社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.6 『おどる メイド イン ワリオ』編

第4回 「その場にいる人みんなをニコニコさせる」

岩田 最初に発売された『メイド イン ワリオ』は、
必ずしも営業的な期待が高い商品
というわけではありませんでしたよね。
しかし、ニンテンドーDS、そしてWiiと、
いまやハードのロンチに『ワリオ』シリーズは
なくてはならないタイトルに成長しています。
この変化は、作っている立場からすると
ちょっと愉快じゃないですか?

坂本 たしかに、そうですね。
最初は「一発芸」みたいに思われていたのに、
ニンテンドーDSのときなんかは、
「これは『ワリオ』のためにあるようなハードだ」
みたいなことを言われて(笑)。
ですから、Wiiのロンチに関しては、じつは、
言われる前から「やるぞ」という気でいたんです。
そういうシリーズになるとは、
一作目のときはまったく思いませんでしたね。

阿部 一作目のときというのは、
『ワリオ』単体がどうこういうより、
任天堂の雰囲気自体が違っていたと思うんです。
なんというか、任天堂が、
任天堂ブランド的なゲームばかりを
作っているようなイメージが
社内にも社外にもあったと思うんですね。
そういう中で『メイド イン ワリオ』というのは、
亜流というか、亜流なら亜流なりの楽しさを、
という気持ちから生まれたソフトで。

岩田 『メイド イン ワリオ』を作っていた当時、
「任天堂ができないことをやろう」と
よく言っていたことを私も覚えています。

坂本 はい、そうでしたね。

阿部 作りながら、
「これ、任天堂が出していいのかな」って
ちょっとドキドキしていたくらいで(笑)。

岩田 うん、下品ですからね(笑)。

一同 (笑)

坂本 ですから、スタッフのノリというのは
一作目からすごくよかったんです。
明らかにこういうものを作りたい人が
こういうことをやるんだ、ということで
すごく集中して作っていたと思います。
ただ、それをどうパッケージすれば
本当に売れるものになるのか、
自分たちの「らしさ」を保ったうえで
どう商品にすればいいのかというのが
不安というか、悩みだったんですね。

岩田 おもしろいことに、一作目の『ワリオ』を
どう売り出せばいいのかということを
すごく一生懸命考えていたのが
宮本(茂)さんだったんですよね。
「任天堂ができないことをやる」というのは、
極端にいうと「宮本さんが作りそうもないものを」
という意味でもあるわけで、
そういう考えから生まれた「亜流」を、
誰よりも宮本さんが売ろうとしていたというのは
非常におもしろいところですね。

坂本 たしか「最多 最短 最速」というコピーは、
宮本さんが推してくださったんですよね。

岩田 そうです。
宮本さんがすごく強くそれをパッケージに
「書け、書け」と主張したんですよ。

坂本 けっこうもっと過激なことを言ってもいいぐらい、
「最低!」とかでもいいんじゃないかと
言うてはったのを覚えてますね(笑)。

岩田 あのとき、宮本さんは、
この不思議なおもしろさを持つ
『メイド イン ワリオ』というソフトを
たくさんある商品の中に
いかに埋没させずにアピールしていくか、
ということにすごく肩入れしていたんですよね。
それが、結果的にこうやって、
ハードのロンチに欠かせないソフトに成長し、
なにより「幅広い層へアピールする手軽なソフト」の
さきがけになったというのが、とても興味深いですね。
宮本さんが自分では作らないようなものを
ほかならぬ宮本さん自身が求めていたというか。
思えば「似顔絵チャンネル」ができた経緯も、
それとよく似ているかもしれませんね。

坂本 ああ、なるほど。

岩田 坂本さんたちのチームが
ニンテンドーDS用のタイトルとして作っていた
あるソフトを見せて貰ったとき、
それは常々、宮本さんが
「こういうものがあるといいんですよね」と
言っていたものそのものだったんです。
それで、私がそれを宮本さんに見せて
「宮本さんが求めているのは
こういうものじゃないですか」と提案したら、
あっという間に話が進んで、
Wiiの「似顔絵チャンネル」になったという。

坂本 あのときはびっくりしましたよ。
出張明けに会社に行ったら、スタッフが、
「岩田さんと宮本さんとが来て、
なんか、たいへんなことになってますよ」
って言われて。
「ぼく、なんか悪いことしたかな?」
って、すごく不安で……。

岩田 (笑)

阿部 今日は、そのソフトを持ってきました。
もちろん開発途中のものですが……これです。

岩田 「似顔絵チャンネル」の基本的な構造って
すでにこの中に全部入ってるんですよね。
簡単な操作でいろんな顔を作るということも、
直感的なインターフェイスもすごくうまくいってる。
宮本さんはこういう「分身」を作りたがっていて、
「データを小さくして、たくさんゲームの中に入れたい」
とも言ってましたから、これがまさにぴったりで。

坂本 宮本さんがこういうものを求められてるというのは、
正直、ぼくらはわかってなかったんですよ。
で、これも、とくに似顔絵だけを
作ろうしていたわけじゃなくて、
単にアバター的なものを作って、
それをソフトの中にどんどん登録していく
というような仕組みのものとして考えていたんです。
だから、似顔絵の機能も、最初は
目とか鼻とか口をモンタージュ的に
並べていくだけのものだったんですが、
いざ、ぼくが自分の顔を作ろうとしたときに、
その、ぼくの顔のパーツがなかったんですね(笑)。
「ぼくの目はもっと大きくて垂れてんのに、
パーツがないなぁ……」ということで、
「これ、パーツのサイズを変えたり
角度を変えたりできないの?」
ということになって。

岩田 それがじつは大発明だったんですよ。
その発想がなければ「似顔絵チャンネル」も
「Mii」もないわけですから、
Wiiも違ったマシンになっていたはずなんです。

坂本 言うてみるもんですね。
単に自分の顔が作れなかっただけなんですが(笑)。
あの、ぼく、スタッフにこう言ったんですよ。
「規格外の顔も作れるようにしてくれ」って。

岩田 「規格外の顔」(笑)。
そのひと言がなければ今のWiiはないんですよ。

阿部 ということは、つまり、
坂本さんの顔がふつうの顔だったら、
今のWiiはなかったんですね。

坂本 そやね。って、コラ。

岩田 でも、まあ、そういうことです(笑)。

坂本 いや、まあ、そうですね。
ぼくの顔も規格外だし、その意味でいうと
世間にはもっと規格外の人もいるので(笑)。
パーツを変化させられるようにしないとダメだと
いろいろ要望を出していたら、
わりといろんな顔が作れるようになって。

岩田 そこでソフトが「おもしろく」なったんですよね。
おもしろくなってないと、坂本さんも
私にこのソフトを見せにこなかったでしょうから。

阿部 やはり坂本さんの規格外の顔がWiiを変えたと。

坂本 そういうことやね。もうええわ。

岩田 それがぐるっと一周回って、
『ワリオ』の中にも「似顔絵チャンネル」の機能が
活きているからまたおもしろいですよね。
ちなみに『ワリオ』の中に「Mii」が
どういうふうに登場するか、説明してもらえますか。

阿部 ゲームの最初に、名前を登録するときに、
自分のMiiを選ぶことができるんですけど、
それがプチゲームの中に
ちょこちょこと顔を出すようになってます。
たとえば、顔が自分のMiiで、
体がバネになった人形のようなものが出てくるんですね。
ようするに、「バネ人形になった自分」です。
で、そこにボールが飛んでくるので、
こう、作法棒を頭の上にかまえて、
──「チョンマゲ」の状態ですね──
体をくねらせてよけるんです。
そうすると、画面の中の自分も、
体をくねらせてボールをよけるという。


岩田 あのプチゲームはやっぱり
自分の似顔絵になることによって
明らかに手応えが変わりましたよね。

阿部 ぜんぜん感覚が違うんですよね(笑)。

岩田 「あ、オレだ」って(笑)。

坂本 一生懸命になります(笑)。

阿部 やられたらすごく悔しいんですよね(笑)。
まあ、基本的に『ワリオ』におけるMiiは、
そういう「隠し味」みたいな使い方をしています。

坂本 後ろ姿で出てきたりするのが
けっこうおもしろいんですよ。
一生懸命、画面の中の人形を操作して、
失敗したときにその人形が振り返ったら、
自分やった、とか(笑)。

岩田 いいですね、そういうの(笑)。

坂本 くだらないですか?

岩田 うん。「くだらねぇ」(笑)。

一同 (笑)

岩田 じゃ、最後に、楽しみに待ってくださっているお客さんに
作り手からのメッセージをひと言ずつ、お願いします。

動画を見る
阿部 はい。これまでの『ワリオ』というのは、
おもに携帯機でリリースしていたということもあって、
ひとりで遊ぶときの楽しさを追求していたんですけど、
今回はわりとゲームというよりも遊びとしてというか、
みんなで遊ぶための道具としての
役割をすごく重視して作ったので、
もちろん、ひとりで遊んでも楽しめますけれども、
できるだけ人を呼んで、恥ずかしさとかを捨てて、
思い切って遊んでもらいたいなというふうに思ってます。

坂本 本当に、やってる人も見てる人も楽しいソフトです。
まわりで見ている人がツッコミ入れたりとか、
そういうゲームの外にある部分も楽しめると思いますので
遊び道具というか、パーティーグッズとして
いろんな場所で楽しんでいただければと思います。
クリスマスはもちろん、お正月は親戚一同で、
おじいちゃんもおばあちゃんもいっしょにスクワットして、
がんばっていただければと思います(笑)。

岩田 つまり、この『おどる メイド イン ワリオ』というのは、
たった1個のコントローラとたった1個のテレビ画面が
その場にいる人みんなをニコニコさせるものなんですね。
そういうものを作りましたので、
それを味わってください、ってことなんでしょうね。
……いや、しかし、あきれるほど
「こういう部分がたいへんでした!」という
苦労話の出ないインタビューになりましたね(笑)。

一同 (笑)

岩田 もちろん、楽に作っているという感じは
まったくしないんですけど。
なんていうか、疲れてるけれども、
悲壮感がないというのかな。
なんか、無条件にニコニコしてるんですよね、
『ワリオ』チームの人たちは。

坂本 それは『ワリオ』チームの常ですね。
まあ、ぼくの知らないとこで現場のスタッフは
いろいろ泣いてるかもしれませんけど(笑)。
でも、開発を終えてみて、結果的には
すごくスムーズにいろんなことが
楽しくできたという印象がありますね。
まあ、たしかにみんな、疲れてるとは思うんですけども、
楽しそうにやってくれてるのも伝わってきますし、
そういう意味では本当によかったなと思ってます。

岩田 まあ、現実には、
苦労しないでものができるはずはないんですけどね。
ただ、現場のスタッフに悲壮感が漂わないところが
みんながニコニコ笑って遊べる商品に
仕上がる理由なんじゃないかなと。

坂本 ですね。けっこう出ちゃいますもんね、
作り手の空気みたいなものって。
みんなが素直に楽しんでやってる部分が
ゲームに出ているとしたら、
こんなにうれしいことはないですね。

岩田 いや、だって、鼻に指入れるゲームでね、
「苦労したぞ!」というオーラが
出ててもしょうがないですもんね!

一同 (笑)


『おわりに』へ