社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編

第10回 「この世界を堪能してほしいというひと言ですね」

岩田 私はこの『トワイライトプリンセス』の
テストプレイをさせてもらうたびに、
「こんなところまで作ってある!」って
本当にあきれてしまうようなことがよくあるんです。
せっかくそこまで作ったわけですから、
『トワイライトプリンセス』を待っている人たちに
こんなことまでやっているソフトですよ、
というところを最後に紹介していただければと。
たとえば、釣堀には四季や天候の変化があって
さらに雨が降った後は、水が濁っているとか、
ビンの中の飲み物は、飲むときに傾けても
ちゃんと水平を保っているとか、
どうしてこんなどうでもいいことまで
徹底して作り込んであるのか(笑)
ちょっとあきれてしまうようなことが
なんか山ほど詰まっているんです。
で、あきれながらも、こういうことは
広く知られてほしいなあと思うわけなんです。
ちょっとこのバカ正直なもの作りのすごみを
知ってほしいなと(笑)。

宮本 そういう話でいうと、ぼくが冗談めかしてよく言うのは
「このゲームはハシゴの横にまで模様がついてるぞ」
ということで(笑)。
ハシゴをのぼっているときはカメラは後ろに行きますから
ハシゴの横というのはまず見えないんですね。

青沼 宮本さん、それは、暗に開発チームの
運営のまずさを指摘してませんか(笑)。

宮本 こんなところにどんだけ時間をかけてるんやって(笑)。

岩田 ま、その視点はこの際、忘れましょう(笑)。

青沼 はい(笑)。

宮本 あの、最初の村に、看板があるんですけどね。
『ゼルダ』の看板というのは
剣でスパッと斬れるんですよ。
これはまあ、いつものお決まりで。
ところが今度の『ゼルダ』の看板は、
看板の切れ端を持てる


一同 (爆笑)

青沼 で、それを川に投げると当然浮くんですよね。

一同 (笑)

宮本 浮くんですよ。
なんでわざわざ看板の切れ端が
持てるようになってるかというと、
看板が川のそばにないからなんですよ。

青沼 そうそう(笑)。
川まで持ってって投げてもらわないと浮かないから。

宮本 せっかく浮くのに、見てもらえないのはもったいないので
わざわざ看板の切れ端を持てるようにしたんです。
だからもう、処理としては、
この看板に馬一頭ぐらいかかってますみたいな(笑)。

岩田 大いなる本末転倒ですね(笑)。

宮本 そう、本末転倒(笑)。

青沼 もはや、何が本末で、何が転倒しているのか(笑)。

動画を見る
宮本 今回の『ゼルダ』はそういうところが多くて
いろいろ楽しめると思いますよ。
あの、どうしてそうなるかというと、
開発の序盤というのは、
全部のシナリオや話の流れが細かくは決まってないので、
あとあと、どうなっても大丈夫なように作るんですね。
敵を作るときでも、どの場所に出てもいいように作るし、
アイテムも、なるだけどこででも使えるように作る。
で、本当であれば、ゲームの枠組みが決定したところで
とりあえず作っておいたいろんなものを
無駄がないようにガッと整理するんですけど、
今回の『ゼルダ』は試行錯誤の時間が長かったので
整理されないまま作り込まれているものが
いっぱい残っているんですよ。

青沼 序盤に登場する、剣を振るとよけるキャラクターとか
その最たるものですよね(笑)。

宮本 ああ、そうそう(笑)。
剣をバッと振るとパッとよける子どもがいるんです

岩田 (笑)

青沼 これまでの『ゼルダ』って、
ノンプレイヤーキャラクターを斬っても
とくになんの反応もなかったんですけど。
ずいぶん前に仮に作ってみた仕様が残っていて、
なぜかその子どもだけ、よけるという。

宮本 子どもと会話をしてても、
まあ、とりわけおもしろいということもないんですけど、
剣を振るとシュッとよける。
「これがいちばんおもしろい」とか言って(笑)。
ひとりだけ、後ろへこう、のけぞってよけますからね。

青沼 いちばん背の低い子ですね。

岩田 そういうちょっとバカバカしいネタは、
おそらく本筋のネタバレにもならないでしょうから、
可能であれば、ぜひ動画で公開したいですね。

青沼 そういう「なんで入ってるの?」みたいなネタは
やっぱり序盤に多いですね。
開発の初期から作っているところに。

動画を見る
宮本 あとは、何があるかなぁ……。
あの、ヤギが投げられることはお話ししましたけど、
ゲームに出てくるヤギの数がきちんと決まってるんです。
その理由を知ったときは、あきれましたけど(笑)。
どういうことかというと、
ヤギを小屋に追い込むイベントがあるんですね。
で、何匹のヤギがそこに出てくるかというのが
決まっているんですが、
どうしてその数になったかというと、
そのイベントの難易度で設定したわけじゃなくて、
追い込むヤギの小屋の中の柵の数で決まってたんです

一同 (笑)

青沼 ヤギを入れる場所の数がもう決まってて、
それで登場させるヤギの数が決まるという。

宮本 担当者と話していると、
「ヤギは24頭以上にしちゃダメです」と言う。
「なぜ?」「柵が24個しかないですから」と(笑)。
しかも、最初は、そのヤギの小屋には
リンクは入れなかったんですよ。

岩田 じゃあ、柵自体を見られないじゃないですか!

宮本 そうなんですよ(笑)。
柵の数まで厳密に決めておいて何をしてんねやと。
まあ、最終的には入れるようになったんですけど。

動画を見る
青沼 で、またそのヤギが
途中で逃げちゃったりするんですけど、
小屋の中をのぞいてみると、
ちゃんと柵がひとつカラになってるんですよ。
なんでそんなことまで徹底してるのかと(笑)。

宮本 誰もチェックせえへんのにね(笑)。
そういうのがたくさんありますよ。

青沼 あります。知らないうちに入ってるんです。

岩田 はぁーー(笑)。
なんか、ここまで作り込んであると、
ひとつひとつ笑い飛ばしながら、
たしかめるように遊んだほうが楽しいと思うんですよね。
同じ6800円払うんだったらね。

青沼 そうですね(笑)。

宮本 まあ、プレイする人は、ときどきカメラを操作して、
あちこちをじっくり見てみてください。
普段のプレイ中だと視界に入らないところに
いっぱい豪華なものがあったりしますので(笑)。

岩田 ゲームとしては、
おおっぴらにアピールできないですけどね(笑)。

宮本 こう、カメラをひいたときにかっこよくなるように、
いろんなものが描き込まれているんですけど、
遊んでるときは見えないのでね(笑)。
たまにカメラを切り替えてみると、
「おおっ」という絶景ポイントがけっこうあります。

青沼 あ、それは本当に、そうですね。
たまにまわりを見渡してみると、
「この世界は、すごいよな」と思うことがあって、
まあ、ゲームとしては、いいのか悪いのか(笑)。

宮本 そこがいいんです。
たぶん、敵なんかでも、すごい鎧を着てたりしますよ。
こう、細かい部品がついてたり、
テクスチャーが細々と貼られてたり。
なにしろ、ゲーム中にどの程度見られるのかということを
想定せずに作り込んでますから(笑)。
「倒れたあとにまじまじと見られるかも」
と思って作ってるんでしょうけど。

青沼 そういう意味では、1個も手抜きはないと思うんです。
個々のスタッフが作ったものに妥協はないですね。

岩田 そう感じますね。

宮本 昔、宮崎駿さんが『紅の豚』を作ったときに、
お話しさせてもらったことがあるんですけど、
「鳥瞰図の地上絵を
本物らしく見せる方法ってわかりますか?」
って言われて、「なんですか」と聞いたら、
「とにかく描き込むことなんですよ」
とおっしゃるんですね(笑)。
とにかくコツコツコツコツ描き込むことだって。
今回の『ゼルダ』もそれに通じるとこがあって、
ある程度の量を描き込むからこそ
立ちのぼってくるクオリティーというのが
やっぱりあるんですね。

岩田 うん、それはあるように思います。

宮本 あるんですよね。
だから、まあ、ゲームの中では
あまり目にしない部分かもしれないけど、
そういう意味では、
やたらと作り込んだスタッフを褒めてあげたい(笑)。

岩田 テレビドラマのセットのように、
横から見たらそこはできていない、
というようなものがないんですよね。
それを実現させるのはえらく割高なのかもしれないけど、
ゲームの中でそういう世界が作られることは
なかなかないことだと思うので、
せっかく作り込まれたものは、
堪能していただきたいなと思います。

宮本 扉とかでも本当に1個ずつよくできてるし。

青沼 『ゼルダ』というゲームの質にもよるんですよね。
たとえばカメラが固定されているのであれば、
もう、そこからしか見られないわけですから、
横や後ろを作り込む必要はないと思うんです。
でも、そこだけ作っておけばいいよ、というのが
『ゼルダ』にはないんですよ。
もう、どこからでもアクセスできるようにしてるし、
全地形がつながってる、
みたいな作りになっている場所もあるし。
そういう意味では、やっぱり手抜きはないですね。
だから、広大なハイラルという大地を
ダイナミックに感じてもらうために、
本当に十分なものが用意されてると思います。

岩田 じゃあ、最後になりますが、
『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』を
待っていてくださるお客さんにひと言ずつお願いします。
それでは、青沼さんから。

青沼 もう、この世界を堪能してほしいというひと言ですね。
体力の限界を感じつつ、ずっと作り続けて、
本当にいいものになったと思います。
きっと、遊んでもらえれば、
新しい『ゼルダ』が体験できると思いますので
ぜひ楽しみにしていてほしいですね。

岩田 宮本さん、ひと言どうぞ。

宮本 こういうものを作れるチームって
そんなにないと思いますね。
やっぱりものすごく『ゼルダ』らしいというか、
『ゼルダ』が行き着くべきひとつの方向に
きちんと向かってるソフトだと思いますし、
いま世の中でどう評価されるかはわかりませんけど、
同じものはほかにないといっていいと思います。
スタッフも本当に最後まで、
バテながらもすごく前向きに取り組みましたし、
それだけのエネルギーが詰まっているものだと思うので
ぜひとも実際に触って遊んでほしいですね。
今回、ぼく自身の仕事としては、
クリエイティブをやったというよりも
さまざまなパッケージングを
徹底的にやったという感じですけど、終わってみれば、
非常におもしろかったですね、この仕事は。
岩田さんは、どうですか?

岩田 まず、発売を1年延ばす判断をして、
最後に1年かけてちゃんと仕上げて
本当によかったと思っているということ。
それから、これほどのスケールのものが、
最初からきちんと設計されていた
わけではないのにもかかわらず、
こうやってひとつの姿に収束するということに、
『ゼルダ』チームの底力というか
すごさみたいなものを感じています。
私自身は、まだ全部はプレイできていないんですけど、
ひとつひとつの断片を確認させてもらうだけで、
ここにものすごい量のエネルギーと
アイデアが詰まっていることを感じています。
こういうものって、任天堂が全力でがんばっても、
何年かに1回くらいしかできない、
いや、ひょっとしたら
今後も簡単にはできないかもしれないので
ぜひ、楽しんでいただきたいなと思いますね。

青沼 あ、そうそう、今回の『ゼルダ』は
たっぷり遊べますよ。100時間超えちゃうかも。

岩田 しかも、その時間が、
作業をさせられてるわけではないところが
すごいところですよね。

宮本 レベル上げに時間がかかるわけじゃない100時間、ですよね。
まあ、ルピー集めがたまにあるぐらいで(笑)。
それでも工夫しながら集めるようになってるはずです。
飽きさせないと思いますよ。

青沼 あと、オヤジの世代のクリエーターと
若手のクリエーターが交互に入り混じりながら
いろんなネタを考えて作ってますんで、
フレッシュな感じの楽しみもあれば、
妙に懐かしい楽しさもあると思いますね。

岩田 そういう意味では幅広い層に
アピールできるゲームになってますよね。

青沼 そうですね。
このゲームを楽しめるいちばん上の世代が
宮本さんでしょうから(笑)、
もう、三世代くらいの人が楽しめるという。

岩田 三世代ってことは、
タッチジェネレーションですね(笑)。

青沼 あ、まさにそうですね。いいですね、それ(笑)。

宮本 あと、今回のインタビューに登場しなかった
サウンドのチームとか、プログラムのチーム、
ムービーやデモを手がけた人たちも、
ものすごくがんばったと思います。

青沼 そうですね。

岩田 本当はまだまだたくさんの開発者に
話を訊いていきたいんですけど。

宮本 そういえばこの記事は、
海外の任天堂のページにも翻訳されてるんですよね?
『ゼルダ』を待ってくださっている海外のファンの皆さんには、
世界中の任天堂のローカライズチームが
いっしょになって働いてくれたということを
報告しておきたいですね。
ローカライズに関しては、
本当に強力な体制を組むことができました。

青沼 はい、がんばってくれました。
なにしろ、世界同時発売という
『ゼルダ』としては初めての試みでしたからね。
世界中からローカライズのチームが
日本に集まってくれて、
ずっといっしょに作業してくれましたから。

宮本 夜中まで付き合ってくれたよね。

青沼 そうなんですよ。
あの、海外の人達は一般的には
夜遅くまで働かないという話があるじゃないですか。
でも、夜中の1時とかまで働いてくれましたから。

宮本 ぼくね、ヨーロッパのチームに
「遅くまでやってるね」って声かけたことがあるんです。
そしたら彼らが言うには
「だって、日本の人たちが帰らないんですもん」って。

岩田 (笑)

青沼 だから、かなり一体感がありましたね。
夜中にコンビニまで弁当の買い出しに行ったりして、
「ぼくらといっしょだ!」みたいな(笑)。

岩田 今回参加してくれたローカライズのチームは
みなさん、日本の文化をよく知ってましたよね。

青沼 そうですね。

宮本 あと、英語のテキストを書いてる人たちの人数は、
もとのシナリオを作ってる
日本のチームの人数より多いんですよ(笑)。

青沼 そうなんですよね(笑)。
日本語の微妙なニュアンスをきちんと伝える人と、
伝えたあとに英語に変換する人、
あとそれをまた磨く人がいて。

宮本 あと、話がおかしいからって直す人ね(笑)。

一同 (笑)

岩田 今日は長時間、どうもありがとうございました。

青沼 ありがとうございました。

宮本 どうも、ありがとうございました。


(『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のインタビューはこれで終わりです。
次回からは『おどる メイド イン ワリオ』のお話をお届けいたします。)
『Vol.6「おどる メイド イン ワリオ」編』へ