岩田
それでは滝澤さんに、
ボスや敵のデザインについてお訊きします。
滝澤
はい。
岩田
『ゼルダ』のボスは、
どんなふうにつくりはじめるんですか?
滝澤
基本的な流れをお話しすると、
まず最初に青沼さんから敵の仕様書をもらって、
そこでじっくりデザインや機能を検討して、
ある程度、仕様が固まった段階になってから
SRDの森田さんのところに行って、
実際に動かしてもらうようなことをしていました。
青沼
でも、僕が滝澤さんに渡したのは
“起承転結”の部分だけだったんです。
岩田
つまり、どんなふうにボスが登場するのかが“起”で、
ボスがどのような攻撃をしてくるのかが“承”であり、
どうやって倒すのかが“転”、
そしてラストの部分が“結”になるんですね。
青沼
そうです。
そのようにフレームだけ渡して、
そこに肉を付けていくのは
森田さんや滝澤さんの役割でしたから、
僕としては、それができあがってくるのを
楽しみに待っていたんです。
ただ、開発の最初の頃は
つくり方を模索した時期もあって、
自分でイメージイラストを描いていたこともありました。
岩田
え? 青沼さんがイラストを描いていたんですか?
青沼
はい、僕も昔はデザイナーでしたから(笑)。
ただ、ある日、いつものように
滝澤さんに「こんな敵にしてほしい」と
僕が描いたイラストを渡したら、
「青沼さん、絵はもう描かないでもらえませんか」と
ぴしゃりと言われてしまったんです。
岩田
それはどうしてなんですか?
青沼
僕も「え? どうして?」と思って、
「おれの絵って、そんなにへたくそ?」って聞いたんです。
そうしたら、
「イメージが固定しちゃうので・・・自由に描かせてほしいんです」
と言われたんです。
岩田
滝澤さんとしては、真っ白な状態から
ボスを描きたいと思ったんですね。
滝澤
すみません・・・そうなんです。
青沼
でも、自分としては
「こんなデザインにしてほしいのに・・・」
という想いが強かったので、
そのときは・・・すごく凹んだんです(笑)。
岩田
(笑)
滝澤
ああー、本当にすみません・・・。
当時は若くて、鼻っ柱が強かったものですから・・・。
青沼
いやいや、でもそのような強い気持ちがあったから
ユニークな敵がたくさんできたわけですし、
実際、滝澤さんと森田さんがつくると、
僕が考えるものを超越したものが
どんどんできあがっていったんです。
岩田
滝澤さんと森田さんのやりとりは
どのように進められたんですか?
滝澤
まだ新人同然だった僕にとって、
森田さんは、その当時から大ベテランでしたので、
胸を借りるような気持ちで
SRDさんに通っていました。
岩田
旧本社(※7)の時代ですね。
滝澤
そうです。
わたしたちの情報開発部とは別の棟にSRDさんがあって、
裸足で入ることができましたので、
それが気持ちよくて、いつもおじゃましていたんです。
岩田
素足で気持ちがいいから(笑)。
滝澤
はい(笑)。
そこで森田さんに、敵について説明すると、
すぐにプログラムを組んでくれたんです。
それを見て、「ここはこうしたほうが・・・」と言うと、
15分くらい待ってるうちに、
また新しい動きを見せてくれて。
そのようなことをずっと繰り返していたんですけど、
あの時間の濃いやりとりは
すごく自分の実になった、といまも思います。
キャッチボールのやり方を学んだというか。
岩田
当時は入社4年目くらいだったんですか?
滝澤
3年目でした。
岩田
3年目、4年目とかだと、
ものすごく貴重な経験ですよね。
ファミコン黎明期から仕事をしている森田さんに、
言わば弟子入りするようなものですから。
滝澤
まさにそうでした。
岩田
師匠の胸を借りて、球を投げると
すごい球が返ってきたりするわけですよね。
ただ相手は先輩だけども、どこかで
「ぎゃふんと言わせてやろう」という、
若さゆえの鼻っ柱の強さもあったんでしょ?(笑)
滝澤
ええ、そのとおりですね(笑)。
胸を借りているという気持ちがありつつも、
「負けたくない!」という想いが強かったので、
森田さんに、まさに「ぎゃふんと言わせたい」と
いつも思っていました。
森田
でも、ゲームとはぜんぜん関係ない
雑談をしながらやってましたよね。
滝澤
あ、そうですね。
釣りのことも教えていただいたりとか(笑)。
ただ、雑談をするなかで
プログラムの話を聞いたりしても、
僕はそっち方面の勉強をしてきたわけではありませんので、
すべてを理解できるというわけではなかったんです。
でも、すごい動きを見せられると、
どうしても聞きたくなってしまうんですね、
「これって、どうやってるんですか?」って。
岩田
滝澤さん、プログラマーという人種は
「これ、どうやってるんですか?」と聞かれると、
けっこううれしいものなんですよ(笑)。
滝澤
そうなんですか?(笑)
岩田
ええ(笑)。
滝澤
「わからんくせに、聞くな」とか
思われているんじゃないかと・・・。
岩田
いやいや、なんとかわかるように
説明してあげたいと思うんじゃないでしょうか。
森田
そうですね。
まあ、もちろんものによりますけど・・・。
岩田
確かにかんたんには説明できないこともありますね。
滝澤
たとえば、『時のオカリナ』に
竜の姿をしたヴァルバジアというボスが出てきますよね。
岩田
はい、炎の神殿にいるボスですね。
滝澤
ヴァルバジアは竜ですから
くねくねと、うねるような動きをするんですけど、
僕は竜のモデルのパーツしか渡さなかったのに、
森田さんはアッという間に動かしてくれたんです。
それがすごく不思議で。
岩田
「何だかよくわからないけど、すごい!」
と感動したんですね。
滝澤
そうなんです。
そこで、「これ、どうやってるんですか?」と
思わず聞いてしまったんです。
そしたら『スターフォックス64』でつくった
プログラムと同じなんだよと。
戦闘機のアーウィンが別の戦闘機に
追尾されるシーンがありますけど・・・。
岩田
(間髪入れずに)
あ、あれですね。
そうです、おんなじですね。
滝澤
さすが岩田さんはすぐにわかるんですね(笑)。
春花
やっぱり、そこはプログラマー同士だから(笑)。
滝澤
でも僕は、そのとき話を聞いて、
まったくピンとこなかったんです。
ただただ、「なんかすげえな・・・」と思っただけで。
岩田
戦闘機がうねりながら舞うように飛ぶのと、
ヴァルバジアの動きはまるで同じですからね。
森田
戦闘機を竜に置き換えるだけで、
かんたんに動かすことができたんです。
滝澤
そんな感じで、僕にとっては
「すごい!」「そうなんだ!」と
いろいろ感心しながら仕事をするような、
本当に楽しい毎日を送っていました。