社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.6 『おどる メイド イン ワリオ』編

岩田  聡 [取締役社長]
岩田  聡 [取締役社長]
坂本 賀勇 [企画開発本部 企画開発部]
坂本 賀勇 [企画開発本部 企画開発部]
阿部 悟郎 [企画開発本部 企画開発部]
阿部 悟郎 [企画開発本部 企画開発部]

第1回 「『リモコンひとつあれば、なんでもできるぞ!』と」

岩田 さて、本日からは
『おどる メイド イン ワリオ』の
開発チームに訊いていきます。
それでは、坂本さんから、
恒例の自己紹介をお願いします。

坂本 はい、坂本です。いちおう、クレジット的には
プロデューサーということになっています(笑)。
今回の役割としては、Wiiのロンチタイトルとして
どういう『ワリオ』を目指したらいいのかということを
阿部さんといっしょにいろいろ相談しながらやってきました。

阿部 阿部です。今回は全体のディレクションを担当しました。
Wiiとリモコンの実験のようなところから関わって、
最終的には商品としてパッケージされるまで、
全体の仕様を決めたり、
チームに指示を出したりしてきました。

岩田 まず、これまでの任天堂の例でいうと、
新しくテレビゲームの機械ができると、
宮本さんのいる情報開発本部という部署が中心になって
同発ソフトを作るというのが
いつもの流れだったんですけど、
今回は坂本さんたちの企画開発部という部署が
『おどる メイド イン ワリオ』を
手がけることになりました。
Wiiそのものの仕様を決めるときからずっと
関わってもらったことになりますけど、
過去のパターンと違うことを、
どういうふうに感じられましたか?

坂本 はい。おっしゃるように、ぼくらは、
携帯機の同発ソフトには経験がありましたけれども、
コンソール(据え置き機)の同発というのは
初めての経験だったんです。
正直、自分たちがコンソールの同発をやるという
イメージがほとんどなかったものですから、
いろいろと新鮮でしたね。

岩田 とくにWiiという機械に関しては、
これまでのゲーム機と開発の経緯が
まったく違ってましたから、
いつもやっている人でさえ戸惑いがありましたからね。
『ワリオ』をWiiの同発ソフトにするというのは
けっこう前から決まっていましたよね。

坂本 そうですね。Wiiのコントローラ、
つまり、リモコンのコンセプトが決まった段階で、
「あ、これは『ワリオ』だな」と思って、
自分たちから手をあげました。

岩田 コントローラ作りに関与してたら、
「これは『ワリオ』を作らなきゃ」と
自然に思えた感じでしょうか。

坂本 そうですね。
何かできそうな気がしたという感じです。

岩田 阿部さんはいかがでしたか。

阿部 私も、Wiiのコントローラの会議に
ときどき参加していたんですけれども、
いまのリモコン型に至るまでに、
いろんな形の試作品があったんですね。
で、それを見るたびに、
「これを『ワリオ』で使うには……」
というふうに考えていました。
で、最終的に、いまの形に落ち着いたときに、
「あ、これはけっこういろんなことができる」
というのをすごく感じたんですね。
ほかのソフトを抱えているチームは、
リモコンやヌンチャクを前にして
「どうやって作ればいいんだろう」って
議論していたりしてたんですが、
もう、『ワリオ』に関しては、正直、
「リモコンひとつあれば、なんでもできるぞ!」
というふうに前向きに感じていたというか(笑)。

岩田 おそらく、コントローラがリモコンに決まった瞬間に、
シリーズもののソフトを抱えている担当者は
いろんなことを思ったんでしょうね(笑)。
もちろん、どのソフトでもリモコンを使って
新しいおもしろさを提示できるとは思うのですが、
すごく浅いレベルの第一印象としては、
答えが見えやすいソフトと、
そうでないソフトがあったと思うんです。

坂本 そうでしょうね。
第一印象で「うわっ、困った!」
という人もいたでしょうし。
まあ、その点、『ワリオ』はいま阿部さんが言ったように
「あ、いろいろできるぞ」という感じでした。

阿部 「『ワリオ』はすぐにできるね」って
ほかの社員から言われそうだなって
ちょっと心配したくらいで(笑)。

岩田 実際、Wiiの同発ソフトとして
『ワリオ』はきちんと発売されるわけですけど、
考えてみれば、『メイド イン ワリオ』シリーズが
こんなにもコンスタントに作られるとは、
企画された当初は想像されていなかったと思うんです。

坂本 はい、そう思います。

岩田 それは、とてもいい意味で予想外だったんですが、
一方で私は、この『メイド イン ワリオ』シリーズが
現在の任天堂の基本的な姿勢である
「新しいお客さんにアプローチする」という路線の
さきがけになったソフトだとも感じているんです。
つまり、『メイド イン ワリオ』が
新しい道への扉を開けてくれたんじゃないかと。
間口が広くて、遊び方が非常に自由で、
短い時間集中して遊ぶこともできるし、
長い時間、没頭することもできる。
その遊びのダイナミックレンジの広さが、
いまの任天堂の目指す方向とすごく近いんですよね。
でも、当初はこのシリーズが
マイルストーンのようになるとは
思われていなかったわけで。
今回の『おどる メイド イン ワリオ』で
シリーズ通算5作目となるわけですが、
1作目からこのシリーズに関わっているおふたりは
そのあたりをいま振り返ってみて、いかがですか。

坂本 まず、1作目の『メイド イン ワリオ』
(2003年 ゲームボーイアドバンス用ソフト)は、
「こういうものが作りたい」というコンセプトが
すごくはっきりしていたソフトだったんです。
ただ、言葉は悪いんですけれども、
まあ、「一発芸」みたいなソフトで(笑)。
結果的には1作目からすごくいいものができたんですが、
「これはこういうゲームなんだ!」
っていう個性が非常に強いゲームでしたから、
同じことは二度とできないだろうな、
という気が、なんとなくしていたんです。

岩田 なるほど。

坂本 でも、たくさんの方に遊んでもらえて、
ゲームとしての評価もすごく高かったんですね。
販売本数もどんどん伸びていきましたし、
これはシリーズとして続けていかなければならないなと
考えはじめていたんですが、
そんなときにちょうど岩田さんから
ゲームキューブ版の『ワリオ』を
作ってみたらどうかというリクエストをいただいて。

岩田 はい。私は1作目の『ワリオ』を見て、
ほかの人がやっているのを見るのもおもしろいソフトだな
というふうに感じたんですね。
ですから、多人数で遊ぶのに適しているゲームキューブで
1作目の勢いがあるうちにサッと作ってみませんかと。

坂本 それが『あつまれ!!メイド イン ワリオ』
(2003年 ゲームキューブ用ソフト)になったんですね。
ですから2作目もコンセプトは明快だったんです。
みんなで遊ぶ、コンソール向けの『ワリオ』を、
まあ、すごく短期間で作るという(笑)。

岩田 『あつまれ!!』のときは
阿部さんがディレクターでしたよね。
あれがディレクターとしては最初の作品ですか。

阿部 はい、そうです。
できれば、いちからゲームを作りたかったですが、
なにしろ「勢いのあるうちに出す」
というコンセプトでしたから、
プチゲームはアドバンス版のものをそのまま活かして、
多人数対戦向けにアレンジするというか、
いろんな遊び方を提案する
という方向でまとめていきました。

岩田 『あつまれ!!』が終わったあとは、
ゲームボーイアドバンスでもう1本作るという話と、
ニンテンドーDSの同発ソフトとして作るという話が
ふたつ並行して出てきて、
私と坂本さんはけっこう悩んだんですよね。

坂本 ええ。1作目のゲームボーイアドバンス版は
その後も順調にというか、
静かにどんどん売れている状態で、
やっぱり携帯機としてまた出したいという声もあって。
でも、『ワリオ』シリーズというのは、
基本がプチゲームの集まりですから、新作を出すとなると
プチゲームを新しくするだけではなくて、
何か新しい切り口というかコンセプトがいるんですよね。
1作目は瞬間アクション、2作目は集まって遊ぶ。
それに代わる切り口がほしくて、
とりあえずプチゲームのネタはどんどん出しつつ、
その方向性を探っているという状態でした。

阿部 一応プロジェクト自体は進んではいたんですけども、
いまひとつ決め手がない状態だったんですね。
で、そういうなかでニンテンドーDSの
本体の仕様が固まってきて、
タッチペンを活かすという切り口ができた。
DSの特長をアピールするソフトとしても
『ワリオ』はわかりやすかったですから、
これはもう、そのままいこうと。
ただ、ニンテンドーDSの同発ソフトにするには
ちょっとスケジュールがタイトだったので
それはそれとして、アドバンス版の新作も
作っているような状態でした。

坂本 そこであるスタッフが
「ちょっとこんな試作、作ってみたんですけど」
ということで、回転センサーをデバイスに使った
サンプルを作ってきたんです。
それは、大澤(和義)さんだったんですけど。

岩田 『リズム天国』の
ディレクター兼チーフプログラマーの大澤さんですね。

坂本 はい。彼が、回転センサーを使った
『ワリオ』の試作を作ってきて、
それをやってみたら、すごくよかったんですね。
回して操作をするということ自体もよかったんですが、
回転センサーを使っていろんな遊び方ができるというのが
非常におもしろくて、
「これはすごいわ。岩田さんに見てもらおうか」
ということですぐに見せに行ったんですよ。

岩田 私は、いまでも忘れられないんですけど、
試作の中に「レコードプレーヤー」というのが……。

坂本 ありました(笑)。
完成版のソフトにも入ってますけど。

岩田 要するに、回転するイスの上に、
ゲームボーイアドバンスを乗せるんですよね。
そして、そのイスをくるくる回す。
すると、ゲームの中のレコードプレーヤーが
その回転に合わせて回り出すという(笑)。

一同 (笑)

岩田 また、イスを回す速度に応じて、
音楽の速度も変わるんですよね(笑)。
……私は……あのとき……
延々と、イスを回してましたよね(笑)。

坂本 回してました(笑)。
ぼくも忘れられないんですが、
岩田さんがイスを延々と回しながら、
ときどき「……くだらねぇ」と笑顔で(笑)。

岩田 はい、はい(笑)。
「くだらねぇ」と言いながら、
ものすごく喜んでたんですよね。
それで、そのときにもう、
ゲームボーイアドバンス版の新作は
全部、「まわす」というコンセプトにしよう、と。

坂本 ええ。たまたま大澤さんの企画書にも
『まわる メイド イン ワリオ』という
タイトルがついていたものですから、
ゲームボーイアドバンス版は
『まわる メイド イン ワリオ』
(2004年 ゲームボーイアドバンス用ソフト)
になったわけです。

岩田 で、同時に、ニンテンドーDSのほうは
『さわる』にしよう、と。
「『まわる』と『さわる』だ!」
ということで、その場で両方が決まったんですよね。
坂本さんとふたりで、「あ、できた!」と言って。

坂本 ピタッとはまったんですよね。
で、ニンテンドーDS版のほうは
『さわる メイド イン ワリオ』
(2004年 ニンテンドーDS用ソフト)になった。

阿部 とりあえず、先に
『まわる』を作ることになったんですよね。
チームをふたつに分けて、
『まわる』を作っているあいだも
『さわる』のほうを止めないようにして。

岩田 そうやって、短期間にふたつの『ワリオ』が出て、
どちらのソフトもすごくたくさんの
お客さんに喜んでもらえたんですよね。
それでいよいよ今度出るWii版の
『おどる メイド イン ワリオ』になるわけですが、
Wiiリモコンを見て、おふたりが
「これなら、いろいろできるぞ!」と感じたときのことを
もう少し詳しく教えてもらえますか。

坂本 やはり、Wiiのリモコンが、
振ったり回したりして使うことができる
というのが大きかったですね。
『ワリオ』のいちばんの課題でもある
「つぎはこんなふうに遊んでくださいね」
という部分が最初からあったというか、
Wiiのコントローラの持つ可能性が、
自分たちのやってみたいことに
ぴったり合ったという感じでした。

阿部 あと、『ワリオ』というゲームは、
プチゲームという小さな単位のものの
集合で成り立っていて、
ひとつひとつのプチゲームは本当に
遊びとしては原始的だったり、
もう、ほとんどゲームになってなくても
よかったりするので、
一発ネタとか実験のようなことも
平気で取り込むことができるんですね。
Wiiのリモコンというのもやはり、
「なにができるかな?」と
つい実験してみたくなる魅力を持ってますから、
そういう面で『ワリオ』シリーズと
相性がよかったのではないかと思います。
要するに、なんでもかんでも入れられるゲームですから、
新しい技術が出てきたときに、
その技術を応用していく過程の実験的なものが
そのままゲームになるという。

岩田 新しいインターフェイスの使い方を研究しながら、
なおかつそこで商品もできてしまうという
不思議な企画なんですね。

阿部 そうですね。

坂本 雑多なものが当たり前、というシリーズですから、
「おもしろいことできるんだけど、
これだけで1本ゲームを作るのは難しいな」
というようなことが全部活かせるんですよね。
5秒でいいんですから(笑)。

岩田 その一発芸がおもしろければ、
5秒で終わっていいんですね(笑)。

坂本 終わっていいんです。
それ以上のことは、まあ、ありますけども、
絶対に必要なわけじゃないというか……
あ、それは言い過ぎか。

岩田 (笑)

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