3. テレビ+ブラウザーの決定打に
岩田
この機会に訊いておきたいんですが、
わたしの中でブラウザーのテストって、
面倒でたいへんそうなイメージがあるんです。
いったいどのようなテストをしているんですか?
佐々木
世に数多(あまた)あるサイトをひとつずつ巡回して、
表示くずれなど不具合がないか、
延々とチェックしています。
岩田
えーと、普通PCのブラウザーですと、
まずパブリックβ(※16)などを一般公開して、
「不具合があったらご報告ください」みたいな
やりかたをするケースが多いじゃないですか。
でもゲーム機はそういうやりかたはできないですよね。
世の中にウェブサイトって、それこそ
星の数ほどあると思うんですけど・・・。
津田
そういう意味では今回、
3DSのブラウザーでの経験が
有効に使われてはいるんですが、
佐々木さんと話して、それでもやっぱり、
「最低限6か月間以上はやろう」と決めました。
岩田
6か月間ずっとテストしまくるわけですか?
でもその間に、
サイト側の仕様が変わったりしますよね?
津田
はい、ウェブサイトは、見た目は同じでも
じつはサーバー側で毎日のように
変更が加えられているサイトもあります。
とくに人気のサイトであるほどその傾向は高いんです。
本来ならば、HTMLは標準規格ですから、
規格に忠実であれば問題が起きることはないはずなんですが、
現実はそうじゃないんです。
ブラウザーごとにHTMLの仕様の解釈が異なっていたり、
規格が確定する前段階の技術を使って
さまざまなウェブサイトがつくられていたりするんです。
そこはいたちごっこなんですが、
地道に繰り返し検証してきました。
岩田
なんだかそういったお話を訊くと、
人力のかたまりみたいな気がするんですけど(笑)。
佐々木
はい、まったくご想像のとおりです(笑)。
ピーク時は30人以上で、
5000サイト以上をテストしてきました。
もちろんできるかぎり機械化はしているんですが、
いろんなサイトに対応するためには
限界がありますので・・・。
岩田
巡回してエラーが出ないかチェックするだけなら
機械化できますけど、
それ以外のことはできないですよね。
佐々木
そうなんです。
ちなみに、エラーを確認するのも人力です。
実際にテスターさんの目で
一つひとつウェブサイトを巡回していただき、
一般のブラウザーと比較して問題がないかを
確認していただきました。
やっぱり、インターネットブラウザーとして
最終的にお客さんに安心して使ってもらうためには、
少なくとも6か月はみっちりチェックして、
できるかぎり安定度とセキュリティーを高める必要があるので、
そこは努力しています。
岩田
わかりました。あと最後に何か、おふたりから
アピールしておきたいポイントはありますか?
津田
では、わたしのほうから。
今回はタッチスクリーンが大きいので、
タッチスクリーンをメインの操作対象と考えています。
多くの方がタッチ操作でほとんどすべての機能が
簡単に使えるようになっています。
その一方で、十字ボタンなどのボタン類は
従来からのゲーム操作に慣れている方だけでなく
そうではない方でも、
このブラウザーを使い続けることで
徐々に快適に操作できるものにしたい、
という考えがありました。
岩田
十字ボタンやほかのボタンは
どういう操作を割り当てているんですか?
津田
ゲームソフトと同じような操作感覚で使えるように、
十字ボタンではフォーカス移動、
スティックでページ全体の移動や拡大縮小、
Aボタンで決定を割り当てています。
おそらく本体機能のアプリケーションで
ボタンにこんなに機能をたくさん割り当てているものは
ブラウザーだけだと思います。
たとえば、Lスティックの押し込みで
ツールバーなどが非表示になり、
ウェブページを広く表示できます。
岩田
使えば使うほどいろいろな発見をする感じですかね?
津田
はい、はじめての人から、熟練の方まで快適に楽しめる、
間口が広く、奥も深いアプリケーションになったと思います。
さらに今回はWii U独自のJavaScript拡張によって、
JavaScriptのプログラムから、
Wii U GamePadの各種ボタンやジャイロセンサーなどを
ウェブサイト側で検知できます。
岩田
つまり、サイト制作者の方が自由に、
Wii U GamePadならではの
いろいろな入力を反映するサイトが
つくれるということですね。
津田
そうです。対応することで
操作性がぐんとあがりますので、
それを各サイトの方に知ってもらって、
ご活用いただけたらと思っています。
岩田
サイト制作者の方の工夫ひとつで、
おもしろいものができるかもしれませんね。
津田
社内的にもいくつか実験しているんですが、
たとえば地図のサイトなどでは、
アナログスティックの操作で
地図のズームイン、ズームアウトなどに対応すると、
とても快適に操作できます。
従来のマウス操作やタッチスクリーンとは
またぜんぜんちがうスタイルなので、
「新しいなぁ」と思いました。
岩田
なるほど。
スマートフォンが普及して
対応した専用サイトがたくさんできたように、
Wii Uからのアクセスが増えたら、
そういったサイトも増やしていただけるかもしれませんね。
津田
はい。「増えていってほしいな」と思います。
あと、任天堂らしさという意味では、
Wii U GamePadの画面の左下にMiiが表示されています。
このMiiにはいろいろな意味があるんです。
岩田
今回、Wii Uでは
複数のユーザーアカウントを持つことができますから、
いま使っているユーザーのMiiが表示されるんですよね?
津田
はい、さらに、
ウェブページを読み込んでいる最中は首を振ったり、
ロード時間が長いと寝てしまうこともあり、
使い手の気持ちを代弁してくれるようにしました。
また、ブラウザーのさまざまな隠れた機能を
時々教えてくれたりもします。
あと、このMiiをよく見ていただくとわかるのですが、
本を持っているんです。
Miiをタッチすることで、ブックマークが開きます。
ブックマークも本当の本のようなデザインになっていますから、
自分の好きなウェブサイトを
楽しみながらコレクションしてほしいです。
岩田
佐々木さんからは、何かありますか?
佐々木
あと今日お話ししきれなかったんですが、
同じグループのデザイナーさんや技術サポートメンバーに加え
今回はビデオプレーヤーを
Nintendo European Research and Development SAS(仏)
(NERD)(※17)さん、
WebKitの中のJavaScriptのJIT(※18)は
Nintendo Software Technology(NST)(※19)さんに
ご提供いただきまして、本当に多くの方のお力添えのおかげで、
新しいブラウザーが実現できたと思っています。
岩田
NERDさんには
動画再生技術に経験豊富な技術者が在籍しているので、
動画再生まわりのいろいろな問題を解決するのに、
とても助けられましたよね。
あと、そういえば、JavaScriptのJITは、
別のプロジェクトでつくられていたものを、
開発中盤になって、もらってきたんでしたね(笑)。
でもやっぱり、ブラウザーって、
つくるのはとてもたいへんだけど、続けていくことで
ずいぶんいろいろできるようになるものなんですね。
今回、それをすごく感じました。
佐々木
そうですね。
本当になんというか、深いです。
応用範囲の広い技術で、やればやるほど
「そういった技能は上がっていくものだ」と思います。
任天堂としてはDSから数えると
5つめのブラウザーになりますが、
ぜひ多くのお客さんにさわっていただきたいです。
岩田
いろんな方にぜひ、
ゲーム機であることを忘れるくらい普通に使える快適さを
体験してもらって、さらに
「インターネットブラウズは
エンターテインメントになりえる」ということを、
このブラウザーで証明したいですね。
おふたりとも、今日はありがとうございました。
佐々木・津田
ありがとうございました。