社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編

第6回 「中で一緒に編み始めるとようやく話がかみ合ってくる」

(前回から続きます)

岩田 宮本さんは、
「『ゼルダ』らしさとは何か?」と聞かれたら、
なんと答えることにしてるんですか。
なにか、はっきりと言えることがあるんですか?

宮本 うん、ぼくにとって「『ゼルダ』らしさ」というのは、
「『マリオ』らしさ」ということと
ほとんど変わらないんですけどね。

岩田 それは、なんですか?



 
宮本 基本的には
「お客さんをバカにしてない」
ということだと思うんです。
お客さんは、ふつうのことはちゃんと全部考えるし、
理不尽なことがあれば、ふつうに怒る。
だから、そういう「ふつうのこと」が
要素としてきちんと収められているのが基本で、
そこが乱れていると、
「これは『ゼルダ』じゃないね」ということになる。
そういうときにぼくは「違う!」と言うわけです。
だから、ぼくはプレイヤーのかわりに怒るんです。
「オレをバカにしてるのか」って(笑)。
「これはお客さんの声だよ。
このまま売り出したら、あとでもっと怒られるからね」
というふうに言いながら、ずっとつくってきたんです。
そういうところがぼくにとって原点で、
それは『ゼルダ』も『マリオ』も変わらないんですよ。
それを基本にしつつ、どちらかというと
『マリオ』はその場その場で刹那的に対応する楽しさ、
『ゼルダ』は成長していくという大きな気持ちの流れ、
そういうふうな違いがあるだけで、
じつは基本は同じなんですよ。

岩田 なるほど、なるほど。

宮本 だから、「『ゼルダ』のストーリーがよかったです!」
という人はいてもいいし、うれしいんですけど、
そういう人が『ゼルダ』の作り手として入ると、
ちょっと、かみ合わないかもしれないです。
もうひとつ、『ゼルダ』において大事なことは、
「ものがきれいに詰まっていること」。
これは、説明がちょっと難しいんですけど、
いろんなアイデアがうまく絡み合っている状態で、
地上とか景色に対して、個々のネタが、
バランスよくそろえられていること。
そういうところの「疎」と「密」の部分が
うまくレイアウトされているということですね。
そういうところが『ゼルダ』では重要です。
今回の『トワイライトプリンセス』でたいへんだったのは
開発当初は後半に行くにしたがって、
そのバランスが悪くなっていたんですね。
モデルチームだけがどんどん進んで作り込んでいくと、
内容がともなわないのに作り込んでしまうというか、
ネタとモデルがかみ合わなくなるので
やればやるほど疎の部分が大きくなっていくんです。
あるいは、ネタどうしが潰し合いをしていたり。
そういうところをうまく収めるのが苦労で、
逆にいえば、そのバランスをうまく収めてるのが
『ゼルダ』だろうと……『ゼルダ』にかぎらないかな、
うちの作り方なのかな。

岩田 宮本さんの作り方でしょう。

一同 (笑)

宮本 そういうことって、
集まって話し合ってもらってもわからないし、
外側からあれこれ言っていても伝わらないんですよね。
ぼくが外から表面的なことを見ていろいろ言っても
実際に作ってる人たちのほうは
「そういうつもりで作ったんじゃないんだけどな」
みたいな気持ちでいるので、ずっと平行線なんです。
だから、ぼくが中に入り込んで
一緒に編み始めるとようやく話がかみ合ってくる。
外側から見ているときに、
「いまの段階で『ゼルダ』的に欠けているもの」
みたいなリストを作って渡してもおそらく伝わらない。
でも、実際にそれを作業に落としてみて、
そのあとで「欠けているものリスト」を読むと、
その意味がわかるのかなと思うんですけどね。

岩田 実際に、変わっていく姿を見たら、わかる。
いま、中堅どころの開発者の人たちは、
そういう経験を積んでいるというのが
『ゼルダ』を作るうえで大きいんでしょうね。

青沼 そうですね。
だから、たとえば若手の開発者だと、
開発の初期に外側から宮本さんに
そういうふうに投げられても、
「え、そんな細かいことまで
やらなきゃいけないの?」とか
「そんなことはそんなにこだわらなくても
いいんじゃないか」みたいな感覚で
とらえてしまうことが多いと思うんです。
ところが、それがきれいにつながってきたとき、
「あ、なるほど。こうなるから、
はじめからこうしなきゃいけないんだね」
というふうなことがわかってくるという。
やっぱり作ってるときは見えなくなるんです。
さっきお話のあった、
「お客さんをバカにしている」ということについても、
現場で実際に開発している人は、
当然お客さんをバカにしているつもりはないんです。
でも、やっぱり見えなくなる。
それがどういうふうに受け取られるのか
というところがどうしても見えなくなってしまうんです。

岩田 まったく前提知識がない人が、
素の状態で遊んだときにどう感じるかというのは、
作り手にはどんどんわからなくなりますよね。
だから、宮本さんが開発の終盤に入るというのは
ある意味とても合理的なことで、
逆に宮本さんが最初からずっと入り込んでたら、
おそらく、あとから入って見たときほど、
「ふつうの人はこれを最初に触ったときどう感じるか」
ということが明確じゃなくなってしまうんだと思います。

青沼 そうですね。
で、宮本さんからそういう指摘をされたときに、
ぼくはスタンスとして決めていることがあって、
それは、「宮本さんが3回同じことを言ったら必ずやる」
ということなんですけれども。

宮本 (笑)

青沼 1回言われてもすぐにはやらないんです。
とりあえず、自分で解釈して判断したいので。
でも、考えているうちに2回目が来るんですね。
2回言うということは、やっぱりそうしたいんだな、
と思いながらも、まだ自分で組み立てようとする。
で、すぐやらなければならないことはほかにありますから
またしばらく棚上げしていたりする。
すると、「どうしてやってくれないの?」
という3回目が来るので(笑)、
そこで初めて最優先事項になるんです。
そういうのがこれまでのパターンだったんですけど、
今回はその余裕がなかったというか、
もう、1回目に言われたときから、
「あ、それはもう、そうするしかない」という感じで。

岩田 3回待たずにやってしまった(笑)?

青沼 待たずにやってしまいましたね。

宮本 理解が速くなったね。違うか(笑)。

岩田 とほほメールというのが、
宮本さんからばんばん来るんでしょう?

青沼 あ、とほほメールね。
(前に取材を受けた若いスタッフが)
言ってました(笑)?

岩田 ええ(笑)。

青沼 でも、ぼくのところにはとほほメールどころか、
携帯のメールで修正の指示が届くんですよ!
たとえば、午前中、通勤のために電車に乗ってると、
携帯が鳴って、見ると宮本さんからで
「あそこの仕様はね……」って書いてある(笑)。

岩田 (笑)

青沼 しかも、立て続けに4通くらい来るんですよ。
もう、電車の中を進行方向に向かって走りましたよ。
「やばい!」と(笑)。
で、あとから聞くと、どうやらその時間、
宮本さんは重要な会議に出てたみたいなんですよ。

岩田 会議中に携帯メールで仕様変更ですか(笑)!

宮本 いや、もう、ほら、
ずっと秒読みやったもんね、いろんなことが(笑)。

青沼 ま、そうですけどね。
もう、とにかく思いついたら言わないと気が済まない、
というところが本当にあって。
今回の指摘はメールでの指摘が多かったですね。

宮本 あ、そう、メールでやったのは今回初めてですね。

青沼 『風のタクト』のときだと、
2ページくらいのドキュメントにまとめられて
「はい」と言って渡される、という形だったですけど。

宮本 責任者にまとめて渡すというパターンが多かったんです。
しかも、なるだけ現場には行かないようにして
メインの担当者とだけ、やり取りする。
現場の運営は任せてあるわけですからね。
ところが今回は、さすがに関わる人数が多くて、
若い開発者もたくさんいましたから、
見えないところでいろんな指示が飛び交うよりも、
関わる人たちに見える形でやったほうがいいと思って。

岩田 ああ、なるほど。

宮本 まあ、気になる人は読んだらいいし、
気にならない人はもう無視してもいいという形で。
要は、あなたの先輩がそれをどう受け取ってるか、
どう理解して、どう返すのか、というところまで含めて
全部見てもらったほうがいいと思ったんです。
ま、でも、いちいち全員にやったわけじゃないですよ。
本来であれば2〜3人にするような話を
10人くらいに同報していたという感じで。

青沼 今回、やっぱりスタッフが多かったので、
たとえばぼくだけに指示が集まると、
手配や段取りをするだけでも
すごく手間になってしまうというところがあったので、
そういう意味では、関係者全員に
宮本さんの指示が行くという体制はよかったですね。
それぞれの担当者がそのメールを見て、
自分なりの考えをすぐにフィードバックして
「じゃあ、こうしよう」ということが
効率よく決定していきましたから。

宮本 そういうふうにした裏のテーマとしては、
ひとつの問題に対する判断の基準というのを
担当外の人にも理解してもらうことで、
その基準を統一したかったんですね。
そうすると、ほかの問題の解決も早くなるから。
やっぱり、関わる人数が増えてくると
話がうまくかみ合っていかないから。

岩田 でも、何十人もいると、そこまでしても
なかなか基準を統一することは難しいでしょう?

青沼 そうですね。

宮本 だから、指示や結論だけではなく、
どうしてそうなるのかという
経過や背景を書くようにはしたんですよね。
ただ、それでも……。

青沼 それでも、初めて『ゼルダ』に関わる人が読んだら
わけがわからないだろうなっていうメールが
いっぱいありましたけどね(笑)。

宮本 うん。ちゃんとついてきてないともうわからへん(笑)。

青沼 だけど、わけがわかんないということはわかるから、
「これ、宮本さんは一体
どういうことを言ってるんですかね?」
って聞きに来たりする人はたくさんいたので。

岩田 聞きに来てくれたら、まだいいですよね。説明できるから。

青沼 そうですね。
指示が具体的にわからなくても
みんなたいてい何か思い当たる節はあったりするので
「こういうこと言ってるんですかね?」
みたいなことを聞きに来たり。
そういう前向きな姿勢にどんどんなっていったので、
今回、ああいうやり方をしてもらえたのは
彼らにとって非常によかったと思うし、
ぼくも助かりました。

宮本 あ、助かった?

青沼 ええ、助かりましたよ。

宮本 それはよかった(笑)。


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