岩田
さて、ときにはキツイやりとりをしながら、
いままで『メトロイドプライム』という
3Dアクションゲームをつくってきたみなさんが、
2Dの横スクロールアクションゲームをつくったわけですね。
しかもそれは『スーパードンキーコング』という、
アメリカだけでなく、
日本でもたいへんヒットしたゲームの新作ですので、
魅力的な部分はしっかり引き継がなければなりませんし、
スーパーファミコンからWiiにハードが変わるわけですから、
新しい時代に合った表現もしなければなりませんでした。
そのとき、レトロスタジオのみなさんは
過去のシリーズからどのようなことを守ろうとし、
どのような新しいチャレンジをしたのですか?
カイナン
もともとの『スーパードンキーコング』シリーズには、
引き継いでいかなければならない、
いろんな良い要素がたくさん詰まっていると思います。
たとえば横スクロールアクションゲームで・・・。
岩田
タルに入って飛んだり、トロッコに乗って駆け抜けたりと、
とても印象的なアクションが多いですよね。
カイナン
はい。しかも、いろんなお客さんが遊べるような
間口の広いゲームになっていますので、
その取っつきやすさは守らなければいけないと思いました。
それと同時に、難易度の部分では
ちょっと難しいくらいが大事だと思っていました。
岩田
わたしはかつてスーパーファミコン版を遊んだときに、
何がいちばん思い出されるかというと、
トロッコの面で、何回もコースから落下してしまって
「ああ、もうちょっとでゴールだったのに!」(笑)
ということを繰り返し経験したことなんです。
たぶん、そのように手に汗握る感じを維持することは、
このタイトルにとって、
ものすごく大事なことだと思うんですけど、
そのことについてはどういうことを意識されましたか?
マイク
やはり手応えはすごく重要だと思いました。
そこで今回、このプロジェクトをはじめるにあたって、
改めてスーパーファミコン版を遊んでみたんです。
すると「こんなに難しかったのか!」と、ちょっと頭にきまして。
岩田
あははは(笑)。
マイク
楽しかったところしか記憶になかったんです(笑)。
岩田
楽しかった思い出しかなかったけど、
久しぶりに遊んでみると、ちょっと頭にくるくらい
難しいゲームだったことを思い出したんですね。
マイク
はい。ただ、いい意味で
手応えのある難易度を残すのはとても大事だと思いました。
それも、「ただ難しい」ではなくて、
「もう一度チャレンジしたくなるような難しさ」にしたいと。
少し具体的に言いますと、
ジャンプをしなければいけない場所で、
もしそこで失敗してしまっても、
「もう1回挑戦すれば、きっとうまくジャンプできるだろう」と
感じるように、
単なる“怒り”に変わらないようにすることが、
とても重要だと思いました。
岩田
失敗したときに「悔しいけど自分が悪かった」
と思うようにすることが大事なんですよね。
トム
はい。単に難しくするのはすごく簡単なんです。
たとえばドンキーコングがジャンプしているときに、
頭の上に石や岩を落とせばいいわけですから。
岩田
そうですね(笑)。
トム
でもそうではなく、プレイヤーがその場で何をしなければいけないか、
その情報がはっきりわかるようにして、
正確にプレイしなければミスをしてしまうということを
お客さんにわかっていただけるように心がけました。
田端
ただ、『スーパードンキーコング』の伝統である
適度な難しさを残そうとすると、
どうしても先に進めない人が出てくると思うんです。
そこで、何度か失敗すると「おてほんプレイ」が見られるようにして、
先のコースに進めるようにしました。
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※6)と
同じようなシステムなんですが、
今作ではとてもかわいいブタが登場して、
「おてほんプレイ」を見るか見ないかを聞いてくれるんです。
それが今回の新しいチャレンジのひとつですね。
※6
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月3日に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。同じコースで8回ミスをするとルイージが「おてほんプレイ」を見せてくれる。
カイナン
あと、大きなチャレンジでは見た目の部分ですね。
これまでのシリーズのグラフィックイメージを守りつつ、
ひとつの画面内に収まっている要素の量を
かなり増やしました。
田邊
背景は全部ポリゴンでつくっていますので、
いろんなものが動いたり、壊れたり、倒れたりと
画面内でダイナミックな演出が楽しめるようになっています。
岩田
スーパーファミコン時代は
プリレンダー(※7)という技術を使ってつくっていたので、
背景をあまり動かせなかったんですよね。
※7
プリレンダー=3Dのポリゴンモデルの描画処理を事前に行い、2D画像データ変換しておくことで、ゲーム機でリアルタイムに処理できないような複雑な形状の3D表現を可能にした方式。
田邊
はい。スーパーファミコンの頃は、
ポリゴンモデルをリアルタイムに描画するのに
処理が追いつかなかったですからねえ。
キャラクターのアニメーションパターンに容量を優先して使って、
背景は1枚絵の静止画だけにとどめていました。
でも今回は、背景から何から何まで
全部リアルタイムに描けるわけですから、
動く背景とキャラクターが絡み合う仕掛けを
たくさん用意することができました。
カイナン
なので、ただ単にコース内を歩き回っているだけでも
とても楽しいものになったと思います。
岩田
ドンキーコングのアクションに関してはどうですか?
田端
Wiiリモコンの横持ちとヌンチャクを使うという
2つの操作から好きなほうを選べるようにしましたけど、
ドンキーコングの挙動やアビリティ(能力)については
基本的に同じです。
田邊
ドンキーコングの新しいアクションとしては、
フーッと息を吹きかけることができるようになりまして、
たとえばたんぽぽの綿毛があって、
それを吹くとアイテムが出てきたりします。
岩田
それは誰のアイデアだったんですか?
田邊
宮本さんです。
開発初期の段階で「ぜひ入れてほしい」という話がありました。
あと宮本さんから言われたのは、「音楽を変えないでほしい」と。
それは宮本さんだけでなく、岩田さんからも言われましたよね。
岩田
はい(笑)。「音楽は大事にしてね」と
最初のミーティングのときに、わたしも言った覚えがあります。
実は、わたしのiPodには
『スーパードンキーコング』のサントラが入っていて、
いまでもよく聴いているんです。
そんなことはあまり頻繁にはないんですけど、
『スーパードンキーコング』のときは、
すごく印象的な曲ばかりでしたので、
サウンドトラックCDを買った覚えがあります。
たぶん、スーパーファミコン版が
たくさんの人たちに受け入れられた理由として、
グラフィックがすごかったり、
ゲームとしての面白さがあったことに加えて、
あの音楽も含めてお客さんの心に刺さっていると思うんです。
今日は音楽を直接担当した人はいませんけど、
音楽について感じたことがあれば、それぞれ訊かせてもらえませんか?
トム
とてもグレートな音楽だと思います。
『スーパードンキーコング』というのはとても独特なゲームで、
このゲームのことを語るとき、音楽の話をする人がたくさんいます。
音楽がすごく象徴的な要素になっていると思いますね。
カイナン
わたしもすごく音楽を気に入っていますし、
チームのスタッフのなかにも音楽のファンがいっぱいいます。
トム
ただ、音楽を担当された山本(健誌)(※8)さんは、
とても大変だったと思います。
今回のサウンドに関しては、基本的なBGMは任天堂が担当して、
レトロスタジオでは効果音をつくっていたのですが、
山本さんは昔のサウンドをリメイクしつつ、
今作の雰囲気に合った新しい音楽を用意しないといけませんでしたし。
マイク
本当にそうでした。山本さんは最初に
コースの雰囲気に合った音楽をつくられるんですけど、
先ほどもお話したように、より良いコースにするために
最後の最後まで、手を入れていたんです。
ですから、もともとつくられた音楽があったとしても、
しばらくすると、そのコースに合わなくなってしまうんです。
そこで、また新たに曲をつくり直すようなこともありましたし、
そこは大変だったと思います。
※8
山本健誌=任天堂企画開発本部所属。『スーパーメトロイド』や『メトロイドプライム』シリーズのほか、古くは『パンチアウト』や『ファミコン探偵倶楽部』などのサウンドを担当してきた。
岩田
田端さんは音楽についてどう思いますか?
田端
実はわたし、今回のプロジェクトがはじまって、
初めて『スーパードンキーコング』をプレイしたんです。
ですから、正直に言いますと、
曲に対してはあまり思い入れがなかったんです・・・。
岩田
確かに、全員が音楽に思い入れがあるというのは、
前作のファンの「思い込み」に過ぎませんね。
ただ、そもそもゲームづくりというのは
オリジナルを体験した人と、そうでない人が混ざって
つくったほうがいいと思うんです。
思い出をもってきて、それを新作に投影する人と、
田端さんのようにフレッシュに見られる人の両方が必要なんです。
遊ぶ人は両方いらっしゃるわけですからね。
田端
ありがとうございます。
ですから、このプロジェクトに関わることになって、
昔のものからいい部分を引っ張ってくるという役割は、
このソフトへの情熱をもっている方々が担ってくれますので、
わたしは、できるだけ面白いものにしよう、
いままで見たことのないものにしよう、
そこだけを一生懸命に考えようと・・・。
岩田
“新しいものを考える担当”になろうとされたわけですね。
田端
はい。それで音楽の話に戻しますと、
わたしの周りにはシリーズを遊んだ人たちがたくさんいて、
その人たちが今回の『ドンキーコング リターンズ』に
入っている曲を聴いて「この曲が良かった」とか、
「当時のことを思い出す」と本当にうれしそうに話していたんです。
そう言われるくらい、みんなの記憶に残るサウンドを
今回は活かすことができて、本当に良かったと思います。
岩田
田邊さんは音楽に関して何か感じることはありますか?
田邊
僕は16、17年前のことを思い出しますね。
最初のスーパーファミコン版のローカライズの仕事で、
実はイギリスのレア社(※9)に行ってるんです。
『スーパードンキーコング』をつくったレア社があったのは・・・。
岩田
トワイクロスでしたよね。
※9
レア社=イギリスに本社を置くゲーム開発会社。『スーパードンキーコング』シリーズのほか、NINTENDO64ソフトの『バンジョーとカズーイの大冒険』や『ゴールデンアイ 007』などを開発。
田邊
はい。確かロンドンから
クルマで4時間くらい以上かかったと思うんです。
で、すごく長い道のりなんですが、丘がずっと続いていて、
羊がたくさんいて、道路の脇には木の柵がずっと並んでいて、
のどかな光景だなあと思ったんですけど、
何時間走ってもその光景なんです。ずっといっしょなんです。
岩田
羊ばっかり見ていたんですね(笑)。
田邊
はい(笑)。で、古い教会のある田舎町の
うまやを改造した建物がレア社の本社で。
そこに着くと、ファンタジーゲームのなかに出てくるような
めちゃくちゃでかいカギを渡されて、
一部屋だけあてがってもらって、そこで作業をしてたんですけど、
僕の場合はそういう光景とオーバーラップするんです。
岩田
のどかな土地に住んでいる人が考えたものだから、
あのような曲になったという感じがしますか?
田邊
とも言えますね。
もちろんロンドンの街中の雰囲気もあって・・・。
岩田
両方混ざっていると。
田邊
混ざっているんです。ですから、
すごく異国の香りを僕のなかに沸き立たせる音楽なんです。
当時の僕は若かったですから、懐かしいという気持ちもありますし、
それに具体的なことは言えないですけど、オフのときに、
ロンドンで大変なことがいろいろあって・・・
その思い出が蘇ったりします(笑)。
トム
僕は聞いてないので、今度聞かせてください(笑)。
岩田
今度、田邊さんと会ったときに聞いてください(笑)。
田邊
(笑)