2. 「ちょっと」のつもりがどんどん大きく

岩田

宮本さんとわたしとで
「ちょっと」の定義が違ったことで、
『ちょっと脳』をつくりはじめることもできなかったと。

高橋

だから、岩田さんと宮本さんの2人だけで
じっくり話をしてくださいって(笑)。

岩田

そこで、社長と専務が
「ちょっと」に関して真剣な議論を交わすという
ちょっと変なことに・・・。

高橋

その結果、「ちょっと」の定義を
わざわざ狭める必要はないということになって。

岩田

いろんな「ちょっと」があってもいいんじゃないかと。
そういう結論に、最終的には落ち着いたんでしたね。

高橋

僕らとしても、「ちょっと」の幅が広がって
最終的にいいところに収まったという感じがしてます。

岩田

つくりはじめるときに
どんなことを「ちょっと化」しようとしたんですか?

河本

細かい工夫をいろいろ考えました。
たとえば、これまでの『脳トレ』では、
トレーニングが終わってはんこをひとつ押したあと、
「はんこのカレンダー」の画面に戻ってたんですね。
それは、「もっとやってね」という意味で
そこに戻るようにしてあるんですけど、
今回の『ちょっと脳』では
1回はんこを押したら、
「メニューに戻ってね」という
表示を出すようにしたんです。
それを出すだけで、いったんゲームをやめて、
メニューに戻るきっかけになるんじゃないかと。

岩田

つまり、ちょっとずつ遊んでもらうために、
ところどころで「やめるきっかけ」を
定期的に提示するようにしたと。
それって、ふつうのゲームと真逆なんですよね。
ふつうのゲームはいかにやめさせないか、
ということばかり考えていますから。
つまり、「ここでひと区切りですよ」という
区切りを定期的に出すことによって、
「忙しいあなたでも大丈夫」って
思えるようなつくりになってるわけですね。

河本

そのとおりです。

岩田

でもね、さわってみると変な感じなんですよ。
ひとつトレーニングを終えると、
「やめますか?」ってゲームから言われる。
こういうこと言われたことがないので、
すごく変な感じなんですよね(笑)。

河本

はい(笑)。
あとは細かいことですが、
現在の時刻をつねに表示するようにしてます。
DSシリーズには時計が内蔵されてますので、
たんにそれを表示しただけなんですけど。

岩田

いや、効果は大きいですよ。

河本

そうなんですよね。
気分的な問題かもしれませんけど、
電車のなかでやっていて、
到着時刻がわかっていたら、
画面内に時刻が表示されてたほうが
安心できると思うんですね。

岩田

Wiiのニュースチャンネルや
お天気チャンネルに
時間を表示させたのも河本さんですしね。

河本

時計、好きなんです(笑)。
あと、トレーニングをはじめる前に、
「これは2分くらいかかりますよ」とか、
「5分くらいかかりますよ」とか、
そういった情報を表示するようにしてます。

岩田

それも、ほんとにうれしいですよ。
その1回に何分かかるかわかったら、
いま遊ぶかどうかの判断がラクになりますから。
そういったアイデアはスッとまとまったんですか?

河本

はい。基本的にはスッとまとまりました。
ところが・・・。

岩田

ところが?

河本

ところが、商品のサイズとして、
「ちょっと」というのは
どのくらいが適切なんだろうとすごく悩みはじめました。
そもそもDSiのダウンロードソフトに関して、
サイズとか指標とか方向性とかが
とくに定められてるわけではありませんでしたし。

岩田

基準がないから、ソフトをつくりながら
自分で基準をつくっていくしかないんですよね。

河本

だから『ちょっと脳』に収録する
トレーニングに関しても、
ただ過去作から切り出すだけでいいのか、
それとも新作を・・・いや、でも・・・みたいな
自分のなかでのやりとりがけっこう続きました。

高橋

当時「これだけでいいんですか?」と
聞かれたので、僕としては
「新しいトレーニングを
前に出していかなあかんのちゃう?」と応えました。
そのほうがお客さんもうれしいでしょうし。

河本

そこで、新しいトレーニングも
追加でつくることにしたんです。
ところが、ちょっとずつ、ちょっとずつ
どんどん、どんどん大きくなっていって、
気がついたときには、
『もっと脳』よりも大きくなっていたんです。

岩田

「ちょっと」なはずなのに。

高橋

「ちょっと」じゃないじゃん。

河本

「あれ?」って(笑)。

岩田

トレーニングの数くらい、
数えていればわかるでしょうに(笑)。

河本

あれも捨てがたい、これも捨てがたいと
そんな気持ちで残してみたりとか、
やっぱりバリエーションがいるよなあと、
けっきょく前作と同じ気分でつくってるところがあって、
そうこうしているうちに、
前作よりも大きいサイズになってしまって。
そこは反省する点だと思います、はい。

高橋

そこで、
「これって2つに分けられないの?」
と聞いたんだよね。

河本

はい。あまりカンタンじゃないんですが、
まあできなくはないと。
そこで「理系編」と「文系編」に分けるのはどうだろうと。

高橋

それ以外、ないでしょう。

岩田

わたしもその話を聞いて、
「それそれ」と言ったんです。

河本

そこで、仙台まで飛んで行って、
東北大学の川島(隆太)先生にも
「『文系編』と『理系編』に分けていいですか?」と
うかがったところ、快諾してくださいました。
しかも、脳年齢チェックの結果で差が出るだろうから、
自分が文系編よりなのか、理系編よりなのか
なんとなくわかるはずだと。

岩田

へえ〜。