社長が訊く

IWATA ASKS

HOME Wii U 社長が訊く 一覧 『Wii U』 Miiverseプロデュース篇
社長が訊く『Wii U』

公式サイト

社長が訊く『Wii U』
Miiverse プロデュース 篇
3. ネットワーク方針の大転換

岩田

さて、この『Miiverse』は、任天堂にとっても
オンラインネットワーク方針の大転換でもあるんです。
というのも、ネットワークでつながっているところで
お客さんが遊んでいて、
「知らない人にひどいことを言われて傷つくなんてことは、
 絶対に起こってほしくない」と思っていたので、
“フレンド重視型ネットワーク”でいままでやってきました。
これはWi-Fi(※22)を使ってはじめて、
DSでネット接続したときからの考え方でした。

※22

Wi-Fi=ニンテンドーWi-Fiコネクション。インターネットを使って、日本だけでなく世界中の友達とゲームが楽しめる無線インターネットサービスのこと。

水木

そうですね。
任天堂は、現実世界の知り合い同士でつながる
いわば“超リアルソーシャルグラフ重視派”でした。
そのために、現実の友達と
“フレンドコード”を交換しあう仕組みにしたんですけど、
結果的に一部のフレンドコードが
ほかのネットワークや掲示板に出てしまって、
見知らぬ人と勝手に交換されてしまう、
ということもありました。

岩田

はい。

水木

だからこそ、
「もっと楽しく使ってもらえるサービスを
 任天堂側から提供したほうがいい」
と考え方を変えたんです。
『Miiverse』なら、何の予備知識もない、
見ず知らずの人とつながるのではなく、
“同じゲームを遊んでいる”という
“共感”を感じられる相手と、
自分が判断したうえで、フレンドになることができます。

岩田

男女間でも、口もきかずに
いきなりおつき合いすることがないように、
『Miiverse』でも、共通の興味がある
ゲームについての会話があって、
「気が合うな」とか、「いっしょに遊びたい」
となってから、「フレンドになっていくのかな」
と思います。

水木

そのほうが、
「よりよいフレンド関係を構築できるのでは?」
という仮説ですね。

岩田

実際に『Miiverse』をつくっていくうえで、
お互いにどんなことに苦労し、
どんなことに面白さを感じていましたか?

水木

そうですね・・・。
開発における苦労というのは、
じつはあまりなかったんです。
というのも、はてなさんとのやりとりは、
「仕様書、出してください」っていうこともなく、
ほぼ口頭でお願いしたことを
どんどん進めてくださったので、
本当にやりやすかったというか・・・。

近藤

うち、ゆるいですからね(笑)。

水木

いやいやいや(笑)。

岩田

「こんな感じでお願いします」って言えば、
つくってくれたんですね。

水木

はい。もちろん、社風の違いはありますけど、
僕自身は、社内の人と仕事をしている感覚でした。
それに、はてなさんだったからこそかもしれませんが、
今回「お知らせ」という機能がついていて、
誰かの「共感」がついたら、通知がくる仕組みなんです。
でも、それはこちらからお願いしたものではなく、
はてなさんが「当然要るでしょう」ってつくってくれて、
「これ便利だ!」って感じでしたから(笑)。

岩田

いままで「はてなブックマーク」や「はてなダイアリー」(※23)など、
いろんなウェブサービスをつくってきた
はてなさんだから、
「いま、実装するなら、こういう機能が必要だ」
といったリアリティがわかっていたんですね。
だからこそ、社内だけではできない、
スピードとレベルで、密度濃く、
ものがつくれた感じがします。

※23

「はてなブックマーク」や「はてなダイアリー」=「はてなブックマーク」は、 気に入ったウェブページをインターネット上で管理できるサービス。ほかの人が気に入ったページも知ることができ、ウェブで情報を探すサービスとして使われている。「はてなダイアリー」は、2003年に開始されたブログサービス。現在は後継サービスの「はてなブログ」が開発されている。

水木

そうですね。
実際、マリオクラブ(※24)でデバッグしていても、
お知らせ機能はすごく評判がよいです。
言われてみないと、その便利さに気づかなかったので、
はてなさんには非常に助けていただきました。

※24

マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。

近藤

たとえば「共感」ボタンもそうですけど、
自分の投稿に対して、
「はてなスター」(※25)のように
フィードバックがかかることは、
やっぱりうれしいんですね。すると今度は
「それをもらえたときは、なるべく早く知りたい」
と思うのが、人間のサガと言いますか(笑)。
ああいうことを一度体験すると、
その機能がない世界には戻れないんです。

※25

「はてなスター」=「ちょっといいな」と思った気持ちを「★」に変えて、ブログや「うごメモ」などにワンクリックで「★」がつけられるサービス。

水木

何かしたことに対してリアクションがあったら、
「必ず通知しなきゃいけない」っていうところは、
はてなさんのすごいこだわりでしたよね。

岩田

はてなさんの経験上、
それは当たり前のことだったんですね。

近藤

はい。ウェブサービスの本質って
“場をつくる”仕事だから、実際に人が集まって
“観察”していくことでわかっていくんです。
だからネットワークの仕事は、
人の感情みたいなものに
迫っていく部分がある気がします。

水木

あとは、仕様を決めるうえで、
「これはお客さんの反応を見ながら決めさせてください」
といった判断には「なるほど」と思いました。

岩田

『Wiiの間』はあらかじめクライアントに
実装されたフォーマットでしたけど、
『Miiverse』は、ウェブサービスなので、
サーバー側でどのようにも
サービスを変えられる仕組みにしました。
「あとで判断します」というのは
ウェブの世界では当たり前ですが、
ゲームの世界ではあまりやってこなかったことです。

近藤

僕たちはリリースしてからが
開発のスタートといいますか(笑)。
とりあえず最初のコンセプトをかたちにして、
「ここからが本番」というイメージなんです。

水木

僕自身、ソフトを出したあとに24時間安心できない、
という経験ははじめてですので、
よく考えたらドキドキしてきました・・・(笑)。

近藤

大丈夫です! ついてますんで!(笑)

水木

それから今回、『Miiverse』のベースになっている
ブラウザーが、すごく快適に動くんです。

岩田

『Miiverse』はゲーム機の中で遊ぶ
コミュニケーションサービスでありながら、
ウェブサービスとしての側面も持っているので、
将来的には、ウェブブラウザーさえあれば、
たとえばスマートフォンやパソコンなどからでも
アクセスできる可能性が開いているところが強みですね。

近藤

ええ。けっこう使いやすくなりましたよね。
それに、これからどんどん発展していけますからね。