。
岩田
それは奇妙な気分でしょうねぇ(笑)。
現実のプレイヤーはそのとき
どうすればいいんですか?
ギオム
現実のプレイヤーは、やられてもなお、
再度チャレンジを望みますから、
当然、そこで終わりにするわけにはいきません。
これに対する答えはきわめて明快で、
別の新たな生存者として、
その世界に呼び出される仕組みにしました。
岩田
まったく別の人間としてですか?
ギオム
そうです。性別や年齢、人種など
さまざまなプレイヤーキャラが現れます。
ザビエ
ひとつには、やられてゾンビになってしまったら
やられる前のシーンからやり直し・・・
というゲームの世界の暗黙のルールを、
くつがえしたかったんです。
岩田
へえ~、それは設定上、
単に「プレイヤーキャラが変わる」
というレベルではないんですね。
ザビエ
はい。プレイヤーキャラが倒されたとき、
持っていたバックパックは、
まさにそのままで、ゾンビと化した
前のプレイヤーキャラが持った状態になっています。
新たにその世界に呼び出されたプレイヤーキャラは、
何も持たない新たな生存者として、
生き残りをかけてそのバックパックを
1体のゾンビから奪い取るところからはじまります。
岩田
ああ、つまり
前のプレイヤーキャラだったゾンビを
自分の手で倒さなくてはいけないんですか。
ガブリエル
そのとおりです。
『ゾンビU』の世界において、
プレイヤーがその物語の主人公として
最後まで生き残る主人公である保証は、
「限りなくゼロに近い」と思います。
岩田
なるほど・・・。
すると、ストーリーを見せていく際、
けっこう工夫が必要だったんじゃないですか?
「ひとりの主人公が途中、さまざまな経験をして、
その結果、最終的に目的を達成する」といった、
一本道視点のストーリーにはできないわけですから。
ガブリエル
そういう意味では『ゾンビU』は
これまでに他のゲームではまったくなかった
新しいストーリーテリング(※36)の形になったと思います。
今回のプレイヤーキャラは
従来の意味での主人公にはなりえないので、
ストーリーは周囲の環境を変化させることで
展開していくものになっています。
ゾンビがはびこる世界が
どのような結末を迎えるのかを、
現実のプレイヤーはさまざまに姿を変えつつ、
視覚的に体験するんです。
岩田
ある意味、主観視点ではない、
客観的な世界をまるごとつくったわけですね。
その中に次々といろんな出来事を仕掛けて、
プレイヤーはそれを体験することで、
全体のストーリーを理解するという
つくりかたをされているんですね。
ガブリエル
そうです。
今回のストーリーテリングにおいて
きわめて重要だったのは、
「ステージデザインの持続性」でした。
岩田
それは具体的にはどういうことですか?
ガブリエル
新しい生存者がゲームを再開したとき、
前のプレイヤーキャラが解除したドアや、
発見したミッションアイテムは
「出発地点となる隠れ家にある」
といった恩恵を受けられます。
倒したゾンビは基本的に生き返ることはありません。
そして前のプレイヤーが
やられた場所にたどり着くことで、
そこからストーリーがふたたびつながっていく、
いわば“リレー”のようなものです。
岩田
そう聞くと一見、
きれいで自然な答えではあるんですが、
その答えを出すまでにはきっと、
たいへんな苦労をされていますよね?
ガブリエル
えー、言わないほうがいいかもしれませんが・・・
思いつくのはじつは簡単でした(笑)。
ただ「もしこうだったら、こうなる」という
いろんな“もしも”がプロジェクトの後半になって
途方もない量になってしまったため、
そのすべてに対処するのが、かなり複雑な作業でした。
人のとっさの判断というものは、
ときに思いも寄らぬことを起こすものなので(笑)。
ザビエ
本当にたいへんな作業でしたが、
でもそこは、テストプレイと
プロトタイプがおおいに役立ちました。
岩田
一方で、今回はおそらくイブさんから
「絶対にローンチタイトルにするぞ」という
至上命題が出ていたと思うんです。
その「タイムリミット」と「新しいチャレンジ」、
そして「いいものにするためのこだわり」と、
3つの要素がせめぎ合っていたと思うんですけど、
そこはどうやってクリアしたんですか?
ガブリエル
それは・・・「あまり寝ない」ことですね。
岩田
あははは(笑)。
それは世界共通ですかね。
ギオム
もうひとつ言うと、チームのメンバーは
毎回少しずつゲームを披露するたびに得られる
ユーザーやメディアの評判に、
おおいに刺激を受けてきました。
なかでもE3は、大きな後押しになりました。
チームみんなが作業を続け、正しい決断をして、
ときに必要となる仕様のカットを適切に行うため、
ユーザーのみなさんの反応が、
モチベーションのカギだったのはまちがいないです。
岩田
「お客さんの反応からエネルギーをもらう」
というのは、いいゲームができるときの
条件でもあるんですね。
ギオム
本当にそう思います。
さらに言うと、「発売日」は我々にとって、
「成功のための最たる要素」であり、
チームはそこに向かって本当に一致団結しました。
最終的には大きな仕様のカットもなく、終えられました。
当初は「一部をカットせざる得ないのでは・・・」と
予想していたところはあったんですが、
Wii Uの力に助けられ、実際は最小限ですみました。
ガブリエル
まあでも、もしいまから半年前に、
「これが終わると思う?」と聞かれていたら、
答えは「ノー」でしたね。
一同
(笑)
岩田
いや、わたしから見ても実際、
「よくこれだけの期間とタイミングで
これほどのものを詰め込めたなあ」と思います。
そしていろいろなイベントなどの機会に
『ゾンビU』が発表されるたびに、
すごくよい反応があった印象がありました。
ギオム
我々にとってその象徴的な例が、
E3で見せたデモにあったんです。
それは、クローゼットからゾンビが
「わぁッ!」と飛び出してプレイヤーを驚かすという、
非常にシンプルで古典的な方法でした。
これを開発チームでまず実装してみたものの、
「こんなのぜんぜん怖くないよ。
ただゾンビが飛び出してくるだけじゃないか」
と言われて、誰もが自信を失いかけたんですが、
それでも我々はその瞬間のために、
研究を重ねて、デモを完成させたんです。
岩田
それが、E3ではどんな結果に?
ギオム
人々がその瞬間、Wii U GamePadを
落としそうになるのを、何人も目撃しました。
一同
(笑)
ギオム
本当に驚きました。
そして、うれしかったんです。
チームの中で長く開発をしていると、
自分のしていることに確信が持てなくなったり、
多くの不安や恐怖を抱えてしまうんです。
でも我々がE3から戻り、すぐにチームみんなに
“その瞬間”のことを伝えたら、
イスから転げ落ちる者もいたくらいでした(笑)。
この出来事はチームの空気を確実に変えて、
“その瞬間”をつくり続ける自信を与えてくれました。
これはわたしが今回『ゾンビU』を
開発しているなかでも最も忘れられない、
すばらしい経験のひとつです。
岩田
何かをしたときに“マジックモーメント”が
起こって、そのゲームの中に本当に
「人の心が入っていく瞬間」というのがあるんですね。
それが、E3の発表のあとも、
ユービーアイソフトさんが新しい情報を出すたびに、
繰り返し広がって、それがお客さんにも、
開発のスタッフの方にも、
両方に響いていった感じがしますね。