3. 朝5時のミーティングで

田邊

終盤にどんどん面白くなっていった理由のひとつとして・・・
(レトロスタジオのスタッフが映ったモニターを指さして)
いま、彼らの後ろにあるホワイトボードは真っ白じゃないですか。

岩田

はい。

田邊

でも、開発中はコースの名前が全部、
あのホワイトボードにびっしりと書かれてあったんです。
それで、そのときどきのコースの出来具合を
○とか△とか×とか、われわれがモニターして、
それが全部◎印になるまでは
何度もトライしようという方法を取り入れたんです。
そうすると、◎になっていないコースの担当者は
がんばるわけですね。なんとか◎にしようと。

岩田

公開採点方式だったんですか。

田邊

ええ。

岩田

でも、それはキツイですねえ(笑)。

田端

(笑)

田邊

でも、それからはコースをよりいいものにするために、
いろんなアイデアが出てくるようになったんです。
それを統括していたのがカイナンさんなので、
何かコメントがあるかもしれないですけど。

岩田

カイナンさん、レベルデザインをまとめていくうえで、
全体のレベルのいいところと悪いところが
目に見えるやり方で進めていきながら、
全体をよくしていくというのはキツくなかったですか?

カイナン

(何度も大きくうなずく)

一同

(笑)

カイナン

田邊さんの言う通り、つねに△を○に、
○が◎になるようにがんばっていました。
でも、それが単につらいこと、というよりも
何かひとついいアイデアが出ると、それをバネに
もっと面白いアイデアを考えようという流れになっていきました。
で、ちょっと面白かったのが、
→「クリフ」というエリアがあるんですけど、
とりあえず全コースを完成した時点で田邊さんにモニターしてもらうと、
「いまのところ、クリフがいちばん面白い」ということだったんです。
ところがほかのコースを全部つくり直した後に
改めて試してもらうと、
「このなかでいちばん面白くないのはクリフだ」と。

岩田

(笑)

カイナン

そこで、クリフをもう一度つくり直すことにしたんですけど、
そのことがつらい、ということでは決してなくて、
チームのほかのメンバーをもっと驚かせたいと思いながら、
楽しみながら仕事をしていました。

トム

チーム内で「こういうアイデアを考えたんだけど、どう?」と
お互いに競い合ったり、とにかくお互いを驚かせたい、
という気持ちがすごく強かったんです。
というのも、ほかの人の反応を見るのが楽しかったですし、
それ自体がゲームで遊ぶような感覚だったので、
楽しみながらゲームをつくることができたんだと思います。

岩田

トムさんのおっしゃる通り、楽しみながらつくったことが、
ゲームからも伝わってくる感じがします。
でも、いまはニコニコしながら3人が並んで座ってますけど、
実はきっと激しい論争もあったんでしょうね。

トム

いえ、この3人の間で論争することはありませんでした。
田邊さんを除いては、ですけど(笑)。

田邊

え?俺?(笑)

一同

(笑)

田邊

田端さんを除いては、じゃないんですか?

田端

え?わたしですか?(笑)

田邊

というのも、実はわたし、
プロジェクトの終盤にぎっくり腰になってしまって、
丸1週間、会社を休んだことがあったんです。
そのときに田端さんがすべてをコントロールしてくれて、
それ以降も終盤の実質的なディレクションの役割を
彼女に担当してもらったんです。
ですから、終盤のいちばんキツイ時期に、
「ここは絶対に直してください」というリクエストのほとんどは
田端さんから出たものだと思うんですよね。

マイク

ああ、確かにそうでした(笑)。

田端

すみません、わたし、キツイこと、
けっこう言ったんです(笑)。

岩田

(笑)。
具体的にどんな注文があったのですか?

マイク

たとえば、ふさふさした毛で覆われている敵がいて、
それが5体、だんごを重ねたようになっている敵をつくったんです。
その敵にドンキーコングが近づくとバタンと倒れてきて、
それを上から踏みつけるとやっつけられるような仕様なんですが、
つくったものを見せると田端さんは
「こんなイメージじゃないです」と言うんです。

田端

最初の段階では、その敵との駆け引きが楽しめなかったんです。

マイク

それでつくり直したんですけど、
何度見てもらっても「まだまだ」と言われて、
技術的な課題が多かったのですが、気がついたときには、
ボスを1体つくるくらいの労力がかかってしまいました。

田端

えー・・・すみませんでした。

マイク

気にしないでください。

岩田

(笑)

マイク

最終的には、→ドンキーコングがその敵に近づくと、
ゆっくりと後方にのけぞって、
しばらくすると勢いよく飛びかかってくる
ようにしたんです。

田端

ですから、その敵にかなり近づかないと
アクションは起こらないですし、
でも近づきすぎて、離れるのが遅れるとやられてしまうような、
ドキドキ感を出したかったんです。

岩田

なるほど。トムさんはほかに何かありますか?

トム

わたしは、ボスを倒した後の
アクション部分をつくっていたんですが、
→ボスを倒すと、それを操っていたティキ族が出てきて、
最後にドンキーコングがそれをボコボコに殴って、
ぶっ飛ばしてスカッとする
仕様なんです。
そこで、つくったものを田端さんに見せて確認してもらうと、
「じゃあ、もっとこういうふうにできない?」とか、
次々にアイデアが足されていくので、
そのたびに自分は部屋にこもらなければいけなかったんです。

田端

えー・・・すみませんでした。

トム

気にしないでください。
でも、直すたびに、バグが出ないかと、
ちょっと心配になりましたけど(笑)。

田邊

ですから、いつもと違って今回は
彼女のほうがきびしく見えたんじゃないかと思うんですよね。

トム

いやいや、そんなことはないです(笑)。
宮本さんの「ちゃぶ台返し」はすごく有名ですけど、
田邊さんの場合、ちゃぶ台をちょっと傾けるような感じで・・・。

岩田

「ちゃぶ台返し」ではなくて、「ちゃぶ台傾け」(笑)。

一同

(笑)

トム

はい。ちゃぶ台を傾けて、いろんなものが次々と落ちてくるのを、
田邊さんは落ちないように押さえつつ、
落ちていくオレンジジュースをパッとつかまえて、
こっそりサンドイッチとかにすり替えたりしてるんです(笑)。

岩田

へえー、それは面白い表現ですね(笑)。

トム

ですから、ちゃぶ台を元に戻したときは、
違うものになっていたりしたんです。

田端

あの・・・トムさんは「ちょっと傾けた」と言いましたけど
わたしはけっこうな角度で傾けてたと思います。

岩田

(笑)

トム

あと、大変だったのは、時差があることでしたね。
開発の終盤になると、徹夜で仕事をすることが増えて、
こちらの朝の5時くらいに電話会議をすることもあったんです。
わたしたちはものすごく疲れているんですけど、
田端さんはとっても元気なんです。
日本ではお昼くらいなので。

岩田

あははは(笑)。

トム

しかも「こういう変更をしてほしいんだけど」と、
わたしたちにとってはすごくキツイリクエストを
元気良く、とても楽しそうに言うんです。

一同

(笑)

トム

確かにそうすれば良くはなるんだけれども、
そのときはさすがに「こっちは朝の5時なんだから、
もうちょっとテンションを下げて、控えめに話してほしいなあ」
と思ったりもしました。

田端

はい、次回から気をつけます(笑)。

トム

(笑)

カイナン

そんなやりとりがありましたけど、
田邊さんや田端さんとも、長い間いっしょに仕事をしてきましたので、
社外の人のような感じではなくて、
同じチームにいるという感じなんです。

岩田

地球の裏側にいるチームの一員のような感じですか。

カイナン

はい。まるでファミリーのように感じています。

田邊

ありがとうございます。