岩田
では、本日のメイントピックである
『ゾンビU』についてお訊きしたいと思います。
まず「どのようにはじまったか」については
どなたから説明していただくのがよいですか?
ガブリエル
みんな、それぞれのはじまりがありますが・・・。
誰からにします?(笑)
ザビエ
では、わたしからお話ししますね。
今回ユービーアイソフトでは、Wii Uの新しい技術を
目の当たりにして早々、開発に着手しました。
でもその試みは最初、
いまの『ゾンビU』ではなかったんです。
岩田
それは『Killer Freaks』(※26)ですか?
ザビエ
はい、岩田さんもよくご存じですよね(笑)。
でもまずは、その前から、お話しさせてください。
岩田
はい、お願いします(笑)。
ザビエ
最初に我々は、任天堂が今回Wii Uで
何をめざしているのかを、
プロトタイプ(試作品)を複数つくり、
研究を重ねました。
というのも、最初はまだ仕様が定まらず、
開発機材も十分ではありませんでしたから、
それを自分たちで見定める必要があったんです。
岩田
そうでしたね。
ザビエ
試作を重ね、最初に出たコンセプトは
「Wii U GamePadを用いた新しいFPSを
ハードコアゲーマーに提案しよう」
というものでした。
Wii U GamePadの手元の画面や
ジャイロセンサー(※27)は、
「FPSに適した絶妙な操作が提案できる」
と考えたんです。
また手元の画面はマルチプレイのとき
他のプレイヤーには見せずに使えるという点にも着目し、
アシンメトリック(非対称)なゲーム体験を考えました。
それが2011年のE3で公開した
『Killer Freaks』です。
襲い来る敵は最初、ラビッツ(※28)たちをモチーフにした
異形の生物たちでした。
岩田
するとあれは
「ラビッツをハードコアゲーマー向けに
アレンジしたらどうなるか?」という、
実験的なアプローチでもあったわけですね。
ザビエ
そうですね。あの時じつは、
あのキャラクターで決めていたわけではなく、
凶悪な姿に変貌したラビッツたちで
人々にサプライズを与えたかったんです。
ギオム
ちょっとしたウラ話なんですけど、
あれはもともとチーム内で出たジョークなんです。
ラビッツたちの「Raaaarr!」っていう叫び声が
他のチームの一部の人にとっては
けっこうイライラするものだったらしいんですね。
それで、プレイヤーとしてラビッツたちを
ちょっと乱暴ですけれど、
「思いきりやっつけてやりたい!」という思いから
生まれたアイデアなんです。
岩田
へえ~、それは初耳です(笑)。
ギオム
だからある意味、あのプロトタイプで
ラビッツたちを撃退できたことは、
彼らのストレス発散にもなっているんです。
一同
(笑)
ザビエ
ただ、その試作の過程で興味深かったのは、
Wii U GamePadの活用法が進んでいけばいくほど、
もともとスピードが要求される
アクションタイプのゲームが、
最終的には、かなりスタイルが異なるものに
なっていったことなんです。
岩田
FPSというと、一瞬たりとも画面から
目を離せないイメージがありますけれど、
Wii U GamePadを使うスタイルに対応して、
それが変わっていったということですか?
ザビエ
そうですね。スピード感に重点を置かずとも、
同じようにスリリングな楽しさを
味わえるものに仕上がっていったという意味です。
もともと完全なアクションではなく、
ストーリーにサバイバル要素を盛り込むことは
モンペリエで以前つくった
『キングコング』(※29)で経験していましたから、
スタッフ全員はその魅力を十分理解していたんです。
岩田
『キングコング』も
モンペリエでつくっていたんですね。
ザビエ
はい。サバイバルという意味でいうと、
アクション以外の行動、生き物を追い払うため
必要に応じて火をおこしたり、
プレイヤー自らが環境を利用した実践的な方法を
見つけ、つくり出す経験があったんです。
その経験から、今回はWii U GamePadが、
その世界の中で有効なサバイバルキットとして、
「そのまま機能できる」という発見をしたんです。
岩田
そこがどのように変わっていったのか、
くわしくお訊きしたいです。
ギオム
では、わたしからご説明します。
今回プレイヤーには2つの画面それぞれを
見てもらう必要がありますが、
それを同時に見ることができないことは、
開発の初期段階から当然、理解していました。
我々はその課題をクリアするために、
「Wii U GamePad側での操作を
もっとストラテジー(※30)的にできないか」
という考えに、早くから至っていたんです。
それはつまり、
「Wii U GamePadで戦略をたて、操作し、
それを実行すると、テレビ画面で行動が起きる」
という、一連の仕組みです。
これが最初の基本的なコンセプトでした。
岩田
はい。
ギオム
これを『Killer Freaks』で試したところ、
敵の動きが思っている以上に速くて、
なかなか思うようにできなかったんです。
唯一、プレイヤーがどこか安全なところに
いるときぐらいにしか、
Wii U GamePadを操作する余裕がなかったんです。
岩田
『Killer Freaks』は
当初FPSだったから、
敵キャラクターの動きを追うのがせいいっぱいで
手元の画面を見るどころじゃなさそうですね。
ギオム
はい、そのとおりです。
そこで単純に、敵の動く速さを
落としてみたんですが、
するとやっぱり緊張感が生まれず、
結局はWii U GamePadをなるべく見ずに
プレイするほうがうまく戦える、
という結果になってしまったんです。
ザビエ
そうでしたね。
ギオム
その後、ミニマップ機能などを加えて、
Wii U GamePadの画面を見ると
有利に戦えるような工夫もしてみました。
すると今度はみんなWii U GamePadを見続けて、
まったくテレビ画面を見なくなってしまって・・・。
結局カメラが制御不能になりました。
これはあきらかに失敗です。
岩田
はい(笑)。
ギオム
それでも我々は「何かうまい方法があるはずだ」と
粘り強く、研究とチューニングを重ね、
最終的にたどり着いたのが、いまのシステムです。
岩田
それはいったいどのような方法で
解決されたんですか?
ギオム
ちょっとした工夫ではあるんですが、
プレイヤーキャラがWii U GamePadで
バックパック(※31)などの手元操作をはじめると、
それまで主観視点だったテレビ画面で
プレイヤーキャラが俯瞰で映るようにしたんです。
そうすることで、自分の周囲に注意を払いつつ、
いくつかの動作を行うための十分な時間を
確保できるわけです。
ザビエ
Wii U GamePadはコントローラーとしてだけでなく、
ゲーム中のサバイバルキットとして、
さまざまなシーンで万能のツールとして
使うことができます。
たとえば電話やパスワードの入力、スキャンなど、
実際の生活で行うのとまったく同じやりかたで、
直感的に使っていきます。そうすることで、
「手元でピンポイントの重要な操作をしつつ、
テレビ画面をときどき見て周囲を警戒する」
といった、2つの並行した行動を
両立させることができるようになったんです。
岩田
ああ、なるほど・・・。
そう考えると、ゾンビ特有の
あのゆっくり迫り来る動きは、
このシステムにとても向いていますよね。
ギオム
そのとおりなんです。
こうした要素すべてが、
ゲームシステムの安定につながって、
「予測する」「操る」「対決する」という
我々が求めていたループをつくることができました。
今作のいちばんの見せ場である
「対決する」という部分は、初期の企画段階では
せいぜい半分くらいしかなかったんですが、
このゲームシステムを確立できたことで、
サバイバルキットを手にゾンビと戦う、
新しいプレイスタイルを生み出せたんです。
岩田
Wii U GamePadと、サバイバルキットの融合ですね。
ギオム
はい。じつは過去に、
宮本(茂)さんがおっしゃっていた、
「Wii U GamePadは3次元の世界の外側のものになりうる」
という言葉が、このアイデアをひらめく
きっかけになっています。
岩田
ああ、そうなんですね。
もともとFPSとしてリアルタイムのアクションが
テレビ画面で起こっていて、
そこに手元でストラテジー的なことをやるのは、
「当初想定したよりも、あまり相性がよくなかった」
でもそこをあきらめずに研究したら、
「見ちがえるようによいものに変化した」というところが、
ゲームデザインとして、すごくおもしろいですね。
そこに宮本の発言がヒントになっている点も含めて、
いろんなことがつながったんですね。