社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.6 『おどる メイド イン ワリオ』編

第2回 「『くだらねぇ』は最高の褒め言葉」

岩田 Wiiのリモコン型のコントローラが
『ワリオ』シリーズと相性のよいものだとしても、
それだけで簡単にできたわけではないですよね。
逆に、リモコンで遊ばせるからこその
苦労もたくさんあったと思うのですが。

坂本 たしかに、Wiiのリモコンというのは
いろんな遊ばせ方があるので
『ワリオ』シリーズに向いているんですけど、
いろんなことができてしまうがゆえに、お客さんに
「いま自分が何をしなければいけないか」
ということをパッと伝えにくいということがありました。
というのも、『ワリオ』シリーズはテンポが命ですから
遊ぶ人は「つぎはこうする」というのを
5秒で判断してもらわなくてはならないんですよ。
だから、それをどう伝えればいいのか。
そこがまず、最初の課題としてありました。

岩田 これまでの『ワリオ』では、
いちおうみんなふつうに携帯機なり、
コントローラを持っているわけですから、
「Aボタンを押せ!」みたいなことが
指示しやすかったんですよね。
ところがWiiリモコンだと、
そもそもユーザーがいまどう持っているのかが
わからないから指示が伝えにくい。

坂本 そうなんです。
どうやったら、お客さんに
自分が要求されているアクションを
一瞬で理解してもらえるだろうか、と。
まずはそこでずっと悩んでいたんですが、
そうしているあいだにも
プチゲームのアイデアというのは
もう、どんどん出てきていまして。
やはり、Wiiリモコン自体が
非常におもしろいデバイスですから
いけそうなアイデアはたくさん出てくるんですよ。
ところが、プチゲームの制作に選ばれるアイデアが、
大人しいものが多く、どうも何かはじけきれていなかったんです。

岩田 「バカバカしさ」や「くだらなさ」が足りない?

坂本 そうなんですよ。いつもはじけている女性スタッフの、
いつにも増してはじけているコンテが選ばれにくい。
その理由は、プレイヤーがWiiリモコンを
どう持っているかわからないので、
普通に握っている状態から、無理なく反応できるような、
無難なアイデアが選ばれる傾向があったからなんです。
で、先の課題とも合わせ解決するために
「もう、ゲームを始める前に、
まず『こう持て!』と言っちゃったらどうか」
ということになって、ひとつひとつのプチゲームの前に
「こう持ちなさい」「つぎはこう持ちなさい」
という指示を入れていったんですね。
それを作っているうちに、誰かが
「これって何か、踊りのお作法みたいな感じだね」
と言い出して、それが妙にバカバカしくて。

岩田 ああ、そこで「おどる」という
キーワードが生まれたんですね。

坂本 そうなんです。
まあ、岩田さんからも冗談交じりに
「つぎは『おどる』ですかね」
という話は出ていたんですが。

岩田 ええ、言いました(笑)。

坂本 そこでお作法のアイデアが出たところで
晴れて『おどるメイド イン ワリオ』になったんです。
まあ、その、「踊ってない」んですけど(笑)。

岩田 「踊ってない」ですね(笑)。
だけど、踊りのお作法のような。

坂本 はい。そういう舞踊的なものとして
ゲーム全体をパッケージしていくと、
お客さんもつぎのアクションがわかりやすいし、
お客さんにその指示がうまく伝えられるとなると、
作る側の自由度も、ものすごく上がるんですね。
しかも「お作法」というキーワードで
いろいろとくだらないことができますから(笑)。
なんというか、遊んでる人の姿が
すごくおもしろくなるように感じたんですね。
ゲームに命じられるがままに
モニターの前でスクワットしてみたりとか……。

岩田 私も、初期の試作版を見せられたときに、
みんなの前でスクワットしました(笑)。

坂本 そうそう(笑)。

阿部 ぼくらはもう、それが楽しみで楽しみで(笑)。

岩田 私にスクワットをさせたくて、
プレゼンに同席させたようなものですからね(笑)。
やっている最中、スタッフの人たちが
ものすごくうれしそうな顔してましたよね、

坂本 あれはホンマに最高でした(笑)。
いや、ちゃんとしてくれはるからね。
ノリのいい社長でよかった(笑)。

一同 (笑)

坂本 だって、仕組みから考えると、
わざわざ頭の上でリモコンを持って
ちゃんとスクワットしなくてもいいわけですから。
こう、リモコンを水平に持って、
それを上下させれば、ゲーム的にはいちおう
「指示どおりにやった」と認識されますから。
岩田さんにプレゼンの現場で
それやられたらどうしょうかな、
と思ってたんですが……。

岩田 いや、仕組みがわかる以上に
制作者の意図がわかりますからね(笑)。
きちんと頭の上に持って、
やりましたよ、スクワット。

坂本 おかげでチームの士気も上がりました。

一同 (笑)

岩田 ああいうノリが『ワリオ』シリーズの
大きな魅力ですからね。

坂本 そうなんですよね。
やっぱりこのゲームをコンソールでやるということは
誰かが見ているような状況で
やられることが多いだろうと想像していて、
その中で、やっている人が楽しいことはもちろん、
見てる人も楽しいようなものにしたくて。
ゲームキューブ版の『あつまれ!!』でも
「○○と言いながらクリアーしろ!」みたいな、
本当はやらなくてもいいような指示も
楽しんでもらえていたので、
けっきょくコンソールの『ワリオ』というのは
多人数で何かバカなことをやりながら楽しむというのが
あるべき姿なんじゃないかと思って。

岩田 そういう意味でも
「お作法」という発明は大きかったんですね。
阿部さんはどうでしたか?

阿部 やっぱり、「お作法」の存在は大きかったですね。
それ以前にもステージごとに
持ち方を変えるようなことは検討していたんですが、
ひとつのステージで同じ持ち方ばかりだと
どうしても盛り上がりに欠けてしまうんです。
ですからもう、「お作法」で行こう、と決まってからは
ゲーム全体をそっちに方向づけて。
もう、Wiiリモコンも、このゲームの中では
「作法棒」と呼ぶことにしたりして。

岩田 ああ、そうだ。
わざわざ私に確認してきたんですよね。
「Wiiリモコンを作法棒と呼んでもいいですか」って。

一同 (笑)

岩田 正直、困りましたけどねぇ。
だって、まだ「Wiiリモコン」という
名前も認知されてなくて、
会社としては「Wiiリモコン」という名称を
ぜひ世の中に定着させていこうとしているときに
「このゲームでは『作法棒』と呼ばせてください!」
なんて言い出すんですから(笑)。

一同 (笑)

岩田 しかも、冗談じゃなくて、大まじめだし。
で、ゲームを見せてもらったら、
たしかにそう呼ぶべきだとわかるし。
で、つい「いいです」と言ってしまいました(笑)。

坂本 ノリのいい社長でよかった(笑)。

阿部 いや、本当にそれができてよかったです。
あの、『ワリオ』シリーズにも、
いちおう、世界観というか、物語がありまして(笑)。
この『おどるメイド イン ワリオ』では
ワリオが作法棒というものを発見して、
町中にお作法が広がっていくことによって
なんとなく、こう、みんなが幸せになっていくような
作りになっているんですよ。
だから、「お作法」というキーワードが
ゲームをまとめていくうえでとても役立っているんです。

岩田 あのお作法の名前というのが
また、いちいち、くだらないんですけど
……誰が考えるんですか?

坂本 ぼくと。

阿部 ぼくが。

坂本&阿部  ふたりで。

岩田 (苦笑)
全部で、17種類とかあるんでしたっけ?

坂本&阿部  19種類です!

岩田 (苦笑)

坂本 どんなものがあるか、
紹介したりしたほうがいいんですかね?

岩田 まあ……そうですね……うん……まあ。

坂本 じゃあ、ほら、ほら!

阿部 はい! まずこれが「正面」ですね!(写真:

岩田 ……。

阿部 そして、これが「達筆」です!(写真:

岩田 …………。

阿部 続きまして、「ちょんまげ」!(写真:

岩田 …………「岡っ引き」は?

阿部 「岡っ引き」は、こうです!(写真:

坂本 「手乗り」やってあげて、「手乗り」!

阿部 「手乗り」は、こう!(写真:

岩田 あと、ほら、こういうのなかったですか、
シャンパンの栓、開けるようなやつ。

阿部 あ、「指相撲」ですね!(写真:

岩田 あのシャンパンのプチゲームはね、
「やられた」と思いましたよ。

坂本 ああ、そうですか、よかった!
岩田さんに「やられた」とか「くだらねぇ」とか
言うてもらうのを目標に、
ぼくらは一生懸命考えてるんですよ。

岩田 「くだらねぇ」は最高の褒め言葉(笑)。











坂本 そうですね。
ホンマに「くだらない」と思われたら
困るんですけどね。

阿部 そしてこれは岩田さんにやってもらった
「スクワット」です!(写真:

岩田 くだらねぇ(笑)。


(……つ、続きます)
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