高野 |
はい。じゃあ、私から(笑)。
やっぱり、今回の『ゼルダ』も最後の数ヵ月間で
急激にブラッシュアップされてよくなるんですが、
内容がもう、恐ろしいほど変わるんです。
細かい仕様も、ストーリーも、すべて。
で、それはもちろん、宮本さんが
現場に入ってくるからなんですけど。
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岩田 |
はい(笑)。
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高野 |
今回の『トワイライトプリンセス』でいうと、
とくにゲームの序盤ががらりと変わったんですね。
宮本さんは昔からそうなんですが、ゲームの序盤、
出だしの部分にものすごくこだわるんです。
で、それはぼくらもわかっているので、
宮永さんたちといっしょに、いろいろ考えて、
序盤のところを作ってはいたんですけど……
まあ、作りながらも、なんとなく、
「変わるんだろうな」という予感はあって(笑)。
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宮永 |
ぼくも、その予感は感じてました。
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一同 |
(笑)
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高野 |
とくに今回の『ゼルダ』では、
ゲームの約束事はもちろん、Wiiのリモコンのことまで、
とにかくすべての要素がその冒頭に詰まっていて、
そこをプレイすればすべて体験できるという
基礎にしたかったので、もう、妥協は何ひとつなくて。
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岩田 |
見事にちゃぶ台が返ったわけですか。
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高野 |
結果的には、そうなんですが……。
あの、宮本さんの「ちゃぶ台返し」というのは、
いわゆるお膳をポーンと
ひっくり返すようなものではないんですよ。
いや、そういうものもありますが(笑)。
でも、たいてい、宮本さんのやり方というのは、
今回の『ゼルダ』の序盤がとくにそうだったんですが、
ちゃぶ台ごとバーンっとひっくり返すのではなく、
こう、ちゃぶ台の上の茶碗を、
(茶碗を順々にひっくり返す仕草をしながら)
ひとつひとつ、ひっくり返していくんですよ。
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一同 |
(爆笑)
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高野 |
(なおも茶碗を順々にひっくり返す仕草をしながら)
こう、端から、茶碗を一個一個ひっくり返していって、
お皿もひっくり返して、お椀もひっくり返して、
最後に、必要があるなら、
ちゃぶ台そのものもひっくり返す、と。
ですから、結果的に、最後の状態だけを見ると、
いかにもちゃぶ台がバーンっと
ひっくり返されたように見えるんですけど、
じつはそうではないんですよ。
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岩田 |
じゃあ、星一徹のあれとは違うんですね(笑)。
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高野 |
違うんです。
バーンっとちゃぶ台を蹴っ飛ばして、
「やり直しだ!」と言うんじゃなくて、
(またしても茶碗をひっくり返す仕草をしながら)
こう、ひとつひとつの茶碗を、こう、順々に。
こう変えて、こう変えて、こう変えて……。
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岩田 |
気がついたら全部が変わっている(笑)。
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高野 |
はい。最後だけ見ると、見事に「ちゃぶ台返し」です。
でも、じつはすごく細かい返しなんですよ。
それはもう、本当に、アニメーションからスクリプトの
ひとつひとつにまで、すべて手を入れていきます。
最終的には、「もう、これで変更はないよね?」って、
本人が自分で止めにかかるまで続くんですが、
「もう終わりだね」って自分で言った2時間後に
「ここ、セリフ変えたいんだけど……」
っていうメールが届いたりして。それも深夜に。
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岩田 |
自分で部屋のカギを閉めておいて、
自分でまた開けて、という(笑)。
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高野 |
もう、本当にすごいですよ。
まわりが「もう時間的に無理ですよ」って言って、
ようやく本人が「もうないから。もう大丈夫だから」
と言っても、夜中になると必ずプランナーあてに
メールがちょこちょこちょこっと来て、
「ここ変えたいんだけどなあ……
まあ無理だったらいいけど……」
みたいなことが書いてあるんですよ。
「無理だったらいいけど」って、
もうとっくに「無理です」って言ってあるんですけど、
それでもそういうメールが何度も来るので、
そりゃもう、やるしかないので、
そういうことがくり返されるうちに、
スタッフもみんな、居酒屋の店員さんのように、
「ハイ、よろこんで!」みたいな状態になるんです。
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一同 |
(爆笑)
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高野 |
で、間違いなく、それがあるから、
最終的に『ゼルダ』は引き締まるんですよ。
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朝川 |
でも、ヒヤヒヤしますよね。
本当に最後の1週間はどうなることかと(笑)。
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高野 |
こう、宮本さんが通路を歩いてきて、
どこの角で曲がるかというのが見所なんですよ。
曲がったところのチームが作っているものが
変わることになるので(笑)。
だから、慣れてるスタッフは、宮本さんが歩いてくると、
それを遠くから見ながら、
「どこに行くんだろう?」ってニヤニヤしてます。
もう、そういう風景は恒例ですね。
あれを見ると、「『ゼルダ』作ってるなぁ」って(笑)。
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岩田 |
それも、重要な『ゼルダ』っぽさのひとつ(笑)。
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滝澤 |
恒例です(笑)。
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高野 |
恒例ですねえ(笑)。
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宮永 |
今回は、メールでの指摘が多かったですよね。
1時間くらい席を外したあとで、
届いているメールの中に宮本さんからのものがあると、
「ああ……開こう、かな」みたいな(笑)。
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高野 |
この人はいつ帰ってるんだろうと思うぐらい、
夜中までメールが来ますからね。
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宮永 |
そうそう(笑)。
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高野 |
新しく入ってきた子たちは、
やっぱりその洗礼を初めて受けるんで、
けっこうビックリしますよね。
「もう変更はないって言ってましたよね?」
とかって、ぼくらに恐る恐る確認しに来るんですが、
ぼくらも答えられないんですよ(笑)。
「それは、わからないなあ」みたいな感じで。
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岩田 |
でも、今回、宮永さんは序盤のところを、
宮本さんにひっくり返されないようにって
すごく注意しながらまとめていたと思うんですけど、
それでもやっぱりひっくり返されるものなんですか。
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宮永 |
油断してる部分をうまく突いてくるんです。
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一同 |
(笑)
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高野 |
とにかく手応えのないものは絶対に言われますね。
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宮永 |
言われますねえ。「あ、そう来たかー」みたいな。
「絶対ここはこう来るから、ちょっとガードして、
ちゃんと前もって作っとこう」と思ってるんですが、
そう思ってたところの中でも、
気づいてないところをスッと突いてくるんですよ。
「ここ、なんでこんなんなん? できてへんやん」と。
例えばサウンドのことだったりアニメーションだったり。
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朝川 |
すごく細かいとこを見てはりますよね。
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高野 |
しかも、その細かいところが、効くんですよ。
そのサウンドがひとつ入るだけで、
ものすごく手応えが変わるんです。
それはもう、宮本さんならではですね。
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岩田 |
ダンジョンも、いろいろあったんですか?
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池松 |
けっこう、ありましたね。
わかりにくいところ、遊びにくいところというのに
宮本さんはすごく敏感なんですよ。
「これ、遊んでる人は、わかってくれるよね?」
みたいな感じで作っているものには必ず指摘が入ります。
で、言われるところというのは、気にはなっていて、
それでももう期限が来てるからいじれなくて
作業を止めていたりするものもあるので、
宮本さんが指摘してくれると逆にそれを利用して
「やっぱりここ、変えてくれる?」
というふうにスタッフに頼めるというのもあります。
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一同 |
(笑)
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岩田 |
じゃあ、ここにいるリーダーの方たちは、
被害者でもあり、加害者でもあるという(笑)。
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池松 |
そうですね。
正直、来てほしいなと思うときもありますね。
代わりに言ってくれたら助かるな、みたいな(笑)。
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岩田 |
滝澤さん、デザインの部分ではどうでしたか。
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