3. ゆるくつながるネットワーク
岩田
ここまで話を訊いた限りでは、
開発がとても順調に進んできたような
印象がありますけど、
じつはそうじゃなかったんですよね。
横田
はい。開発の途中で
ネットワーク対応にすることになりまして、
主人公をアバター(※12)に変更したり、
それに適したストーリーに書きなおすという
“大工事”をすることになりました。
岩田
開発の途中での“大工事”・・・
そのネットワークに対応することにしたのは
どのようないきさつがあったんですか?
横田
もともとRPGは
ひとり遊びのゲームだったと思うんです。
でも今回は、オープンワールドの世界のなかで
まったくひとりで遊んでいると、
「自分だけしかいない」というような孤独感を、
少し感じるようになったんです
岩田
とくに今回は、巨大な世界で、
しかも長く遊べるようになっていますから・・・。
横田
そうなんです。そこで、この世界を
もっと生き生きとした空間にするためには、
ネットワーク対応にして
「誰かとつながっていたほうがいいのでは」
という話になったのが、事の発端です。
ところが、ネットワークに対応しようとすると、
ほかのお客さんとコミュニケーションをとるのが
ちょっと怖いという人もいて・・・。
じつは僕もそうなんですけど(笑)。
竹田
僕もそうです(笑)。
ヘタなプレイをすると、上手なプレイヤーさんから
怒られちゃうんじゃないかという
怖さがあるんですよね。
横田
そこで、“ゆるくつながる”ことで
誰が遊んでも怖くないネットワークRPGを
めざすことにしました。
その“ゆるくつながる”というのは、
とくに小島さんがとても強く
こだわられたところでもあったんですけど・・・。
岩田
“ゆるくつながるネットワーク”ですか。
横田
はい。
岩田
いや・・・小島さんを見ていると、
知らない人とつながるのが怖い、
という顔には見えないんですけど(笑)。
一同
(笑)
横田
でも、小島さんはすごく繊細なんですよ。
小島
そう、じつは繊細なんです(笑)。
岩田
(笑)。でも、たしかに
ネットワークでは、いろんな人が参加しますから、
ごく一部ですけど、人が不愉快に感じるようなことを
喜ぶような人がなかには居て、
そういう人と出会いたくないという理由で
ネットワークゲームを敬遠する方も
いらっしゃいますよね。
小島
そうなんです。
悪意のあるプレイヤーの方と出会うのは
もちろんイヤなんですけど、
逆に、善意でコミュニケーションをとろうとされる
プレイヤーの方と出会ったときも、
こちらの気分次第では
「面倒だな」と思ってしまうこともありますし。
岩田
いくら“善意”であっても、
“おせっかい”に感じられることもありますし、
どう接すれば快適に感じていただけるのかは、
人それぞれですからね。
小島
でも、だからといって、
まったくひとりで遊んでいると
ものすごく孤独を感じたりするんです(笑)。
岩田
人とコミュニケーションをとるのは面倒、
だけど、ひとりで遊ぶのはさびしい、というのは、
「どっちがいいの?」という話ですね(笑)。
小島
はい。わがままな話ですよね(笑)。
これは個人的な体験なんですけど、
僕がまだゲーム業界に入る前の話で、
家族が外出しているときに、ひとりで遊んでいると、
すごい孤独を感じたことがあったんです。
「こんなことをやってていいんだろうか」って(笑)。
岩田
あははは、ゲームがこんなに好きなのに(笑)。
小島
ところが、居間に家族がいて、
隣の部屋から、その気配を感じるだけでも、
なんとなく安心感があったんです。
そのような“安心感”を、
ネットワーク対応にすることで
なんとか表現できないかなと思いました。
岩田
なるほど。そこに原点があったんですね。
小島
なので、ネットワークを使って、
ほかのプレイヤーと直接やりとりはしないんですけど、
この世界のどこかに
同じゲームを遊んでいる人がいる、ということが
感じられるようなものをめざしました。
岩田
それが“ゆるくつながる”ということなんですね。
小島
そうです。
それに、高橋のロールプレイングゲームは
ひとりで集中して遊びたい要素を
多分にはらんでいますので
それをじゃましたくないとも思ったんです。
岩田
具体的にはどのように、
“ゆるく”つながるんですか?
横田
Wii Uがインターネットにつながっていれば、
自動的にオンラインになるんです。
岩田
一般的にオンラインというと、
「つなぎますか?」と聞かれたりしますけど、
気がついたらつながっている状態になるんですね。
横田
そうです。
で、自分も含めて最大32人のプレイヤーと
ランダムでつながるようになっているのですが、
普通にフィールドを歩いていても
基本的につながった相手の姿は見えないですし
何をやっているかもわからないんです。
岩田
でも、うっすらとつながっていることが
リアルタイムでわかるんですね。
横田
はい。
たとえば、敵を倒してアイテムをゲットして、
「これは要らないな」というときには
「ほしい人は?」と、ほかのプレイヤーに問いかけて
希望する人に渡すことができるんです。
岩田
すると、希望する人のところに
そのアイテムを届けられるんですね。
横田
そうです。
で、ときたまミッションが発生したりします。
その32人のプレイヤーに対して
「昆虫を10匹、倒してこい」とか、
「くだものを10個、見つけてこい」とか・・・。
岩田
「ストーリーを進めるのに夢中だから、
そんなのやりたくない」という人は
どうすればいいんですか?
横田
無視してもらえば大丈夫です。
でも、自分は何もしなくても、
昆虫などの数字が減っていくのがわかるんです。
岩田
無視をしても、知らない誰かが
虫取りをしているのがわかるんですね。
横田
そうです。しかもそのミッションを達成すると、
全員にご褒美がもらえます。
竹田
あの・・・そのミッションに参加しなくても、
32人全員がご褒美をもらえるんですか?
横田
全員もらえます。
竹田
ああ、それはうれしいですね(笑)。
横田
そのようなミッションを達成すると
特別なクエストが発生することもあって、
そのときだけは実際に4人のプレイヤーが集まって、
たとえばボス戦ができたりします。
岩田
そのときに、初めて
つながっている人の姿が見えるようになるんですね。
横田
そうです。そのときに
自分のつくったアバターが生きてくるんです。
岩田
RPGはひとり遊びとして
ずっと発展してきましたけど、
今回の『ゼノブレイドクロス』では
同じように遊んでいる人が、ゆるくつながって、
それがどんな感じなのかを
味わってもらおうというチャレンジなんですね。
横田
はい、チャレンジです。
ゆるくつながるので、面倒ではないですし、
冒険しているほかの人たちの存在を
リアルタイムで感じられるので、さびしくないです。
ですから、怖がらずに
ぜひつながってほしいと思います。