2. 「家族の幸せって、何だ?」
岩田
テレビとWii U GamePadの2画面は
どう使い分けているんですか?
民谷
じつはいろいろ議論があったのですが、
「シンプルにわかりやすく」ということを重視して、
画面の構成としてはどちらも同じものが映るようにしました。
家族で複数の人が同時に使うときはみんなでテレビを見ながら、
個人でプライベートに使うときは
Wii U GamePadを使っていただくイメージです。
岩田
ビデオチャットシステムを
ゲーム機に実装するという意味で、
民谷さんはまず、
何からやろうと思いましたか?
民谷
わたしはまず、ビデオチャットをしているときよりも、
「その前の段階が重要」と考えました。
チャットをはじめる前はドキドキして待って、
つながった瞬間に、相手と顔をあわせてうれしくなる。
そういった体験を、「わずらわしい操作なく、
できるだけ簡単に達成できるようにしたい」と考えたんです。
岩田
たしかにビデオチャット自体は
いろんなシステムでできるようになりましたが、
そこにたどりつくまでが面倒だと、
なかなか利用してもらえないですからね。
また当然、Wii Uのお客さんには
そういった設定にくわしくない人も含まれますから。
民谷
はい。そこで、そういった方にも
気軽に『Wii U Chat』を楽しんでいただけるよう、
とにかく「シンプルに導けるように」と考えました。
開発チーム内では、
“2ステップコネクション”と呼んでいます。
岩田
それは具体的に言うと、
どんなステップなんですか?
民谷
まず『Wii U Chat』を起動すると、
フレンド登録したMiiが並んでいます。
そこから話したい相手を選ぶのが1ステップ、
「発信」を押して2ステップ、でつながります。
岩田
「Miiを選んで発信」、だけでいいんですか?
それだけで何もいらない?
民谷
何もいらないです。
岩田
Miiはどのように表示されるんですか?
民谷
Miiはビデオチャットの回数が多い人から、
順番に並んで表示されるようになっています。
よくビデオチャットする相手のMiiは
前のほうに並んでいますので、
そういう人とつなげるときには
スクロールしてMiiを探す手間もありません。
岩田
シンプルに徹するということなんですね。
民谷
そうですね。
あいうえお順に並べたり、短縮メモリー登録をするとか、
機能を充実させていくことも検討したんですが、
今回そういった機能はあえて省きました。
「ビデオチャットする関係の相手というのは、
親密な相手に限られているはず」と考えて、
とにかくシンプルにしたかったんです。
岩田
まあ、たしかに自分の家からビデオチャットする相手って、
家族や親戚とか、親友とか恋人とか、
すごく親しい間柄の人に限られる感じがしますよね。
民谷
はい。そういう意味では、開発を行う前に
“竹田さんの想いを聞く会”を開催して、
いろいろお話を聞かせていただきました。
岩田
“竹田さんの想いを聞く会”ですか・・・!(笑)
竹田さんって、一見、冷静な人に見えるんですけど、
じつは、発想が奔放で、熱い人ですからね。
そこで、竹田さんはどんな話をされたんですか?
民谷
竹田さんが、そのときおっしゃっていたことは、
「家族の幸せを実現するソフトにしたい」
「任天堂がつくるんだから、何か遊びの要素がほしい」
「みんなが発売日から使えるようにしてほしい」
という3つのことだったと思います。
岩田
「家族の幸せ」とは、大きな想いをぶつけられましたね。
民谷
はい。それを受けて、開発チームでも
「家族の幸せってなんだろう」と考えて、
その結論は端的に言うと
「一緒にいることだろう」と。
それで『Wii U Chat』では、
離れたリビングルーム同士が
テレビの大画面を介してつながる感じを
実現しようとしたんです。
もちろん家族だけではなくて、
いろんな人に使ってもらいたいんですが、
「まずは親しい人たちが
本当に使いやすいものにしよう」と考えました。
岩田
なるほど。ちなみに、
たとえば相手がWii Uを
遊んでいるときや、遊んでいないときなど、
いろいろな状況が想定されますよね。
そういうときはどんな風になるんですか?
民谷
まず、相手がWii Uでオンラインのときは、
こちらから発信すると、
相手側のHOMEボタンが光って着信を知らせます。
そこで相手がHOMEボタンメニューを開くと、
着信のメッセージが出てきますので、
それに応答すると『Wii U Chat』がはじまります。
岩田
ただ、そのとき遊んでいたゲームは、
一度終了する必要があるんですよね?
民谷
そうですね、終了する必要があります。
岩田
いくつか技術的なハードルはありますが、
ここは将来改善できるといいですね。
相手のWii Uの電源が入っていなかったり、
相手がオンラインになっていなかったりする場合は
どうなるんですか?
民谷
そのとき相手はすぐにはWii Uで気づけないんですけど、
あとから『Wii U Chat』の「不在着信のきろく」や、
『Miiverse』(※15)のメッセージで確認することができます。
岩田
民谷さんは、実際に『Wii U Chat』を試してみて、
どんな感じがしましたか?
民谷
相手の顔が、大画面のテレビにあらわれて
表情を見ながら話せる、というだけで
ものすごくうれしいんです。
初めてつながったときは、
チームメンバー同士でかなり盛り上がりました。
なんというか、向こうにつながるドアが開いて
直接会えた感じでしたね。
岩田
いまの世の中では、
「すでにビデオチャットは一定数普及した」
と思っているんですけど、
そういうものと何か感覚が違いませんでしたか?
わたしはあのテレビに大きく映るのがとても新鮮で、
はじめて経験したとき「わあ、でかい!」って思いましたし、
これまで、複数対複数のビデオチャットは
業務用のビデオ会議でしか経験したことがなかったので、
家庭のリビングルームでこういう体験をするのは
新鮮な感じがしたんですよ。
民谷
大画面を通すことで、
離れていたリビングとリビングが
そこでつながっている感じがする、というか、
その場所で一緒に過ごしているような不思議な感覚ですね。
岩田
これはWii Uのゲームまわりの
機能全般についても言えることだと思うんですけど、
ここ数年、スマートデバイス(※16)と呼ばれる、
アイテムが提供しているものって、
基本的にパーソナルなものなんですよね。
そのなかでビデオチャットは広く普及はしたけれど、
複数対複数にはなりえなかったんです。
そういう意味で、『Wii U Chat』は
ごく簡単に、複数が同時に体験できる
おもしろみがあって。
とくに、大きなテレビに映像が映し出されているとき、
その個性みたいなものが
強く感じられるんだと思います。
渡辺
そういう意味で言うと、
『Wii U Chat』は“ビデオチャット”じゃなくて
“テレビ電話”なんですよ。
岩田
うん。まさに“テレビ電話”ですね。
竹田さんがリビングに置かれるテレビゲーム機で
実現したかった「家族の幸せ」への想いというのは、
そういうことなのかもしれませんね。