あと、森田さんの仕事では
剣で看板が切れるようにしましたよね。
森田さん、なぜそれができるようにしたんですか？

いえ、あれは宮本さんなんです、言い出したのは。

あ、そうなんですか。
また宮本さんがふらりと来て
言い残して帰っていったんですか？

ええ。「やっぱり看板は切れるよね？」という感じで（笑）。

剣を斜めに振り下ろすと、
看板もちゃんと斜めに切れるようになっていますけど、
いろんな切れ方をするようにしたのは？

その設計をしたのは、たぶん僕です。
「６Ｐチーズみたいな感じに」と思って・・・。

６Ｐチーズですか（笑）。

しかも、看板は切れるだけでなく、
切れはしが池に浮かぶようになっていますけど、
それをやったのも森田さんでしょ？

そうです、僕です。

さすが、水辺に強い森田さん（笑）。

（笑）

あれ、笑いましたよね、初めて見たとき（笑）。

僕たちは、夜中にそれを見たんですけど、
宮本さんがボソッと言ったんです。
「これ、すごいな・・・」と。

「これが『ゼルダ』や！」と言ったんですよね。

一見、何でもないようなことなんですけど、
水に浮いて、スーッと動くところまで
こだわってつくっているところに、
宮本さんはすごく感動していました。

ああ、それはうれしいです・・・。
で、切れはしが水に浮くようにつくってみたら、
わざわざ看板を水辺に立ててくれて・・・。

ああ、水に浮くのを見てほしいから、
看板の位置をわざわざ変えたんですか。

そうなんです。

とはいえ、もともとの看板の機能とは
何の関係もないんですけど（笑）。

はい、関係ないです。
だって看板を切ってしまったら、
書かれてる文字はまったく読めなくなりますから（笑）。

（笑）

ですから、いったん外に出るか、
「ゼルダの子守歌」をオカリナで演奏して
看板を修復できるようにしたんです。

切った看板を元通りにするための仕様も
追加で入れたんですね。

そうなんです。
開発が大詰めですごく忙しいときだったんですけど、
「面白いからやろう！」って言って（笑）。

さて、宮永さんをはじめ地形担当のみなさんは、
そうやって、水辺に看板を立てたり、
「釣り堀」のような特殊な地形を
つくったりするのも仕事のうちだったんですね。

はい。

宮永さんは『時のオカリナ』のチームに入る前は
どんな仕事をしていたんですか？

入社直後はドット絵などを描いていたんですけど、
１年目の後半から、『マリオ64』にかかわるようになりました。

春花さんと同じように、
フィールドデザインの助っ人として呼ばれたんですね。

そうなんです。
そのとき、初めてポリゴンを触ったんですが、
自分がつくったものができていく楽しさが
その仕事にはあって、
そのあとの『マリオカート64』^（※8）でも
開発の後半からプロジェクトチームに入って、
コースをつくったりしていました。

で、『マリオカート64』が終わってから
『時のオカリナ』のチームに入ったんですね。

そうです。

『時のオカリナ』のときは、
どんなふうに地形をつくっていったんですか？

ハッキリとは覚えていないんですけど、
僕がこのプロジェクトに参加したときは、
街なかのステージができていて、
何もない街をリンクが歩いていたんです。
そこで、みんなで話し合いながら、
「この世界をどうしようか？」ということから
はじめたと記憶しています。

まだ、実験段階だったんですね。

そうです。
で、よく覚えているのが
「村がほしいね」という話になって、
デスマウンテンのふもとに
カカリコ村をつくることになったんです。
そこでまず、僕が粗いスケッチを描いて、
「もしこのような住人がいたら
きっとこんな家に住んでるよね」とか、
「仮にこのような家をつくったら
こんな住人が住むはずだよね」みたいに、
キャラクター担当の春花さんや
シナリオの大澤さんたちといっしょに話し合いながら、
村の世界をふくらませるようなことをしていました。

つまり最初から、村の設計図があるのではなく、
いろんな人たちがアイデアを出し合いながら
少しずつ住人や家が増えていって、
最終的に村ができあがるんですね。

そんな感じです。

ハイラル平原も
宮永さんの担当という話でしたが、
あのように広大な世界にしたのは
馬を走らせるためだったわけですよね。

そうです。
ですから、最初にあの平原をつくったときは
いろいろ言われたりしたんです。
「こんなに広くしてどうするの？」みたいに（笑）。
馬で走れるとはいっても、
ただ広いだけでは退屈な場所になってしまいますので、
何かを置かなきゃいけなかったんです。
そこで、いろんな人の手が入るようになって、
たとえば敵が出てくるようにしたり
平原のあちこちに穴を開けたりしました。

なので、実際に平原のなかを探しまわって
何もないところを見つけては、
ひとつずつ、つぶすようなこともしていましたよね。

「このへんはちょっと寂しいから
穴を開けて、何かを入れよう」みたいな感じで（笑）。

つまり、宮永さんは
ハイラル平原という土台をつくり、
そこに、いろんな人のアイデアが集まってきて、
最終的にあのような空間ができあがったわけですね。

そうです。
それはカカリコ村のつくり方と同じです。

『ゼルダ』のものづくりというのは、
もともと完璧な設計図があるんじゃなくて、
ある土台を元に、みんなでキャッチボールをしながら
かぶせ合いするようなことが基本だったような気がします。

そうですよね。
つねにみんなとしゃべりながら、
ネタをかぶせ合って、ものをつくっていましたし。
たとえばディレクターに対しても
「決めてください」というのではなく、
“いっしょに決めにかかる”みたいな感じでした。

つまり、指示をする人と
指示される人の構造ではなかったんですね。

そうなんです。立場やキャリアに関係なく、
「こっちのほうがいいと思います」とか、
自然とみんなで言い合えた現場でした。
その傾向は、とくに開発の終盤に顕著になりました。

終いには「そこは僕がやります」とか。

そう、気がついたことは
それぞれが勝手にやっていたんですよね。

そもそも、この『時のオカリナ』は
発売が何度も延期になったプロジェクトでしたよね。

はい。

一般的に言って、発売が延期になって
開発の締め切り日が延びたときは、
苦しい日々がまだ先に続くことになるので
現場の空気が、どよ～んとするじゃないですか。

・・・でも、そういった空気は、
このプロジェクトではまったくありませんでした。

なんででしょうね？

むしろ「バンザイ！」みたいな。

えっ？ バンザイ、ですか？（笑）

はい。「あそこをまだ直せるぞ！」とか。

「あそこをもっと磨けるぞ！」とか。

「何もなかったあそこに穴を開けられるぞ！」とか。

ふつう「延びた！ バンザイ！」みたいなことは
ありえないですけど、あのときは
「ここでやめておけ」と言っても、確かに
「えっ？ どうしてですか！？」とか返される感じでしたね（笑）。

「あそこが気になっていたけど、
それを直す時間ができたぞ」みたいなことしか、
当時は考えなかったんです。
発売が延期になり、お待ちいただいていたお客さんには
すごく申し訳なかったんですけど、
現場にいた僕たちはすごく喜んだのを覚えています。