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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

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社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』

オリジナルスタッフ 篇 その2

目次

6. “襲いかかるおもてなし”

岩田

そうやって、最後の最後まで
「これも入れよう」「あれも入れよう」「ここも直せるぞ」
ということで、みんなでかぶせ合いをしながら
つくられた『時のオカリナ』ですが、
実際に発売されると、世界中の人たちの
心に刺さる商品になったと感じているんですけど、
それはどうしてだと思いますか?

青沼

お客さんのなかには
「『時のオカリナ』は壮大なストーリーがいいんです」と言う方が
けっこういらっしゃるんです。
でも、そう言われるほど、壮大なストーリーかというと、
じつはスクリプトレベルからすると、
そうじゃなかったりするんですね。

春花

RPGのように、
セリフがそれほど膨大にあるわけではないですからね。

青沼

そう。でも、壮大なストーリーやドラマを感じてしまうのは、
ゲームのなかで自分が経験したことが全部、
物語に上乗せされるからだと、僕は思うんです。

岩田

謎を解くたびに、
「おれってなんて賢いんだ!」と
思った記憶が、自分の経験として
どんどん積み重なっていくわけですからね。

青沼

そうなんです。

岩田

それは壮大になりますよね。

春花

それは僕も感じました。
今回のニンテンドー3DS版をつくるにあたって、
オリジナルのN64版を久しぶりに触ってみたんですけど、
「もてなし感がすごいな」と感じたんです。

岩田

「もてなし感」ですか?

春花

ダンジョンとかで、行く部屋、行く部屋で
「いらっしゃいませ」と言われてる感じがして。
しかも、部屋に入ったお客さんに
全力で襲いかかってくるような荒々しさがあって、
13年経っても、そんな迫力を感じたんです。

岩田

あのう、一般的に“おもてなし”ということと
“襲いかかる”というのは、同時に出ない言葉ですよね。

春花

あ・・・はい(笑)。

岩田

「“襲いかかるおもてなし”って何?」
みたいな感じなんですが(笑)。

春花

えー・・・“おもてなし”とはいっても、
上げ膳据え膳みたいに、
何から何まで面倒をみてくれるという意味ではなくて、
行く先々で、いろんな遊びで
“おもてなし”してくれるという・・・。

岩田

あ、確かにそれはありますね。
行くところ、行くところで、
次から次に新しい体験ができるゲームでしたから。

春花

しかも、その濃さがすごいんです。
それと、最近のゲームのように、
きちんと整理された“もてなし”ではなくて、
『時のオカリナ』には、フックになる
いい意味でのたどたどしさや歪(いびつ)さ、
荒々しさがあるように思うんです。

岩田

それが襲いかかってくるということですか(笑)。

春花

はい・・・そうです(笑)。
きれいに整ってない“もてなし”に、当時がっぷり四つで
真剣に向き合ってくださったお客さんが、
いまだに語ってくださっているんだと思います。

青沼

実際、突き放しているところも
いっぱいありますしね。

春花

それも“荒々しさ”ですよね。

青沼

きっちり整理されていないから
わけもわからずウロウロしたりとか。

岩田

そう。何カ所かは迷いますよね。

森田

たとえば「水の神殿」のダンジョンもそうですし。

青沼

ああ~、その話はやめて~(笑)。

一同

(笑)

森田

でも、あのダンジョンで迷った人は、
「釣り堀」で癒されるんです。

青沼

あ、なるほど、そういう構造だったのか(笑)。

森田

そうです、そうです(キッパリ)。

宮永

すぐそばにありますからね。

森田

だからナイス配置なんです。

岩田

宮永さん、ナイスだそうです(笑)。

宮永

はい、ありがとうございます(笑)。

岩田

では最後になりますが、『時のオカリナ』が
13年ぶりによみがえることになり、
お客さんにどんなふうに遊んでほしいのか、
ひとことずつメッセージを春花さんからお願いします。

春花

最初はリメイクの話を聞いて、
すごくうれしい気持ちになったんです。
N64版を体験したことがない人にも
遊んでいただけるチャンスができるわけですから。
でも一方で、オリジナルに忠実につくろうということで、
「これは古いと思われるんじゃないか?」
という心配も出てきたんです。

岩田

なにしろ、13年前のソフトですからね。

春花

ところが、3DS用につくられていくものを
実際に触ってみると「色あせてないな・・・」と感じました。
今回、立体視をはじめとした新しい要素もありますので、
かつてプレイされた方は「いまさら?」と言わず、
もう一度遊んでいただきたいと思います。
それと、『時のオカリナ』未経験の方には、
この“荒々しいおもてなし”をぜひ受けてもらいたいなと思います。
そして、どんなふうに感じていただけるのか、
感想を聞かせていただけるのを、とても楽しみにしています。

滝澤

僕は今回のリメイク版にもかかわったんですけど、
操作系に関して言うと、
かつてN64版を触った人たちは
「すごく快適に操作できました」と
美化しているところもあるんじゃないかと思っているんです。

岩田

いい思い出として残ってるだろう、ということですね。

滝澤

はい。そこで今回は
「マイナスをゼロにする仕事かもしれない」と
まず思ったんです。

岩田

それはどういうことですか?

滝澤

つまり、みんなが美化しているものに対して、
同じレベルに引き揚げることを最優先しようと。

岩田

「こんなはずじゃなかったのに・・・」と感じると、
それはマイナスになるので、
「そうそう、こうだった、こうだった」と
思われるようにしようということなんですね。

滝澤

そうです。
でも、実際につくってみると、
N64版を上回れるレベルになったという
手ごたえを感じることができました。
なので、N64版を体験した方はもちろん、
新しいお客さんにも「古いゲームだな」と感じることなく、
新作ソフトとして遊んでいただけると思いますので、
ぜひ楽しんでいただきたいですね。

宮永

僕は今回の3DS版の開発には
ほとんどノータッチだったんですけど、
遊びはじめる前は、ちょっと不安だったんです。
ところが、いざ触りはじめると、
気がついたときには没入している自分がいました。

岩田

自分で設計したハイラル平原を
立体で見たときはどう思いましたか?

宮永

「丘が丘に見える!」と思いました。

岩田

なるほど(笑)。

宮永

N64版のときは丘の印象が薄かったんです。
ところが立体視だと、丘の盛り上がっている感じが
すごくよくわかるようになって、
「ああ・・・こんな地形をしてたんだなあ」と思いました。

岩田

元の地形は自分でつくったのに(笑)。
再発見があったんですね。

宮永

そうです。
それにリアルさが増して、
『時のオカリナ』で大事にしていた
“空気感”もすごく感じられるようになったと思います。
なので、今回初めて遊んでいただけるお客さんにも、
昔遊んだお客さんにも、N64版とはちょっと違う世界を
楽しんでいただければと思います。

森田

僕はちょっと別の言い方を・・・。
すごく気に入っていたラーメン屋さんが
13年くらい前に、残念ながら閉店しましたと。

岩田

はい(笑)。

森田

「あのラーメンをもう一度食べたいなあ」と
ずっと思っていたところに、
「ラーメン屋さんがついに復活!」
みたいな感じなのが、今回の3DS版だと思うんです。

岩田

で、そのお店に入ってみると
「ああ、この味だ!」と感じるんですね。

森田

いえ、「もっとおいしくなってるぞ!」と(笑)。

一同

(笑)

森田

そのような感じで、ただ懐かしむのでなく、
13年後だからこそ表現できる“最高の味”を、
みなさんにぜひ楽しんでいただきたいと思っています。

青沼

新しいものとして“味”がちゃんとよみがえっている、
ということですよね。

春花

それにしても、13年前につくったものが
もう一度出るというのは、
中学生のときの文集を見られるようで、
ちょっと恥ずかしい気持ちもあるんですけど(笑)。

岩田

前回の「社長が訊く」でも、
小泉さんも触るのが怖いと言ってましたしね(笑)。
では次回は、いよいよ13年前の『時のオカリナ』を
いまによみがえらせたみなさんからお話を訊くことにします。
今日はありがとうございました。

一同

ありがとうございました。