岩田
今日は海の向こう、遙か彼方のテキサス州・オースティンの
レトロスタジオ(※1)のみなさんと、ここ京都の人たちといっしょに、
『ドンキーコング リターンズ』の話を訊きたいと思います。
さて、今日参加されているみなさんに自己紹介してもらおうと思います。
レトロスタジオのみなさんからどうぞ。
※1
レトロスタジオ=米国テキサス州オースティンにあるゲームソフト開発会社。1998年に設立され、『メトロイドプライム』シリーズの開発を手がけてきた。
カイナン
カイナン・ピアソンです。
わたしはシニアプランナーの仕事をしていました。
今回の『ドンキーコング リターンズ』では、
レベルデザイン(コースデザイン)を担当しました。
マイク
わたしはマイク・ウイカンです。
同じくシニアプランナーを担当しました。
今回の『ドンキーコング リターンズ』では、
敵とボスの仕様を担当しました。
トム
トム・アイビィです。同じくシニアプランナーです。
今回はゲームシステムを担当しました。
岩田
では、任天堂のおふたりにも自己紹介をお願いします。
田邊
英語で・・・ですか?(笑)
岩田
どちらでもかまいません(笑)。
田邊
I'm Kensuke Tanabe. (田邊賢輔です)
・・・いやいや日本語でいきましょう(笑)。
今回の『ドンキーコング リターンズ』ではプロデュースを担当しました。
岩田
田端さん、英語でしゃべりますか?
田端
いいですか(笑)。(モニターのレトロスタジオの3人に向かって)
Should I introduce myself in English to you?
(英語で自己紹介しましょうか?)
・・・冗談です(笑)。田端里沙です。
アシスタントプロデューサーということで“何でも屋”をやっていました。
岩田
さて、ゲームファンのみなさんにとって、
レトロスタジオは『メトロイドプライム』シリーズ(※2)を
つくってきた会社として知られてきましたが、
そのような会社が突然、
2010年のE3(※3)まではずっと内緒にしてきた
『ドンキーコング』の新作を発表したわけですけど、
そもそも、どうしてレトロスタジオで
『ドンキーコング リターンズ』をつくることになったのか、
という話からはじめたいと思います。
この話は田邊さんから訊くのがいいですね。
※2
『メトロイドプライム』シリーズ=1作目はゲームキューブ用ソフトとして、2003年2月に発売されたファーストパーソン・シューティングゲーム。シリーズは3作発売され、2作目の『ダークエコーズ』は2005年5月にゲームキューブ用ソフトとして、3作目の『コラプション』は2008年3月にWii用ソフトとして発売された。
※3
2010年のE3=E3とは、Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2010年のE3で『ドンキーコング リターンズ』が初めて公開された。
田邊
はい。忘れもしない2008年4月のことで・・・
すでにE3の「社長が訊く『Donkey Kong Country Returns』」で、
このお話はしましたけど、レトロスタジオで
『メトロイドプライム』シリーズをつくってきた中心メンバーの数人が
会社を辞めてしまうという“事件”が起こったんです。
そのとき、わたしは「どうしようか・・・」と思ったのですが、
本当にたまたまなのですが、同じ頃に宮本さんから
「『スーパードンキーコング』(※4)の新しいのをつくりたいんだけど、
どこかいい開発会社はない?」という話がありまして、
「レトロスタジオはどうでしょうか」と言ったのが
このプロジェクトのそもそものはじまりなんです。
※4
『スーパードンキーコング』=1994年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された横スクロールアクションゲーム。スーパーファミコンでは3作が登場したほか、ゲームボーイアドバンスでも発売された。
岩田
その件についてあえてちょっと踏み込んで話しますと、
「レトロスタジオでキーになっていたメンバーのうちの何人かが
会社を離れることになった」という話があったときに、
「レトロスタジオはそれ以降も質の高いゲームを
つくり続けることができるのだろうか」ということについて、
懐疑的に見ていた人も少なくなかったと思うんです。
結果的にレトロスタジオのみなさんは、
そのように懐疑的な見方をしていた人の
懸念を吹き飛ばしてしまったわけですけど、
おそらく、ある種のチャレンジと苦難があったと思うんです。
というのは、新しく中心になっていく人が
どんな役割を担い、どうやってチームをまとめていくのかということを
短期の間に決めないといけなかったはずですし、
しかもその人たちは、過去に証明された実績がないのに
ほかの人たちをリードする責任を負うという、
すごいプレッシャーに向き合う宿命があったはずだからです。
ですから、そのときレトロスタジオのみなさんが
この状況をどういうふうに考えていたのかを、
少しお話してほしいのですが。
カイナン
そうですね・・・『メトロイドプライム』シリーズのキーメンバーの
何人かがいなくなったことは、もちろんつらい出来事でした。
でもその一方で、そのことをキッカケにして
新しいやり方や新しい考え方を導入できる
チャンスじゃないかと思いました。
マイク
わたしもつらいプロジェクトというよりも、
『スーパードンキーコング』という素晴らしいタイトルに
関われるということで絶好の機会だと思いました。
そう思うと同時に、ファンの待っていた『スーパードンキーコング』を、
期待を裏切らないものにするために大きな責任も感じていました。
トム
マイクと同じように、わたしも大きな責任を感じていました。
でも、ここにいる3人とは
いままでずっといっしょに仕事をしてきましたし、
それぞれの仕事のやり方を理解しているので、
あまり不安はありませんでした。
これまでのように、お互いに考えをぶつけ合うことによって、
より良いアイデアを生むこともできましたし、
チームが一丸となって進めていく体制が
結果的にプラスになったのではないかと思います。
田邊
今回のプロジェクトでは、この3人がうまくかみ合って、
僕らの不安を吹き飛ばしてくれるくらい、
プロジェクト全体をうまくまとめてくれたんです。
カイナン
もともとレトロスタジオのスタッフはベテランが多いのですが、
スタッフみんなが、これまでのシリーズとは違う
新しいプロジェクトに参加できるということで
すごくワクワクしました。
トム
しかも、これまでの『メトロイドプライム』のプロジェクトを通じて、
スタッフがそれぞれの分野で、スキルを高めることができていましたし。
マイク
ですから、不安を感じるというよりは、
『メトロイドプライム』のシリアスな雰囲気に比べると、
今回の『ドンキーコング リターンズ』はすごく明るいゲームですので、
その空気がチーム内にも拡がっていたようにも思います。
岩田
最初は苦難と感じたけれども、
『スーパードンキーコング』という
新規タイトルにチャレンジすることが、
レトロスタジオのみなさんにとっては絶好の機会になると思い、
同時に3人でチーム内をうまくまとめることができたんですね。
トム
はい。でも、正直に言いますと・・・。
岩田
どうぞ。
トム
このプロジェクトのはじまる前に、わたしたちは京都に行って、
岩田さんと宮本さんとお会いしましたけど、
そのときは・・・ものすごく緊張しました(笑)。
岩田
あ、確かに緊張していましたよ、あのときの顔は(笑)。
トム
はい(笑)。
ただ、そのいちばん最初のミーティングのときに、
わたしたちの方向性が見えると同時に
このプロジェクトのビジョンを共有できたと思いますので、
その点でも不安はなくなりました。
しかもそのとき、岩田さんがすごくハッピーな表情をされていたのが、
とても印象的だったんです(笑)。
岩田
それはなぜかというと、それまでに田邊さんから聞いた話や、
当日みなさんとお話したことで、
レトロスタジオのみなさんなら
『スーパードンキーコング』の新作をお任せできると思ったからです。
それにはいろんな理由がありますが、
そのひとつはスタッフのみなさんのなかに
スーパーファミコンの『スーパードンキーコング』を
すごく遊びこんだ人がたくさんおられたということがありました。
カイナン
はい。『スーパードンキーコング』というタイトルに対して
すごく情熱をもっているスタッフがたくさんいました。
マイク
レトロスタジオのスタッフには
『スーパードンキーコング』のファンがとても多いんです。
田邊
ファンというだけでなく、彼らめちゃくちゃうまいんです。
実は僕、スーパーファミコン版のときに
『スーパードンキーコング』のローカライズを担当しているんです。
なので、腕には自信があったんですけど、
彼らのほうが圧倒的にうまかったんです。
岩田
わたしも、田邊さんからそれを聞いて驚いたんです。
それがとてもラッキーなことで、
実はわたしは、このプロジェクトがうまく進んだ背景には、
そういうことも大きな要因だったと思うんです。
自分たちがよく知っている、このタイトルに関われることに、
誇りと幸せを感じてもらえて、その分、情熱がエネルギーとなって、
今回のソフトに注ぎ込まれたように感じました。
カイナン
そうです。わたしたちが京都で岩田さんとお会いしたとき、
とても印象的なお話があって、
「今回はすごくいい“機会”ですね」とおっしゃったことなんです。
それは、わたしたちレトロスタジオにとっても、
新しい『スーパードンキーコング』を待っている人たちにとっても
すごくいい“機会”になるということだったんですね。
もともと『スーパードンキーコング』は、
みんなに愛されているシリーズですので、
それに自分たちのアイデアが盛り込めるということは、
“絶好の機会”になるんじゃないかと感じていました。
田邊
いまカイナンさんが言った「いい機会」というのは
岩田さんは、最初のミーティングのときに
“ご縁”という言葉を使われたんですよね。
今回のプロジェクトに大きな“ご縁”を感じると。
その“ご縁”という言葉は、なかなか英語に訳しづらいのですが、
レトロスタジオの人たちは、 “Fate(運命)”と訳し、
『ドンキーコング リターンズ』の開発コード名を、
“Fate”と同じ音の『F8(フェイト)』と呼ぶことにしたんです。
岩田
わたしたちは、このソフトをつくるべくして出会い、
そしてこのソフトができたのだと、
わたしも“運命”のようなものをとても感じますね。