岩田
さきほどのギオムさんのお話は、
「アイデアというのは
複数の問題を一気に解決するものである」
という典型的な例だと思いました。
これも、宮本がよく言っている言葉なんです。
最初いろんなところにあった欠点が、
ひとつのアイデアで
最終的にぜんぶかみあって、
よい方向に向かっていった気がします。
ギオム
そのとおりだと思います。
岩田
その様子はガブリエルさんも
近くで一緒に見られていると思いますが、
どんな風に感じられていましたか?
ガブリエル
わたしが驚いたのは、
Wii U GamePadをサバイバルホラーに
最適化していくほど、
その新たな機能が有機的に見えてきたことです。
たとえばサバイバルホラーでは
たいていプレイヤーは孤独な存在ですが、
今回は「プレッパー」(※32)という
Wii U GamePadを無線機として話しかけてくる、
仲間が生まれたんです。
岩田
姿は見えないけれど、
音声でいろいろサポートしてくれるわけですか?
ガブリエル
そうです。
ギオム
プレッパーはWii U GamePadから直接、
ミステリアスな声で、親密に話しかけてきます。
Wii Uはいま、画面が2つ持てる点に
関心が寄せられていますが、
じつはスピーカーももう一組、
Wii U GamePadに配置されていることが、
あまり知られていないんですよね。
でもこのスピーカーの配置は、
じつは2画面と同じぐらい画期的です。
このおかげで、これまで味わったことがない、
「没入感が味わえるものになった」と思います。
岩田
音声で自然に導いてくれると、
物語の説明などをいちいちテキストで
読んだりすることなく、
物語に入れるメリットもありますね。
ガブリエル
そうですね。いま岩田さんがおっしゃった、
テレビ画面で“テキストを読む”ことは、
つくり手としてもプレイヤーとしても、
これまで「ちょっと厄介な部分だった」と思うんです。
それが今回、音声もそうですが、
Wii U GamePadの手元画面で読むことができるのは
地味に思えますが、じつは大きなポイントですよね。
あるシーンではまるで
本物の電子書籍のページをめくるかのような、
エレガントなUI(※33)演出もあります。
岩田
Wii U GamePadは本当にいろんなことができるけど、
「どう活用するか?」というところで
試行錯誤していたのが、
サバイバルホラーというテーマを受け、
その存在価値が明確になって、
とても身近に、生き生きしたものになったんですね。
ギオム
ゲーム体験が膝の上でさらに身近になるわけです。
それはとてもすばらしいことであるとともに、
同時にアーティストたちにとって、
新たな腕の見せどころにもなっています。
岩田
それは、どういう意味ですか?
ギオム
アーティストチームは
いつもインターフェイスフリーな画面を
求めていたんですが、これまでそれは
あまり現実的ではありませんでした。
でもこの『ゾンビU』では、プレイ中に
いくつかの特別な時をのぞき、
テレビ画面にはその世界が在ること以外の
ゲーム的な表示はありません。
それらは今回すべて、
Wii U GamePadに収納されているからです。
岩田
ああ、なるほど。
さまざまな恩恵が生まれているんですね。
ギオム
そうですね。
これはアーティストにとっては
非常にありがたいことなんです。
岩田
ところで、イブさんにひとつお訊きしたいんですが、
2011年のE3で『Killer Freaks』を
発表されて、わたしはイブさんとユービーアイソフトさんの
デベロッパーラウンドテーブル(発表会)をして、
握手を交わしたじゃないですか。
そこまでしてみなさんに発表したのに、あとで
「じつは『ゾンビ』のゲームに変えたいんだ」って
チームから聞かされた時、どう思いましたか?
イブ
そうですね(笑)。
でもわたし自身、全体をまるごと変えてしまう
そのアイデアが気に入っていたんです。
さきほどゾンビ特有の“ゆっくり迫り来る動き”の
話がありましたが、結果としてそのほうが
あらゆる問題や疑問に解答できますし、
「Wii Uを本当に活かす」という意味では
ベストの解決案だったからです。
ザビエ
あの・・・あるときのミーティングで、
イブさんから「『ゾンビ』はどう?」って
言われたのを覚えていますよ。
岩田
え・・・?
あ、もしかしてイブさんが
自分でちゃぶ台を返したんですか!?(笑)
イブ
はい、そうです。
ガブリエル
あの悪夢は彼の責任ですよ(笑)。
岩田
それじゃあ、イブさんは自分が発表したことを
チームに変えられたんではなくて、
自分で変えたんですか!?
イブ
いえいえ、とんでもない。
あれは共同決定ですよ。
彼らは反対しませんでしたから。
一同
(笑)
ザビエ
たしかに結果として、
さまざまなピースがうまくハマりましたが、
もともと『Killer Freaks』として
それまでになかった新しい世界観と
キャラクターで進めることも
検討していたところだったんです。
たとえそれがゾンビでなく、新種の敵でも、
舞台がロンドンでなくとも・・・。
岩田
あ、そこもお訊きしたかったんですけれど、
なぜフランスのみなさんがつくったゲームの舞台が
パリではなくて、ロンドンだったんですか?
ギオム
ロンドンは今年、オリンピックや、
女王即位60周年など、世界的な話題の的で、
さまざまな人が身近に感じられる都市でしたから、
それも理由のひとつにあります。
でもいちばん根底にあったのは、
ロンドンが“切り裂きジャック”(※34)に
代表されるように、
「深い歴史がある都市だ」ということです。
今回のようなダークな世界には
「最適な舞台になるだろう」と考えたんです。
岩田
ああ、言われてみれば雰囲気がありますね。
ギオム
現代と中世の歴史的背景をもつロンドンは
ほとんどの人が知っていて、
「いつか訪れたい」と思っている場所だと思います。
またフランスからも近く、
我々もすぐ行ける地理関係にありましたし。
ガブリエル
そう、そんなに遠い都市ではないんです。
ガブリエル
ジャーナリストの中には、
「これでイギリス人を打ち負かせるからだ」
と言う人もいるかもしれませんが(笑)。
でも正直なところ、ゾンビというテーマは
おそらくアメリカが発祥の地で、
そこから世界にまさに伝染するように
広まっていったものなんです。
岩田
世の中の人々が慣れ親しんでいる
映画を発祥と考えるとそうなりますね。
ガブリエル
とはいえ、アメリカでは
中世と現代が共存していないので、
ロンドンのほうが、より独自の世界観に
なるように思えたんです。
ですからゲーム中でも、
典型的な野球のバットの代わりに
よく知られているクリケット(※35)のバット、
また伝統的な衣装に身を包んだ
ロンドン塔の護衛兵や、
王宮の護衛兵に遭遇するシーンを用意し、
大きな社会的葛藤を抱えた国として
映し出されるよう、背景を変えています。
そうしたコントラストをかもしだすことにより、
「探索しがいのある、奥深い舞台にできた」
と思っています。