5. 世界で評価された“剣と魔法の物語”
岩田
そもそも『時のオカリナ』という商品は、
『ゼルダ』の25年の歴史のなかでも、
特別な存在として記憶している人が多いように思うんです。
宮本
はい。
岩田
じつは、わたしもそのひとりで、
『スマッシュブラザーズ』(※14)の仕上げの頃に
ちょうど京都に来ていて、
11月21日の発売日に製品版を
ワクワクしながら持ち帰った覚えがあります。
宮本
あ、そうでしたか。
岩田
あの当時、わたしはハル研究所の人でしたが、
『時のオカリナ』を触って
とにかくビックリしたんです。
もちろん『マリオ64』にも驚いたんですけど、
『時のオカリナ』では、
それまでビデオゲームで味わったことのない
たくさんのものを見せてもらった感じがしたんですね。
宮本
当時のインタビューとかで
よく言っていたことなんですけど、
“温度”とか“匂い”とか“湿度”みたいなものを
このゲームで描けたという手ごたえが
自分のなかにもありましたし。
岩田
“空気感”を感じることができたんですよね。
「社長が訊く『ニンテンドー3DS』」の
「発売前に宮本さんに、訊いておきたいこと。」
でも言ったことですが、
高いところから、滝に飛び込むときに
足がゾクッとするというのを、
ビデオゲームで初めて感じることができましたし。
宮本
もともとあれは
オートジャンプができるようになったことで、
そのような効果が生まれたんですね。
カリブのダイビングみたいなポーズで頭から飛び込むから、
スーッと落ちていく感じがするんですけど、
もし、バンザイのポーズで足から落ちていったら・・・。
岩田
ただの落ちる人、ですよね(笑)。
宮本
ええ(笑)。
休みの日に、オートジャンプのことを思いついて、
月曜に会社に来るのが
すごく待ち遠しかったことがあるんです。
岩田
休みの日に思いついたアイデアを
みんなに言いたくてガマンできなかったんですね(笑)。
宮本
そうなんです(笑)。
そこで、月曜の朝にみんなを集めて、
「オートジャンプというのをやるぞ」と宣言すると、
みんなは「ええーっ!?」という反応だったんです。
マリオをつくったチームが
ジャンプボタンを捨てるんですからね。
岩田
それで、道の途中に穴があっても、
ボタンを押さずに自動で跳べるようになったんですね。
宮本
そうなんですが、あれには副産物があって、
跳んだあとのリンクのポーズを
プログラムで操れるようになったんです。
岩田
ああ、なるほど。
宮本
目の前にある地形を読んで、
どういうジャンプをするかを
決められるようになったんです。
岩田
だから、高い滝の手前でジャンプすると、
頭から飛び込むことができるんですね。
カリブのダイビングみたいなポーズで(笑)。
宮本
そうなんです。
だから、「オートジャンプの仕組みを使うと
いろんなことができるぞ」と、
そこからまた新しいことを考えるのが
すごく楽しかったんですね。
岩田
やっぱり“発見密度の高いゲーム”なんですよ。
宮本
Z注目システム(※15)もそうですしね。
岩田
そのZ注目については、
大澤さんと小泉さんたちが
太秦(うずまさ)映画村(※16)に行って
いろんな発見があったという話もしてました。
宮本
あ、太秦に行った話もしたんですね。
僕は行ってないんですけど。
岩田
その話を訊いて面白かったのは、
小泉さんと大澤さんは同じショーを見ていたのに、
それぞれ、別のことに気づいたというところなんですよ(笑)。
宮本
と言うと?
岩田
殺陣(たて)のショーを見ながら、
小泉さんは、何人もの人と戦っていても、
順番に襲いかかってくることが決まっていることに気がついて、
それが複数の敵との戦いをつくることに
役立ったと言ってました。
宮本
うん、なるほど。
岩田
で、大澤さんは、鎖鎌のショーを見ていて、
Z注目をしたときに、敵と自分との間に
“見えない鎖鎌”があるようにすればいい、と
そういうところに気がついたそうなんです。
宮本
つまり、敵と円運動をしながら、
相手の後ろに回り込んで攻撃することもできる
ということですよね。
岩田
そうなんです。
宮本
でも・・・なんか変ですよね。
岩田
と言うと?
宮本
これから“剣と魔法の物語”をつくろうとしているのに、
太秦に時代劇を観に行くというのはねぇ(笑)。
岩田
あははは(笑)。
でも、「『ゼルダ』でチャンバラを」という
命題があったわけですから。
宮本
でも、チャンバラは両手で刀を持ちますけど、
剣は片手で持つわけですからね(笑)。
岩田
ああ、確かにそうです(笑)。
宮本
とはいえ、そういうことに気づいたわけですから
結果オーライですよね(笑)。
岩田
ですね(笑)。
ところで、『時のオカリナ』ができたとき、
宮本さんは、どのような手ごたえを感じましたか?
宮本
新しいことをしたという意味では、
自分がかかわったソフトのなかでも
何番目かに高い手ごたえがありました。
それに、中世のような“剣と魔法の物語”を
僕たち日本人がつくって、
それが世界の人の目にかなった、というのが
すごくうれしかったですね。
太秦の時代劇を参考にしたにもかかわらず(笑)。
実際、海外でも高い評価をいただくことができましたし。
岩田
99年のE3だったでしょうか、
『時のオカリナ』がたくさんの賞(※17)をいただいて、
宮本さんが何度もステージに上がったり、降りたりしながら
たくさんの部門の賞をいただいたこともありましたよね。
宮本
あー・・・ありましたね。
僕としては気恥ずかしかったんですけど・・・。
岩田
『時のオカリナ』がどうして、
そのような高い評価を得られたんだと思いますか?
宮本
・・・あの当時、アメリカのマーケティングチームが
『時のオカリナ』を
「エピックアドベンチャー」と呼びました。
岩田
「エピック(epic)」とは
「叙事詩」という意味ですね。
宮本
もちろん新しいシステムもそうなんですが、
その上に乗っかった、物語性も評価されたんでしょうね。
それに、ゲームのタイトルが主人公の名前じゃないという(笑)。
岩田
世の中には、あの緑色の服を着た人が
ゼルダだと思ってる人もいますからね(笑)。
宮本
それは初代から25年間、
ずっと続いてることなんですけど(笑)。
岩田
でも、それもゼルダらしいですね。
宮本
そうですね。
でも、今度のゼルダ姫は、ちょっといいですよ(笑)。
岩田
「今度の」って、
『スカイウォードソード』(※18)のことですよね?
宮本
はい。
岩田
『スカイウォードソード』については
また改めてお訊きすることにしますね。
宮本
そうですね。わかりました。