1. 「星をひとつ、丸ごとつくる」
岩田
長い時間をかけて、
ようやくここまできましたね。
高橋
はい。ずいぶんお待たせしました。
岩田
前作の『ゼノブレイド』(※1)で、
あれだけのことをやりきったわけですから、
次作への期待はどうしても高まりますからね。
ただ、時間と予算は無限にあるわけではありませんし、
そんな制約があるなかで、お客さんたちに
「なるほど」と言われるものを
つくろうとするチャレンジだったわけですよね。
高橋
そうですね。
岩田
前作のときは、「背水の陣でつくった」(※2)
という話をされていましたけど、
今回の『ゼノブレイドクロス』(※3)では
ゲームをまとめるうえで、何を大事にしていたのか、
どうやって密度の濃い、豊かな世界ができていったのか、
というお話を、お訊きできればと思います。
高橋
はい。
岩田
まず最初に、みなさんから自己紹介をお願いします。
高橋
『ゼノブレイドクロス』の総監督をやりました、
モノリスソフト(※4)の高橋です。
竹田
シナリオライターの竹田裕一郎(※5)です。
前作の『ゼノブレイド』でも、脚本を担当しました。
兵頭
わたしは「はじめまして」、
ということになるんですけど、
脚本を担当しました兵頭一歩(※6)と申します。
岩田
兵頭さんは竹田さんとは以前から・・・?
兵頭
はい。かなり昔からの知り合いで、
今回は竹田さんに誘っていただいて
脚本のお手伝いをしました。
岩田
竹田さんがこの仕事に巻き込んだんですね(笑)。
竹田
はい、そうです(笑)。
小島
モノリスソフトのディレクターの小島です。
岩田
小島さんとは5年ぶりくらいですか?
小島
はい、5年ぶり(※7)です。
横田
任天堂側のディレクターを担当しました
企画開発部の横田です。
岩田
さて、前作が出たとき、
「最近のJRPG(※8)のなかでは突出した存在だ」
という高い評価をいただきつつも、
とても多くの人たちに遊んでいただけたとは
まだまだ言えないようなところもあったのですが、
それでも、多くの人から気になる存在として
認めてもらえるようなものになったと思うんです。
そうなると、次作への期待のハードルが
いやでも上がるわけですが、
その期待にどう応えるか、というところで、
長い間、奮闘されてきたんだと思います。
高橋
そうですね。
岩田
まず、『ゼノブレイドクロス』をつくるにあたって
最初に何を決めようとしたのですか?
高橋
そもそもロールプレイングで大事なのは
舞台装置だと、ずっと思っているんです。
岩田
前作の『ゼノブレイド』のときは
“巨神(きょしん)”と“機神(きしん)”の
フィールド(※9)を舞台にする、ということを、
まず最初に決めて、つくりはじめたわけですよね。
高橋
はい。
で、そのときは、巨神と機神のフィールドを
一本につなげたかったんです、本当は。
岩田
遊んでいると、つながっているように感じましたけど、
実際にはつながっていなかったんですよね。
高橋
ええ。マップのつながりかたなどを工夫して、
一見つながってるように見えていただけなんです。
そこで今回は、その舞台装置を
「さらにもう一段階、上に進めなきゃいけない」
という気持ちがありましたので、
まずはそこですね、いちばん最初に決めたのは。
そこで、完全なかたちでオープンワールド(※10)の
舞台装置をつくって、そのなかで遊んでもらう、
ということを最初の柱として決めました。
岩田
今度は、完全なかたちでの
オープンワールドになるんですね。
高橋
そうです。
岩田
それにしても、映像を見ただけでも
とてつもなく広いですよね(笑)。
高橋
はい。とてつもなく広いです(笑)。
そもそも、このプロジェクトをはじめたときは
「星をひとつ、丸ごとつくろう」
と、みんなで話していたくらいですから。
岩田
「星をひとつ、丸ごと」ですか・・・?
時間が長くかかるわけですよね(笑)。
高橋
そうですね(笑)。
実際は、現実的な工数でつくれる
約400km²の5大陸に絞って制作しました。
岩田
そのように、
オープンワールドの舞台装置をつくるという柱が
まず最初に決まって、
それをどのように実現するのかは、
ディレクターの小島さんの役割になるんですよね。
小島
はい。
岩田
そもそも、オープンワールドをつくることは、
そうじゃない普通のロールプレイングをつくるのと比べて
どのような違いがあるんですか?
小島
つくるものが、とにかく多いんです。
岩田
オープンワールドというのは
広大なフィールドを自由に行き来できるわけですから、
あらゆる場所にいろんなものをつくる必要があるわけですね。
小島
そうなんです。
一般的にロールプレイングをつくるときは
時間やメモリーなどのリソースが限られてますから、
お客さんの意識が向くほうに・・・悪く言えば誘導して、
そこの場所だけをつくり込むというのが王道なんです。
岩田
つまり、悪い言いかたをすると・・・
ある場所だけをしっかりつくり込みをして、
そこにお客さんを誘導するようにすれば、
その世界全体が、ものすごい密度があるように
感じてもらえるわけですね。
小島
そうなんです。でも今回は
愚直に世界を全部つくったという感じなんです。
じつは『ゼノブレイド』をつくったときも
画面に映った、すべての場所に
行けるようにしたかったのですが、
どうしても行けない場所もありました。
岩田
遠くのほうを眺めたときに
「あそこには何があるんだろう」と思っても、
行けない場所があったんですね。
小島
はい。でも、今回の『ゼノブレイドクロス』では、
そういうことは一切ないんです。
岩田
画面に映っていれば
どこでも行けるようになっていると。
小島
はい。なおかつ、せっかく行ったのに
その場所の熱量が薄いとがっかりするので、
あらゆるところに濃いものを入れてあります。
岩田
つまり、行くだけの価値のある場所を
この世界のすべてにつくったんですね。
小島
そうです。そこは本当に愚直につくり込んであるので
お客さんには楽しんでいただけると思うんですけど、
つくる側の立場から言うと、
すごくたくさんの試行錯誤がありました。
岩田
“遊ぶは天国、つくるは地獄”だったんですね。
小島
そのとおりです。はい。
高橋
それに、いくら愚直につくり込んでも、
たとえば、ストーリーで
A地点からB地点に行く必要が生じたとき、
プレイヤーがその間にある世界を素通りしてしまえば、
つくったものがまったくの無駄になってしまうんです。
岩田
地獄の苦しみを味わいながらつくったのに、
そこに寄り道をして、見てもらえないのは、
すごく残念ですよね。
高橋
ええ。でも、最初にオープンワールドの
舞台装置をつくると決めたときから、
その問題は避けて通れないと思いました。
そこで、まず最初に考えたのは、
A地点からB地点に行く途中に
“開拓”の要素を入れようと。
そこで情報や資源を得られるようにしまして・・・。
岩田
今回の舞台は、未知の惑星ですから、
まさに“開拓”するのがふさわしいですね。
高橋
はい。そういう“開拓”の要素を入れることで、
目的地のB地点に行く間に、いろんなものに
自然に触れられるようになると思いました。
岩田
いまの話を聞くと、
「ああ、なるほど」で終わるんですけど、
そういう命題は簡単に解けるものなんですか?
高橋
キッカケは些細なことだったと思います。
あるとき小島が、「広いエリアをどうしますか?」
と聞いてきたんです。
小島
オープンワールドにすると
目的の場所がわかりにくくなりますので
「どうしましょうか?」と聞いたんです。
高橋
そこで僕は、
「フィールドを六角形で分けちゃえば?」と。
小島
そうでしたね。
高橋
その六角形のエリアは蜂の巣状になっていて、
「セグメント」(※11)と呼んでいるんですけど、
「それぞれのセグメントにさまざまなものを置いて
プレイヤーがアクセスするようにすれば、
目的の場所とかがわかるでしょう」
という話を小島にしたんです。
たぶん、それがキッカケだったと思います。
岩田
もともと人間はマスを埋めるのが好きですから、
すごく理にかなった仕組みになりましたね。
高橋
そうですね。
岩田
でも、小島さんに聞かれたことを、
高橋さんが条件反射的に
パッと答えたことがキッカケになって、
その先の道がパーッと開けていったんですか?
高橋
そうだったと思います。
そこで、それぞれのセグメントに
クエストなどのそれぞれの遊びを積み上げていって
いまのかたちになりました。
岩田
簡単に「積み上げて」と言いましたけど、
実際につくる側の小島さんは
大変だったんでしょうね。
小島
はい、大変でした(笑)。
岩田
わたしは、これまでに公開された
『ゼノブレイドクロス』の映像を見ただけでも
「なんだ、この密度は!」という驚きがあって、
その“豊かさ”に圧倒されてしまったんですけど、
スタッフみんなが最後まで走りきることができたのは、
何がポイントだったんですか?
小島
そこはもう、
スタッフそれぞれの気力だけです。
岩田
ああ・・・。
小島
スタッフみんなが最後まで
倒れないでやれた、というだけです。
岩田
気合いと根性で、あの“豊かさ”を
つくりあげたんですね。
小島
そうです。もう気合いと根性の世界です。
もともとモノリスソフトには
「やると決めたら、やりきる」
というタイプのスタッフが多いんです。
なおかつすごくマジメで、
たとえ一か所でもウソをつくことが許せません。
岩田
ごまかしたり、手抜きすることを
すごく嫌うんですね。
小島
「やるんだったら、全部やる」、
「はじめたからには、やりきる」と、
そのように考えるスタッフが多いんです。
岩田
それって、わたしの想像以上に正攻法なんですね。
でも、そのようにつくられたものだから、
直接見えないところでも
人に伝わる部分が何かありそうな気がしますね。
小島
そうですね。
何か伝わるものがあると思います。
ゲームを触っていただくと、
きっとそれがわかっていただけると思います。