1. 「ちょっと」とは

岩田

まずは自己紹介をお願いします。

高橋

環境制作部の高橋です。
今回の役割は、脳トレと関わりあいながら、
DSiウエア全体を、大きく取りまとめています。
社長が訊く「DSiブラウザー篇」に引き続き、
今日は宜しくお願いいたします。

河本

環境制作部の河本です。
これまで『脳トレ(※1)』や『もっと脳(※2)』に携わってきて、
今回も『ちょっと脳を鍛える大人のDSiトレーニング』の
開発を担当しました。

※1

『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。

※2

『もっと脳』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年12月発売。

岩田

そもそも『ちょっと脳』は、
DSiという新しいゲーム機を開発するにあたって、
ソフトの企画検討会があって、
そこから出てきた企画のひとつでしたね。
あれは、何分科会と呼んでましたっけ?

河本

確か、ダウンロードソフト分科会です。

岩田

その分科会では、
マイDSのコンセプトのひとつである、
インターネットからダウンロードして楽しむ
小さなソフト群について、
いろんなチームの人たちが
いっしょになって考えていたんですよね。

河本

はい。その分科会に岩田さんをはじめ、わたしや、
『うつすメイドインワリオ』の阿部(悟郎)さん、
DSiサウンドの秋房さんなどが入って
検討することになりました。

岩田

ところが、会議をはじめてみると
なかなか前に進みませんでしたね。

河本

DSiがどんなゲーム機になるのか
当時はまだ、とてもあいまいな状態でしたので、
ぼんやりした企画が乱立してしまい
決め手になるようなものがない状態が続きました。

岩田

決め手がないので、企画の数だけが増えていくという
いちばんよくないパターンでしたね。

河本

個々の企画は悪いものではなかったんです。
逆にそれがよくないんでしょうけど。

岩田

会議では盛り上がっても、
現実味のない企画もありますからね。

高橋

私は直接会議には参加しておらず、
横から河本さんをみていたのですが、
会議をやってる期間がすごく長く感じて。

河本

ホントに長かったです。
約半年、いやそれ以上長く続きましたから。
実はそんな中に、すでに
『ちょっと○○』シリーズを出したらどうか
といった案も出たんですけど、
他に出ていた複数の案のなかに
埋もれていた感じでした。

高橋

そもそも『ちょっと○○』ということは
岩田さんから出てきたんですよね。

河本

タッチジェネレーションズの次は何だろう、
という話になったときに、岩田さんが
「ちょっとジェネレーションズはどうかな?」と
冗談まじりに言ってたと思うんですけど(笑)。

岩田

「ちょっとジェネレーションズ」は
もちろん冗談だったんですけど、
『ちょっと○○』シリーズは本気でした。
ゲームはおもしろいと思う一方で、
すごく時間がかかってしまいそう、という理由で
はじめるのを躊躇する人たちが
ものすごく増えているように思うんです。
 
そんな状況にあるなかで、
「1人1台」のマイDSのコンセプトを持った
DSiが出て行こうとしている。
そのとき、どんなものがあれば
お客さんの中にある細切れの時間を
使っていただけたり、充実したものにできるのか。
僕らはお客さんに熱中いただくことを
善しとしてやってきたけど、
本当にすべてそうなのか。
それを善しとしない考え方でものをつくったら
何ができるんだろうか。
 
そういうことを考えたとき、
ちょっとずつ、遊んで、
ちょっとずつ、生活の中でつき合っていく、
ゲームとそういったつきあい方ができる
『ちょっと○○』シリーズがあればいいと思ったんです。
そんな話をすると、河本さんがすごく反応してくれたのを
わたしはよく覚えています。

河本

そうですね。
自分自身の生活を振り返っても
ドラマや映画だと、終わる時間が決まってるので、
何時頃に寝られるなと予定が立てられるんですけど、
ゲームだと、ずるずる時間をつかっちゃって、
遊ぶのが恐いこともあるんですね。
おもしろいのにやりたくない、という
よくわからない状況になってるのが不思議で、
そうじゃないソフトがあってもいいんじゃないかと。
ゲームが「そろそろやめたらどうですか?」と
言ってもいいんじゃないかと思ったんです。

岩田

わたしがかつて関わった『MOTHER2』(※3)では、
2時間遊ぶとパパから電話がかかってきましたよね。
「おせっかいかもしれないが、ちょっと休息してはどうだ?」と。
ゲームを夢中になって遊んでる人に対して
「休息してはどうだ?」と言うなんて、
すごい仕様が入ったゲームだったんですが、
その洗礼をわたしは浴びてるから、
わたしは河本さんが言うことはすごくわかるんです。
 
だから、ゲームに対して
どのくらいの時間とエネルギーを費やしたらいいのか、
わかりやすく提示することできたら
お客さんとゲームの関係は変わるんじゃないかと、
そんな話もしましたよね。

※3

『MOTHER2』=『MOTHER2 ギーグの逆襲』。1994年、スーパーファミコンで発売されたRPG。

河本

そうでしたね。
理論上は別にRPGだろうと、
『ゼルダ』のような大作のゲームだろうと、
本当はそういうことができるはずなんですけど、
いざ設計しろと言われると
けっこう変えるところが多くて、
いきなりそういうものをポンとつくることはできない。
でも『脳トレ』のようなソフトなら
もともとちょっとでもできるゲームですし、
まずはそこからはじめてみようと。

高橋

でも、なかなか
ゴーサインが出なかったんですよね。

河本

そうでした。

高橋

僕もプロデューサーの立場で、
『ちょっと○○』シリーズ全体のひな形として
『脳トレ』がつくれればいいと思ったんですけど、
2008年の5月頃だったかな、
「ちょっと」とはこうだとか、
「ちょっと」はあーだとか、
「ちょっと」の議論がいろいろ出てきて。

岩田

そう。社内でみんなが
「ちょっととは何か?」という定義について、
すごく熱く語っていて、
岩田が言う「ちょっと」と、
宮本さんが言う「ちょっと」は
「どうもちょっと違うらしい」みたいな。

高橋

それは「ちょっと違う」んじゃなくって、
宮本さんと岩田さんが考えてる
「ちょっと」というのは、
僕のなかでは明らかに違っていた印象でした。
宮本さんの中では、
ちょっとシリーズはWiiのソフトで
Wii版の『脳トレ』や『えいご漬け』といったものを
ちょっとずつDSに取り出して遊ぶというものを
以前から考えられていたらしいんです。

岩田

短い時間で遊ぶというのは同じなんですが
私の「ちょっと」は、手軽な値段で遊び始めてもらうことが
重要だったんです。

高橋

それに対して、
宮本さんはWiiのソフトを買ってもらって、
あとはお客さんに小さく切り出して遊んでもらう仕組みを
「ちょっと」シリーズとして考えていたので、混乱が・・・。

岩田

うちの会社は、宮本さんが言うことと、
わたしが言うことはたいてい合ってるんです。
で、たいてい合ってるんで、
みんなふだんは困ってないんだけど、
今回のように合わないときは
すごく困るみたいなんですね。
今回は、高橋さんも困りましたか?

高橋

それはもう(笑)。困りました。
ちょっとは合ってるんですよ、きっと。
ちょっとは合ってるんですけど、
「ちょっと」の中身がちょっとずつ違うんです。
お互い言っておられることは、十分理解できる、
と言う意味でも、非常に困りましたねえ。