2. 「変えないとダメだ」
岩田
任天堂に2度目の企画持ち込みをするにあたって、
プラチナゲームズさんの社内では
どんなことがあったんですか?
おそらくですけど、
すんなりとつくり直されたはずがないって思うのですが。
稲葉
そうですね。プラチナゲームズとしても
「キャラクターありき」の企画でしたから、
その許可が下りない以上
難しいだろうということで、
企画自体は一度ストップしています。
神谷も一時、別の企画にとりかかっていたんです。
岩田
そうだったんですか。
稲葉
ところが、結果的に
その新しい企画もいろんな事情が重なって、
お蔵入りしてしまって。
それで「次はどうしようか」って
神谷と話をしたときに、
「こないだの企画がやっぱりやりたい」
とゴネられたわけです。
神谷
いや、だって、そんなに次から次へと
僕から新しい企画は出ませんよ。
一同
(笑)
稲葉
そこで、いろいろ検討したすえに、
当初提案した遊びはそのままに、
既存キャラクターをヒーローに置き換えたデモを
PC上で試作して、
あらためて任天堂さんに持ち込んだんです。
岩田
その段階で、いまの
ヒーローたちを主人公とする
キャラクター像ができたんですか?
神谷
いや、イメージはだいぶちがいましたね。
山上
企画がスタートした当初は
『ビューティフルジョー』(※11)のような雰囲気で
アメコミ調のダークヒーローっぽい
イメージだったんですよ。
僕はその画がけっこう好きだったので、
「これでいける」と思っていたんですが。
岩田
はい。
山上
アクションゲームが好きな松下さんに
「この企画、おもしろいからやらない?」
って言って見せたんです。そしたら松下さんが
「これは画が暗いから、小中学生にはウケない」
みたいなことを、いきなり言ってきたんです。
岩田
松下さん、いきなりそんなことを言ったんですか?
松下
言いました(笑)。「変えないとダメだ」という
強い確信があったんですね。
でも「ダークなアメコミ調はやめてください」とは
つくったご本人にいきなりお伝えしにくいわけで・・・。
岩田
たしかに、はじめてお付き合いするのに、
いきなりつくったご本人にそれでは
いくらなんでも失礼すぎますよね(笑)。
松下
プラチナゲームズさんはすごく
こだわりの強い人たちだと聞いていたんで、
そこはどのように伝えたらいいのか、
もしくはこのままプラチナゲームズさんのコンセプトを
優先して進めるべきなのか、
社内でもかなり議論をしたんです。
岩田
でも最終的にいろんな人に
広く届けるためには、
ビジュアルを変えてもらうことが
必要不可欠だと考えたわけですね。
松下
そうですね。そこはストレートに
お願いするしかないだろう、と。
岩田
神谷さんはその時、
どんな反応をされたんですか?
神谷
その話がきたときには、正直
「やっぱりそこにきたか」と思いました。
自分でも「このままだとちょっとニッチだな」
という思いはあったんです。
でも、それをどうすればよくなるのかが、
自分の中ではっきりつかめてなかったんですね。
そんな時に、任天堂さんからの指摘を
稲葉経由でうかがいまして・・・。
稲葉
(神谷さんに向かって)あたかも自分が
素直に話を聞き入れたかのように言ってますけど、
相当もめたよね?
神谷
まあ、稲葉には子供のように抵抗しましたね。
一同
(笑)
岩田
長い付き合いの稲葉さんは、
それを見て「痛いところ突かれたんだな」って、
わかるわけですね。
稲葉
いや、神谷のたちが悪いのは、
本当にこだわって抵抗しているときとの差が、
あんまり変わらないんですよ。
岩田
区別がつきにくい人なんですか?
稲葉
はい。
「わかったよ、プロデューサー様が
言ってるんだからしょうがないな」
みたいな感じで動き出すわけです。
一同
(笑)
山上
でも結果的に「変えてください」と
投げたボールに対して返ってきたビジュアルは
我々の思っていたものと
ひと味ちがうものだったんですけど、
「言われたとおり直しました」じゃないところが
さすがに神谷さんだなと思いました。
神谷
あの時に「リアルフィギュア・リアルおもちゃ」
というコンセプトが生まれたんですよね。
ポップでもあり、写実的でもあるという。
岩田
たしかに、あの表現はあまり見たことがない
ユニークさを持っているうえに、
明るくてポップという条件も備えてますよね。
稲葉
神谷独特のアクは残っているんですけど、
余分だったダークさがほどよくそぎ落とされて、
すごくいいバランスになったと思います。
岩田
そうなると、あとはつくるだけですね?
もともとのゲームの骨子自体は
企画書の段階でほぼ見えていますので。
山上
そうですね。さきほど話が出たとおり、
ユナイト・モーフを軸にしたゲームの構造は、
最初からほぼそのまま、活かされています。
プレイヤーがたくさんの隊員を引き連れて
行動していくわけですけど、
彼らをユナイト・モーフで変形させ、
大きな1キャラクターとしての能力を使って
マップ上の問題を解決し進んでいくんです。
ユナイト・モーフにはさまざまな種類があるので、
目の前にある問題にどう立ち向かうのか、
考えながら遊ぶわけですね。
武器もいろいろつくり出せますし、選べます。
岩田
そこまで決まっていたわけですからね。
山上
はい。それで任天堂としてはまずその
ゲーム性を先に詰めていきたかったんですが、
当初はなかなか見せてもらえなくて。
どうも神谷さんの興味が、
世界観の構築のほうに向かってしまって
「あれもやりたい、これもやりたい」と
規模ばかりがふくらんでいった感じなんですね。
岩田
ああー。当時、山上さんとの面談でわたしも
「さわり心地はどうなってますか?」って、
よく言ってましたよね。
山上
そうですね。画の雰囲気や遊びかたはわかるけれど
世界ばっかりが先にできていって、
そこで具体的にどんなふうに楽しめるのか、
肝心の部分がわからなくて、
だんだん不安になっていくという。
そういう状況が、ちょっと長くありました。
神谷
そういう意味でいえば、
いまのゲーム性がちゃんと確立できたのは、
今年に入ってからじゃないですか?
松下
去年のE3(※12)の段階で、
一応、普通に遊べる形にはなっていたんですが、
細かく仕様を詰めて整ったのが
今年に入ってからですね。
神谷
そうでしたね。
何かの締め切りが近づくたびに、
「このままではいけない」と、
少しずつ変えていったような気はします。
岩田
やっぱり神谷さんにとって、
締め切りはエネルギーの源ですか?
神谷
そうですね。「やばいぞ」って
本当に奥歯がカチカチ鳴りはじめたところで、
やっと真剣に考えられるというか。
岩田
ははは(笑)。
稲葉
(神谷さんに向かって)奥歯、抜いてやろうか。
一同
(笑)
神谷
いま思えば、去年のE3の頃はまだ、
あまり自分では満足いってなくて、
本当におもしろくなっていなかったんです。
画はしっかりできたし、キャラクターが大勢いる
ユニークさがあったとはいえ、
肝心のゲーム性が、いまひとつでした。