岩田
ここまで河合さんに、
ストリートビューのなりたちや現状を
いろいろお訊きしてきたんですが、
じつはわれわれはWii Uの企画のかなり初期の段階で、
その魅力には着目していたんです。
だけどそうは言っても
勝手にやるわけにはいきませんから、
別のアプローチをいろいろ考えていたんです。
そのあたりは、鈴木さんから
話してもらったほうがいいですね。
鈴木
はい。わたしの認識しているはじまりとしては、
2011年のE3(※20)で
一部の方にお見せしたデモなんです。
テレビ画面に道路を走っている
クルマの実写映像が映し出されているんですけど、
クルマの映像と同期して、
Wii U GamePadで周囲360度を
自由に見ることができるというソフトでした。
岩田
それが『Wii U Panorama View』(※21)の
原型となったんですよね。
鈴木
そうですね。これは、構造もつくりかたも
ストリートビューにかなり近いので、
さきほどの撮影の苦労のお話を
すごく親近感を感じて聞いていました。
岩田
苦労したところが
だいたい一緒なんですよね(笑)。
鈴木
そうなんです(笑)。
ただ、『Wii U Panorama View』の場合は動画なので、
ふだんあまり見られなかったり、
経験することのできないシチュエーションを
疑似体験する部分が大切にされています。
それは「リオのカーニバル」(※22)や
「鳥と一緒に大空を飛ぶ」全方位映像など
いくつかの形になり今後リリースする予定なんですが、
「これを自分たちでずーっと
撮りに行き続けなくてはならないのか?」
という話になったんです。
そこで、動画とはちがう新たな可能性として、
「ストリートビューの実績のある
Googleさんと一緒につくれたら」と
考えたんです。
岩田
やっぱり、自分たちが経験のないことを
スピード感あるサイクルでつくり出すには、
得意な人の力を借りるのが理想なんですよね。
その道のプロフェッショナルと一緒に
つくったほうが、よりよいものができるわけですから。
鈴木
それで、ちょうどその時つくっていた
技術の土台はあったので、
実験的にチームラボの大橋さんと、
「ちょっと立方体にぜんぶの画像を貼って
これで見てみようよ」と、
試作をしてみたんです。
岩田
チームラボさんはわれわれよりはるかに
ウェブ技術を熟知されている
プロフェッショナル集団なわけで、
Wii Uでウェブ技術を使ったシステムを
構築するにあたって、早くからパートナーとして
ご協力いただいていたんですよね。
大橋
はい。このプロジェクトの前から
お付き合いがあって、その流れで担当しました。
岩田
その時つくってみた
試作品の反応はどうでしたか?
鈴木
テレビに映して見た最初の瞬間、
先ほど紹介させていただいたのと
ほとんど同じ反応がありました。
岩田
そこは本当に誰もが、
同じような印象を受けるところなんですよね。
もちろんストリートビューの
素材のリッチさによる驚きもありますが、
大きなテレビの画面で見渡したとき、
PCやスマートフォン、タブレットなどの
個人用デバイスで見るときとはまたちがった
独特の感覚になるんです。
それは技術者でも同じで、
みんな「おおっ!?」ってなります。
河合
アメリカにプレゼンに来てくださった時、
Googleのスタッフたちも
まさにまったく同じ反応でした。
鈴木さんは2日間来てくださったんですけど、
1日目に見た人間が「ヤバイ!」と
騒いだのが社内に広まって、2日目には
会議室に入りきらないくらい人が集まったんです。
鈴木
そうでした。みなさんに来ていただいて、
会議室がいっぱいでした。
河合
じつはGoogleの技術陣って、
会議が嫌いなことで有名なんですよ。
基本的に自分のペースで何かをつくっていたいから、
会議を開いてもぜんぜん来ないんです。
岩田
(笑)
河合
それがあの時は、本当にみんな
大挙して集まりました。あるマネージャーが
「うちのチームがはじめて同じ部屋にそろったぞ」
みたいなことを言っていたくらい、
めずらしいことだったんです。
岩田
デモのインパクトがそれほど大きかったんですね。
河合
その場にいた人間はみんな大興奮でした。
「地図とストリートビューって、
こうあるべきだったんじゃないか?」
というくらい、最初からとてもマッチしていましたから。
鈴木
みなさん前のめりで見ていただいて、
さわっていただいているそばから
「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」と
たくさんのアドバイスもいただきました(笑)。
岩田
そこまでよい印象を持っていただけたのは、
「Wii Uのデバイスの構造が、
いままでなかったものだった」
ということと、これまでGoogleさんは
撮影に関してはいろいろ工夫されてきたけれど、
アウトプットする出口については
これまで既存のデバイスを前提にされていたから、
「出口を最適化したらもっとよくなる」
ということに、その時はじめて
気づかれたということじゃないですかね。
河合
まさにそうでしたね。すごい衝撃でした。
岩田
あの、身体感覚で見られる操作と、
大きな画面ならではの臨場感の組み合わせから
受けるインパクトは、残念ながら
説明やネット中継では100%伝わらないんですよね。
目の前で直に見たときにはじめて、
「あっ、これで本当に世界中どこにでも行ける」
という衝撃がガツンとくるんですよ。
鈴木
はじめて見た時の臨場感が、すごいんですよね。
思わず道に迷ってしまうような・・・。
一同
(笑)
河合
いや、本当にそうなんです。
わたしはずっと、ストリートビューって
迷わないための道具だと思っていたんです。
それが「これなら迷うのが楽しい」って
言われるほどのものだったという・・・(笑)。
岩田
わかります(笑)。
行ったことのない知らない街で、
ふらりと迷い込んでしまったような
あの感じがすごくあるんですね。
鈴木
開発の最初の頃、まだプログラムが完全に
リンクしてなかった時にテストしていたら、
偶然見たことのないところに投げ出されたんです。
「これどこだろう?」「アメリカっぽくないか?」
とか言っていたんですが、それが妙に楽しいんです。
岩田
じゃあ逆に言うと、地図とリンクして、
2つの画面を切り替えて使うものではあるけれど、
その仕組みをちょっと変えるだけで
新しい遊びにもなるんじゃないですか?
鈴木
そうなんです。
単純に、最初に場所を秘密にして、
当てる遊びもおもしろいんじゃないかと。
高橋
いままではストリートビューって、
地図からしかアクセスしなかったし、
ひとりで見るものだったので
そういった発想は生まれなかったんですね。
それがいまの話のように仕組みがちょっと変わるだけで
まるで別物になって、それが新鮮なんです。
岩田
たしかにこれまでは、
先に地図を見て、そこに人のアイコンを置いて
そこからストリートビューを見るという順序でしか
見たことがないですからね。
高橋
そこで検索して出てきたところが
「あれ? 思ったところとちがう」というのも、
ストリートビューの新しいおもしろさに
なるんじゃないかと思いました。
岩田
たぶんそこは、河合さんからご覧になっても
新たな発見のきっかけになるんじゃないですか?
河合
そうですね。
そういう意味では、ストリートビューの素材を
まだ自分たちはぜんぜん
活用しきれてなかった感じがしています。
岩田
世界最大の風景写真データベースは、
じつはものすごい娯楽の素材の
宝庫なのかもしれませんね。