岩田
今日は東京渋谷のグレッゾさん(※1)にお邪魔しています。
『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』(※2)の
制作スタッフと語る「社長が訊く」です。
今日はよろしくお願いします。
一同
よろしくお願いします。
岩田
では、まず自己紹介からお願いします。
石井
株式会社グレッゾの石井浩一です。
開発プロデューサーとしてかかわりました。
今日はよろしくお願いします。
外岡
グレッゾの外岡高明です。
今回はマネージャー兼プログラマーとしてかかわりました。
よろしくお願いします。
守屋
グレッゾのプログラマー、守屋俊です。
よろしくお願いします。
生田
任天堂、企画開発部の生田良子です。
ソフト制作部門の窓口を担当しました。
清水
任天堂、東京制作部の清水隆雄です。
今回はニンテンドー3DSの最新情報を伝えたりして、
グレッゾさんが開発を進めやすくなるよう、
いろいろな段取りをしました。
青沼
3度目の登場となります、
『時のオカリナ 3D』プロデューサーの青沼英二です。
「水の神殿(※3)をつくり直す!」という野望を実現するため、
みなさんにご苦労をかけた張本人です(笑)。
岩田
はい、ありがとうございました。
今回、『時のオカリナ 3D』の制作を
グレッゾさんにお願いしたわけですが、
『時のオカリナ』をニンテンドー3DSで発売しようと考えたとき、
いろいろな運命というか、条件がひとつに導かれるように
全部グレッゾさんに向いていて、
じつはわたしのほうから直接、
石井さんにお話しさせていただきました。
石井さん、『時のオカリナ 3D』の企画はどうはじまったのか、
というところからお話ししていただけますか?
石井
はい。最初、とくに何も知らされないまま、
岩田さんに呼ばれたんですよね。
岩田
はい、「話があるので、京都に来てください」ってお伝えして、
呼び出された状態になってしまったんですよね(笑)。
別に呼び出してとか、そういうつもりはなかったんですが、
すごく緊張させてしまった感じがして、すみませんでした。
石井
いえいえ(笑)。
ただ、前もって情報を聞いていなかったですし、
雰囲気的にもかなり極秘なお話っぽいとは感じていたんです。
正直言って、新ハードの話とかちょっぴり予想はしていました。
岩田
勘がいいですね。
確かに、京都に来てもらわなければならなかったのは、
開発途上のニンテンドー3DSをご覧いただくためでもありましたから。
石井
でも、京都で新ハードのニンテンドー3DSを見せていただき、
しかも『ゼルダ』のお話を聞いたときは青天の霹靂(へきれき)でした。
「あ、それか・・・」って。
岩田
3DSのお披露目と、
『ゼルダ』のお話が同時だったんですよね。
石井
はい。正直、お話をいただいたときは
「チャンスだな・・・」と、「・・・やばいな」
という両方の気持ちを感じました。
『時のオカリナ』は世界で高い評価を受けていますし、
任天堂さんの看板タイトルでもありますから、
一歩まちがえばブランドを傷つけてしまうかもしれません。
というのも「『時のオカリナ』はこうだった」という
自分なりのイメージを持っている方は、かなり多いと思うんです。
岩田
思い出を語られる方はたくさんいらっしゃいますからね。
石井
はい。わたしはよくゲームを料理にたとえるんですが、
ゲーム開発者を料理人にたとえれば、ソフトは料理です。
料理人の工夫が料理の味つけにあらわれるように、
開発者の工夫や経験がソフトに出るはずなんです。
だから最初にオリジナルをつくった人がかかわらないと
見た目は同じだけど味が違う、
“『時のオカリナ』のようなもの”になってしまって、
それでは商品として失敗してしまうと思ったんです。
だから、今回はいかにして
「いまの『時のオカリナ』をつくるのか?」
ということが重要なテーマだと感じていました。
岩田
随分前になりますが、3DSの第一印象はどうでしたか?
石井
最初は、少年に戻ったようなよろこびを感じました。
本当にそこに世界が広がっているように
ゲームの世界を見渡せること自体が、おどろきでした。
岩田
あのときは、外岡さんもいっしょにいらっしゃいましたよね。
外岡
はい。最初にビックリしたのは3D表現ですね。
裸眼で3Dに見えるということが、見せていただけるまで
まったく想像がつかなかったのですが、
見た瞬間「これはとんでもないものだな」と思いました。
そのあと『時のオカリナ』の話を聞いて、
今度は頭が真っ白になりました(笑)。
岩田
そうだったんですね(笑)。
ほかのみなさんの反応はどうでしたか?
石井
じつは、発売前のハードでソフト開発にたずさわりたい、
というのがグレッゾを立ちあげたときからの目標だったんです。
だからみんな「自分たちでつくれるんだ!」という
おどろきとワクワク感に満ちていましたね。
今回、それが叶いまして、すごくいい夢を見られました。
岩田
でも、開発途中のハードならではの大変さ、
というのがあったはずなんですけど、
プログラマーの立場から外岡さんと守屋さんはどうでしたか?
外岡
まず、何をやるにしても前例のないことばかりでしたので、
社内で激しいトライ&エラーが起きました。
ですが、清水さんに3DSの最新情報を
逐一、流していただいたので、とても助かりました。
清水
毎週、わたしは東京と京都で
ミーティングをしていますので、
そこで得た3DSの最新情報を
とにかくグレッゾさんに伝えながら、
何とか商品化できるようにと動きました。
岩田
守屋さんはどうでしたか?
守屋
わたしは3Dというまったく新しい概念のハードだったので、
半分以上「ラッキー」という気持ちで動いていましたね。
ただ制作していくうちに
「『時のオカリナ』は本当に自由度が高いなあ・・・」
と思ったことがあったんです。
ギミックの解き方が人それぞれなんですね。
たとえばクモの巣に火をつけるシーンで、わたしを含めて大多数は
リンクを前転させたり棒を振ったりして火をつけるんですが、
何人かは盾を構えた時に棒の先が下がることを利用して
火をつけるんです。
なので「火がつかないよ?」という報告がきたとき、
「あ・・・これは大変な任務がきてしまったぞ・・・」
と思いました(笑)。
岩田
しかもそのギミックの解き方は、
お客さんの思い出に刺さっている部分かもしれないから、
そこも含めて再現しないとダメなんですよね。
守屋
そうなんです。
結局、棒の先で火がつかない原因をしらべると、
リンクを、手足が長く腰が高い、
いまふうのスタイルにデザインし直したことで、
剣と地面の角度が変わってしまい、
棒の先で火がつかなくなっていたんです。
岩田
いまどきのものにしたいけれど、
そうするとゲームの都合がこわれてしまう、
ということですよね。
守屋
はい。オリジナルが発売されてからいままでの
“13年間の空白”を埋めるにはどうしたらいいか、
とにかく開発のなかで何度も話し合いました。
単なる移植では新しい商品としての魅力が半減してしまいますから。
岩田
生田さんは、どのようにかかわっていったんですか?
生田
任天堂やグレッゾさんや、マリオクラブ(※4)の人たちとの
情報の通りがよくなるように動いていました。
じつは、わたし、志願兵なんです(笑)。
青沼
生田さんは『時のオカリナ』の超ヘビーユーザーなんですよ。
彼女にゼルダのことを聞くと、どんどん意見が出てくるんです。
岩田
ああ、生き字引状態なんですか(笑)。
ひょっとして青沼さんよりくわしいんですか?
青沼
ええ、くわしいと思います。
まさに生きる仕様書と言っていいくらいなんです(笑)。
だから当時のお客さんが感じたことが
ちゃんとソフトに残っているかどうかは、
生田さんの感想を軸にしていたこともありました。