4. “オールスター応援状態”
岩田
開発の終盤になってから
“オールスター応援状態”が必要になったのは、
今回のゲームが『メイドインワリオ』なんだけど、
『メイドインワリオ』ではなかった、
ということが大きかったわけですね。
阿部
そうですね。
16個もゲームがあったので・・・。
岩田
1個1個の仕上げをしっかりしようとすると、
ディレクターひとりでは手が回らないんですね。
阿部
もちろんできあがったゲームもあったんですけど、
最後のタイミングで、全部に手が回らなくなりまして。
岩田
“助っ人”に調整をお願いしたのは、
16本のうちどれくらいだったんですか?
阿部
4本です。
吉川(和宏)(※11)さんには『アロー』というゲームを、
松宮(信雄)(※12)さんには『カンフー』というゲームを、
そして田邊(賢輔)(※13)さん、田端(里沙)(※14)さんには
『アシュリー』と『アイランド』の
2本のゲームを見ていただくことにしました。
岩田
でも、いろんな人がいっぱい来て、
みんなが口を出すようになると、
現場が混乱しませんでしたか?
森
いろんな意味で
すごかったですよ、本当に(笑)。
ただ、阿部さんに何かを聞いても
「そこはもう田邊さんに任せているから!」
みたいに言われてました。
阿部
僕は、仕事をお願いした以上は
その人たちにお任せするというスタンスでしたし、
むしろ逆に僕が口を出すと
「ややこしくなってしまう」と思ったんです。
森
たしかにそうですね。
阿部
あとデザインのほうも
たくさんの助っ人にお願いしました。
「3Dの表現でとくに磨いたほうがいい」と思ったのが
『スキー』と『アイランド』だったんです。
森
そうですね。
阿部
で、その2本に関しては、
監修をお願いしていた小林さんを中心にした
企画開発部の3Dデザインチームが結成されて・・・。
岩田
監修役のメンバーがチームをつくって
実際に映像をつくりに行っていたんですね?(笑)
阿部
はい。
1か月半くらい、みっちりと。
森
とくに『アイランド』がたいへんでしたよね。
『アイランド』というゲームは、
「しゃぎぃ」というキャラクターを
パチンコのようなもので飛ばして、
島の上に何匹のせられるかを競う遊びなんですけど、
瀬戸際になってから、バトルがありまして・・・。
岩田
バトルというのはなんですか!?
森
締め切りまで残り
1か月くらいしかない時に、
田邊さんが助っ人で入ってこられて、
「『アイランド』なんだから、リゾート地でしょう?
だったら、自然が豊かなリッチな絵がいいよ!」
と言いはじめたんです。
すると、小林さんたちは
「1か月でスケールを大きくつくりなおすのは
現実的ではない!」
みたいに言い返したりして・・・。
岩田
森さんはそのバトルを
どんな思いで見ていたんですか?
森
「怖いミーティングしているなぁ」って(笑)。
岩田
(笑)。
助っ人に来たのに
その人たちが真剣にやりあっていたんですね。
森
そうです。本当に真剣でした。
小林さんたちは期限内に納めるために、
「クオリティの高いグラフィックを
コンパクトにつくるために、
全体のサイズをおもちゃと考えて
小さい造形でまとめてはどうでしょう?」
という提案をしたんですけど、
それを聞いた田邊さんは
「それじゃ、ちまちまして豪快さが出ない!
雄大な大自然の中で、しゃぎぃを大空にぶっ飛ばす
バカバカしさが出ないとおもしろくないっ!
ワリオでやってる意味がない!」
みたいなことを言って、
最後は「大自然じゃあー!!」と(笑)。
一同
(笑)
岩田
これだけ聞いていると、田邊さんの人格が誤解されそうですが、
たしかに、現場に入るとすごく熱くなるんですよねぇ、
田邊さんは(笑)。
わたしがハル研究所時代に、田邊さんは任天堂側の担当として
お世話になったので、その時のことを思い出します。
阿部
田邊さんが、「大自然」と言ったのは、
「壮大なスケールの中で遊ぶことで、
このゲームがもっと楽しくなる」
ということだったんです。
それを表現するためにも
「3Dでなんとかしたい」と。
でも、グラフィックの人たちも、
すごく能力の高い人たちが集まっていましたし
最終的には壮大な雰囲気が出せて、
しかもしっかりとした
クオリティのものになりました。
森
リッチなものになりましたよね。
阿部
むしろ、あのゲームだけに使うのが
もったいないくらいで
「こんなところまでつくり込んでいるんだ」
という感じになりました。
坂本
僕は、企画開発部のデザイナーさんたちが来る前に、
もちろん『アイランド』も見ていて、
「十分きれいやし、いいんやない」と思っていたんです。
でも、彼らが「こんなんじゃダメです」と言うから、
「そんなもんかな」と(笑)。
岩田
はい(笑)。
坂本
ところが、彼らが手を入れてくれると、
まったく違うものになったんです。
「ああ・・・HDというのはこういうことなんや・・・」と。
岩田
なんだか、HD初体験の『メイドインワリオ』チームが、
最後にやってきたCGの先生たちに、
“脱帽しましたの巻”みたいですね(笑)。
坂本
はい。わたしが間違っていました。
一同
(笑)
阿部
でも、そういった贅沢な使いかたをすることで、
『メイドインワリオ』らしさにもつながっていると思います。
岩田
アンバランスな贅沢という感じですか?
阿部
そうですね。飛ばしているのは、
こんなちっこいキャラですから。
坂本
「大自然じゃあー!!」とか言いながら
ちっこいキャラを飛ばすんです(笑)。
一同
(笑)
阿部
じつはオマケの「シャカポン」も、
デザイナーさん3人に常駐してもらって、
いろいろと好きなものをつくってもらいました。
森
もともと『鬼トレ』(※15)を
担当していた人たちが来てくれましたしね。
岩田
森さん、そのように
いろんな人が開発にかかわってくると、
自分たちだけの楽園が、
踏み荒らされたように感じませんでしたか?
森
いえ、逆に新しい風が吹いたように思いました。
新しく来ていただいた方のアイデアが
「ああ、そうきたかぁ」みたいにおもしろくて、
わたしたちにとっても刺激になりましたし。
岩田
そこがまた『メイドインワリオ』という
器の便利なところで、
全部のテイストをきれいにそろえるというところに
エネルギーを使わなくていいわけですからね。
阿部
そうですね。
とくに「シャカポン」はオマケなので、
「よりバリエーションがあったほうが
おもしろいだろう」
ということなんです。
坂本
助っ人で入ったデザイナーさんが
まるで狙い澄ましたように
「シャカポン」のアイデアを出してきたことには
正直驚きましたね。
たぶん『メイドインワリオ』のことを
理解していたんだと思いますし、
感性の豊かな人たちだったんだと思います。
阿部
そういえば、
デザイナーさんたちの座席からお互いに
「へー、こんな絵も描くんだ」
と話す声がよく聞こえてきました。
岩田
それまでかかわった仕事では、
描いたことのないような絵を、
今作では描いていたんですね?
阿部
そうなんです。だから
「あの人にはこんな引き出しもあったんだ」
という発見もあったようです。
坂本
僕も現場をのぞきに行ったんですけど、
すごくうれしそうにしてましたよ。
誰がつくったものなのか聞いてみたら
意外だったり、いかにもだったり(笑)。
岩田
まさに「ぽてんしゃる解放」ですね。
阿部
そうですね。
坂本
すごくのびのびしてたよね、みんな。
阿部
はい。だから、本当に助けられました。