3. 「水の神殿を何とかしたい」
岩田
今回、青沼さんが『時のオカリナ』を
3DSでつくろうと考えた動機はなんでしたか?
青沼
僕は、はじめの自己紹介でも言いましたが、
とにかく水の神殿を何とかしたかったんです。
何かにつけてみなさんに語られてしまうので、
13年間ずーーっと、そう、積年の思いなんですよ。
岩田
どんなに『時のオカリナ』がほめられても、
「でも水の神殿がね」って言われてしまう。
13年間、のどに骨が刺さったような感じなんですね。
青沼
そうです。
きっと水の神殿でやめた人が多かったであろうことが、
僕のなかで、いちばん苦しくて仕方がなかったんです。
だから今回、3DSの2画面を使えば、
「水の神殿でヘビィブーツをかんたんに脱ぎ着できるじゃん!」
ってことで、「やりましょう!」という話になったわけです。
岩田
「このままだと、一生言われてしまう!」ということですかね(笑)。
青沼
そうです。
そのことがいちばんの動機でした。
ですが、お客さんの当時の思い出を
どう汲み取ればいいかというのは、
開発スタッフもそれぞれの思いを持っていて、
ひとつひとつに平均値を見つけるのが難しかったんです。
だから、ある程度は優先順位をつけて、
「直すべきところは直す」というスタンスでのぞみました。
岩田
当時、じつは直したかったけれど、
直せなかった部分もやっぱりあるんですよね。
清水
でも今回、それを見事に解決したのがタッチスクリーンでした。
タッチスクリーンの四隅にボタンがついていて、
指で押して操作するんですが、ゲーム性に直結していて、
すごく快適に遊べるんです。
青沼
そう。文明の利器を使って、
積年の思いがやっと解消できました(笑)。
2画面あるんだから、アイテム交換もマップ確認も、
快適になる、というぜったいの自信がありました。
清水
ボタンが6つあったN64に対して
3DSは4つですから、足りない分をどうするか、
という問題を解決するために、
グレッゾさんたちが開発をはじめてすぐに
“DSタッチスクリーン検証班”というのをつくって
検証してくれたんです。
青沼
すごく着手が早かったんですよ。
僕らが仕様書をまとめる以前から
すでに検証をはじめられていて・・・。
岩田
タッチスクリーンの四隅にボタンを配置する、
というのは外岡さんのアイデアですか?
外岡
はい。お話をいただいて真っ先に思いついたのは、
上下画面との違いでしたので、帰りの新幹線の中
「検証しておいたほうがいいだろうな」と思い、
DSでできる検証方法を考えていました。
四隅にボタンを配置する案は、清水さんとウチのスタッフですね。
青沼
これがうまくいったことで
「ああ、これはいける!」って自信を持ちましたね。
岩田
ちなみに生田さんは、いまと昔のあいだで
シーソーのように揺れる『時のオカリナ』を
どのように見ていましたか?
生田
わたしはマリオクラブとかかわることが強みであり、
役割でしたから、いまの人がさわったときの
生の感想や意見を直接聞くことができました。
そこで出てきた声と、13年前にどっぷり浸かった
自分自身の思いとを吟味して、
変更案をグレッゾさんに相談するんですけど、
グレッゾさんからはまず「このスケジュールでは無理です!」って
返されてしまうんです。
でも、結局、必要な修正や改善を
ギリギリまでねばって、ぜったいにやってくれるんです。
青沼
そうそうそう。
ぜったい、やってくれるんですよ。
生田
そう、ぜったいやってくれて、心強かったです。
だからマリオクラブから出るひとつひとつの意見に対しても、
本当に必要でやるべきなのか、
当時のものを残すべきなのかということを、
グレッゾさんといっしょに考えていけたことが
とてもよかったと思っています。
岩田
それは指示する側と、指示される側の関係性ではない、
ということでしょうね。
逆にグレッゾさん側は看板タイトルをあずかっている以上、
ぜったいに納得できるかたちで世に出すんだというのが
スタッフ隅々までいきわたっていて、
「できません」と言われても、
「必ずやってくれる」と信じられる関係、
というのはすごいことですよね。
生田
はい。だから開発後半のほうはもう、
「あれもこれも全部、お願いしますっ!」って感じでした(笑)。
ぜったいに応えてくれることがわかっていましたし、
お願いしたことがそのままではなく、
必ずグレッゾさんならではのひと味がくっついて返ってくるので、
それがソフトのなかにあらわれています。
同じデモシーンを見ても、「ここってこんなだったっけ?」って
はじめて見るかのように新鮮に楽しめたんです。
岩田
むかし、あれほど遊んだ生田さんが、そういう感想を持つほど
いまならではのものに生まれ変わったということなんですね。
青沼
はい。やっぱり、いまに生きていなければ意味がないので、
「変えてうれしくなった」という手ごたえを
ひとつひとつチェックしながらやっていきました。
グレッゾさんは、原作を大切にする気持ちがある一方で、
変えるところは迷わずつっこんでいくところもあって、
ものすごく助けられたという感じがしています。
僕らが細かく指示をしたわけじゃなくて、
グレッゾさんが「ここはこうすべきだろう」って
言ってくれた部分があるんです。
岩田
「こうあるべきだ」ってグレッゾさんが考えられたことと、
オリジナルスタッフのあいだで考えていたことが
今回、きちんとシンクロした気がします。
それがこのプロジェクトでよかったことなんでしょうね。