開発の途中から、それも発売の１年半前に
「おとな」だけでなく「こども」の
モデルやモーションをつくることになって、
小泉さんはどのように解決したんですか？

じつはちょっとした工夫で解決したんです。
おとなリンクのモデルに、ある値のスケールをかけると、
すべて同じものを２倍使えることがわかったんです。

「おとな」のモーションが
「こども」にも使えることがわかったんですね。

そうです。
技術的に解決できるということで、
「こどもリンクもできます」と太鼓判を押しました。

ただ、「おとな」から「こども」なので
すべてがそのまま使えたわけではないですよね？

そうですね。
こども用にも手を加えたりしましたので、
アニメーションは１.５倍つくることになりました。

最終的に、リンクの基本モーションは
どれくらいの数になったんですか？

５００パターンくらいです。
これにプログラムの合成も加わりますので、
さらに多くなりました。
そのように多くのパターンを入れることができたのは、
N64のロムカセットのおかげでもあるんです。

もともと『時のオカリナ』は
64DD^（※13）のソフトとして開発していたんですよね。

そうなんです。宮本さんが
「おれにはアイデアがある」と言っていて、
たとえば「足跡を全部残すんだ」とか。

はい（笑）。

そこで最初は64DD用につくっていたんですけど、
64DDの磁気ディスクからデータを読み取ろうとすると・・・。

ロムカセットなら、機械的な可動部分がないので
どこにあるモーションデータも一瞬で読み出すことができますけど、
磁気ディスクだと、機械的な可動部分を動かす時間がかかるので
データのある場所によって、読み出しに待ち時間がかかるので、
リンクのモーションを
動かすことができなかったんですよね。
モーションが少なくてメモリに収まれば、
事前に磁気ディスクからメモリに読んでおくこともできますけど
５００パターンもあるわけですから。

そうなんです。
だから当時の小泉さんは
「僕のリンクは64DDでは動きません」
と言ったりしていたよね。

そうでした。
でも結果的に64DDではなく、
ロムカセットで出ることになって、
なかにはガッカリされた方もいらしたかと思うんですけど、
世界でいちばん喜んだのは・・・僕かもしれないです（笑）。

「僕のリンク」を
好きなように動かせるわけですからね（笑）。

はい（笑）。

そうやって、こどもリンクが出るようになり、
『時のオカリナ』では、「エポナ」に乗れることも、
すごく特徴的なことでしたけど、
馬のアイデアはどのようにして生まれたんですか？

「馬に乗りたい」という話は
突然降ってきたんです。

いや、突然ではないような・・・。
というのも、じつは『マリオ64』の頃から
馬の話はあったんです。

あ、そうなんだ。

でも、『マリオ64』では乗らなかったので、
『時のオカリナ』では、きっとやることになるだろうと、
僕は準備はしていたんです。
そもそもエポナは女の子なんですよね。

あれ、なんで「エポナ」という名前なんですか？
最初は「アオ」とか呼んでませんでしたっけ？

青沼さんの「アオ」なんですか？

いえいえ、そんなわけないでしょう（笑）。
馬といえば、やっぱり「アオ」ですから。

はい？（笑）

・・・「エポナ」は僕の命名なんです。

そう（笑）。
小泉さんから先に言われちゃったんです。
「この馬はエポナって言いますから」って。
だから、僕が名前を考える余地はなかったんです（笑）。

「エポナ」というのは
ケルト神話の馬や豊饒（ほうじょう）の女神で
そこから勝手に引用させてもらったんです。
やっぱり、自分で名前を付けると愛情もわきますし、
頑張っていい馬になるようにつくろうと。

そこで、「エポナ」について、
宮本さんから説明を受けることにしたんですけど、
最初はカメラワークのことしか言われなかったんです。
「馬がピョーンと跳ぶところを、下からのアングルで見たい」と。
たったそれだけで（笑）。

はいはい、そうでしたね。

逆光で、光がピカーンと来て、
断崖をビュンと跳んで、カメラで谷底からこう映してと。

でも、宮本さんから
演出面でのリクエストがあるのは珍しいですよね。

珍しいです。あとにも先にも
「こういう絵が見たいから、やってくれ」
という話があったのは、あのときだけですね。

やっぱり馬に対する、何かがあるんでしょうね。

それはたぶん、ウエスタンの流れなんですよ。
カントリーが大好きだから、宮本さん。

趣味を仕事にする人ですからね。

それって、壊れたつり橋を跳び越えるシーンですよね？
ほかにも牧場から脱出するシーンもあって。

そうそう。

でも、牧場の出口はひとつではないんですよ。

だから、それぞれの出口用に
ムービーをつくらないといけなかったんですよね。

そうなんです（笑）。

ただ、柵を跳び越えるときは
馬は自動で跳んでくれたんですよね。

馬もオートジャンプだったんですね。

そうです。

馬も自動で跳べるようにしたのは、
もともと宮本さんが
「難しいアクションは『ゼルダ』には要らない」
と言っていたからなんですけど・・・。

でも、「ニンジンシステム」を入れたんですよね。

そう、宮本さんが（笑）。

宮本さんがどうしても、
「ただ馬に乗って走りまわるだけだと、
ゲームとして面白くないから、アクションを入れたい」
ということで、ニンジンを入れたんです。
ムチを打つと、ニンジンのアイコンがひとつ消えて、
それで勢いよく走るんですけど、
すべてのニンジンを使い果たすと
しばらくムチが打てなくなって、
柵が跳べなくなってしまうんです。

あれで操作がちょっと難しくなりましたよね。

そうなんです。
「いいタイミングでムチを打つのがコツや！」っていうのと、
「難しい操作は要らない」って言ってることって
違うじゃないですか（笑）。

確かにね（笑）。

そんな遊びを入れたのは、宮本さんです（笑）。

けっきょく、馬に乗れるという
ひとつの目的を達成したら、
その先をやりたくなってしまうんでしょうね。

だから、
「せっかく馬に乗れるんだから、
流鏑馬（やぶさめ）と一騎打ちもできるようにもしたい」
とか言いだされたりしました（笑）。
で、流鏑馬は『時のオカリナ』に入れることができましたけど、
一騎打ちはできなくて・・・。

その後、 『トワイライトプリンセス』^（※14）のときに、
ちゃんと入りましたよね。

そうです。

やっぱり、一度考えたネタは
執念深く使う人ですよねー、宮本さんは（笑）。

そうなんですよ。
これは馬の話じゃないですけど、
『時のオカリナ』の当時から、宮本さんは
「剣を上に掲げたい」って言ってたんです。

僕もそれを言われたんですけど、
N64ではできなかったんです。

でも、今度の『スカイウォードソード』では、
剣を掲げることができるんですよね？

そうなんです。
Wiiモーションプラス^（※15）に対応しているので、
ようやく実現することになりました。

１３年経って、念願がまたひとつ叶うんですね。

だから、宮本さんのなかでは、
『ゼルダ』というシリーズは
全部がつながっているということなんでしょうね。