1. 集まることで生まれる力
岩田
第1部では『The Wonderful 101』の
ディレクターを務めている神谷さんが、
どんな想いを抱いてゲームづくりとかかわることになり、
これまでどんな経験をされて今日に至っているのかを、
いろいろお訊きしました。
ここからはプラチナゲームズ(※1)の稲葉さんと
任天堂のスタッフに加わってもらい、
ゲームの中身について訊いていきたいと思います。
神谷さん、続けてお付き合いください。
神谷
はい、もちろん。
仲間が増えて、落ち着きました。
一同
(笑)
岩田
ではお三方から自己紹介をお願いします。
稲葉さん、たいへんお待たせしました。
稲葉
いえいえ(笑)。
プラチナゲームズのプロデューサーの稲葉です。
岩田
稲葉さんは、社長が訊く「プラチナゲームズ」でも、
お話をお訊きしていますね。
稲葉
はい。今日はよろしくお願いします。
松下
任天堂の松下です。
マネージングディレクターを担当しました。
岩田
はい。
山上
任天堂の山上です。
プロデューサーを担当しています。
岩田
はい。ではみなさん、よろしくお願いします。
スタッフがそろったところで
この『The Wonderful 101』が、
どのようにしてはじまったかというところから
お訊きしましょうか。
神谷
「必ずその質問をされるだろうな」と
思ってはいたんですが・・・
(山上さんに向かって)
どこからお話ししていいものですかね?
山上
こういう場ですから、
企画を出された時の想いを
そのまま語ってくださっていいですよ。
稲葉
じゃあやっぱり、あの企画書を出さないと
はじまらないですよね。
山上
そうですね。これが、はじめて任天堂に
プラチナゲームズさんが
持ち込まれた時の企画書です。
岩田
はい・・・。
神谷
これはですね、最初うちの三並(※2)から
「任天堂のキャラクターを中心に、
世界的に有名なキャラクターが
一堂に会する企画を考えてくれ」
という、オーダーがあったんです。
岩田
なんともまあ、大胆なオーダーですね(笑)。
山上
わたしからも背景を補足させていただきますと、
この企画書をいただく半年くらい前、
わたしがプラチナゲームズさんに
とても興味を持っていた時期があったんですね。
そんな時にたまたま、とある方から
三並社長をご紹介いただきまして。
岩田
それが山上さんと
プラチナゲームズさんの最初の出会いですか?
山上
はい。その場では軽くご挨拶だけでしたが、
それからしばらく経って、三並社長から
「おもしろい企画があるんです」とご連絡をもらい、
見せていただいたのがこの企画書だったんです。
今回、写真でお見せできないのが残念なのですが。
岩田
そういう背景を経ての企画だったんですね。
神谷さんは社内でこのオーダーを受けて、
どう思いましたか?
神谷
僕はファミコンの『ワイワイワールド』(※3)とか
『ファミコンジャンプ』(※4)がすごく好きだったんですね。
別々の作品から多数のキャラクターが参加する
オールスター・ミックス系のゲームって
いろいろあると思うんですけど、
それぞれの枠を超えて競演するところが、
とにかく感動的だし、夢があるじゃないですか。
岩田
熱いですよね(笑)。
神谷
とくに『ファミコンジャンプ』は
僕はジョジョ(※5)目当てで買ったんですけど、
主人公たちが出入りするので、
必ずしもお気に入りのキャラクターを中心に
活躍するものではなかったんですね。それで
「好きなキャラをずっと使えて、
みんなが満足できる形はないか?」
と考えていて。
岩田
はい。
神谷
そういう意味では『スマブラ』(※6)って
すごくよくできていますよね。
自分の好きなキャラクターで遊びこめるし、
あれはひとつの完成形だと思うんです。
じゃあ「こっちはどうしよう?」と考えたとき、
「あっ、ぜんぶ一度に出しちゃえばいいんだ」って
思いついたわけです。
岩田
「いつも全キャラ出てればいい」と?
神谷
はい、それがこの企画の最初でした。
そこから、大人数がゾロゾロいることで
どんなことができるだろうかと
ふくらんでいった形ですね。
山上
企画としての原型は、
その時もいまも
大きくは変わってないんですよね。
岩田
たしかに、おそろしいほど
もう完成形のことが書いてありますね。
神谷
これ、僕の書いた企画書では
すごくめずらしいことなんです。
稲葉
初、ですね。キャラクターが決まっていて、
ビジュアルのコンセプトもあって、
ゲーム性の核(コア)になるものもある。
あとはもう、つくるだけじゃないですか。
岩田
ここに、ユナイト・モーフ(※7)って書いてあります。
この時からもう明確にあったんですね。
神谷
ユナイト・モーフは、
僕が子供の頃に読んだ絵本の中から
ヒントを得ているんです。
『かいぶつになっちゃった』(※8)という、
動物が集まって大きな怪物になる物語や
学校の教科書に載っている『スイミー』(※9)とか。
岩田
「ぼくがみんなの目になる」って言って、
大きな魚になったやつですね。
神谷
そうです。たぶん子供心に
「バラバラだった小さなものが、
たくさん集まって巨大な力を発揮する」
ということに、すごくワクワクしていたんです。
それがこの企画の根っこにある気がします。
岩田
第1部の話とつながりますね。
過去のいろんな記憶が、
インスピレーションにつながるという。
神谷
はい。今回はそれが企画書の段階で
自分でも怖いくらい、
すんなりと形になってますね。
稲葉
神谷の発想パターンとしては、
ビジュアルからくることがほとんどで、
ゲームの核自体は神谷の頭の中にもなく、
たいていあとから付け足されるんです。
だから今回ははじまり自体が、
いつもとだいぶちがうんですよ。
岩田
山上さんはこの企画を最初に見たとき、
どんな印象を持ちましたか?
山上
それが、この表紙を見た瞬間、
僕にしてはめずらしく
たじろいでしまいまして・・・(笑)。
岩田
山上さんがそういうふうになるのは
めずらしいことですよね。
めったなことでは、そうならないでしょう。
山上
内容以前に、まず既存のキャラクターを
こんなにぐにゅっと変形させてしまうほど
詰め込んで表現することは、
過去の経験上「ぜったい無理だ」と
骨身にしみてわかっていましたから。
岩田
たしかに、この表紙を見るかぎり、
『スマブラ』を最初につくったときに
キャラクター集めに尽力した
当時のプロデューサーであるわたしでさえも、
ひいてしまうインパクトがありますよ(笑)。
山上
はい(笑)。ですから提案されたその場で
「これは無理ですよ」って言ってしまい、
そこでいったん、この企画はなくなっているんです。
岩田
ミックス・キャラクターとしての企画は、
そこでストップしたんですね。
山上
そうですね。それから紆余曲折を経て
数か月後に、ノン・キャラクターでの提案を
サードパーティさんの窓口である
業務部経由で、お話しいただいているんです。
わたしはそれを知らずに、
企画開発部の上司の高橋(伸也)(※10)さんから
「ちょっとおもしろいものがあるから見てくれ」
と呼ばれてデモを見せてもらったんですけど、
見た瞬間「これ、プラチナゲームズさんのあれだ!」と
すぐにわかりました。
岩田
「あのとき見た企画だ」ってわかったんですね。
山上
はい。それでもう、
その場で高橋さんに経緯を説明して、
「ぜひ自分にやらせてほしい」と言って。
そこからが本当のスタートになります。