岩田
キャラクター同士が向き合おうとすると
軸が合わなくて、ずれてしまうということは、
ゲームを3D化したときに、
ゲームづくりにかかわるあらゆる人が
最初に直面した問題で、
そのことですごく悩んだはずなんです。
でも、おふたりは、太秦映画村に行くことで、
解決策を見つけることができたんですね。
小泉
そうですね。
そのZ注目の流れでいうと、
もうひとつ思い出すことがあって、
注目戦闘の試作をつくっていたときに、
特定の相手に注目していることを
わかりやすく表示したいということで、
マーカーをつくっていたんです。
岩田
はいはい。
小泉
逆三角形の。
岩田
注目する相手の頭上に出るようなやつですね。
小泉
はい。でも、僕はデザイナーということもあって、
そのようなありがちのマーカーにするのがイヤで、
別のものをつくろうとしたんです。
そこでひらめいたのが「妖精」でした。
やっぱり『ゼルダ』ですから。
岩田
順序としては、マーカーをつくろうとして
あとから妖精ができたんですね?
小泉
そうです。
ただ、妖精をつくろうとすると、
かわいい女の子にするのがふつうだと思うんですけど、
当時のN64では、処理的に無理だったんです。
そこで、光の球に羽根を付けただけのものにしたんです。
岩田
はい。
小泉
それに「妖精ナビゲーションシステム」と名付けて、
大澤さんに「どうでしょう? これ」と持って行ったら、
即座に「名前は
ナビィにしよう」と言ってくれたんです。
まぁ、そのままなんですけど(笑)。
岩田
そこは、大澤さんの
ベタベタのネーミングセンスが活きたわけですね(笑)。
大澤
「ナビゲーション」ですから(笑)。
もともと『ゼルダ』って、
元ネタがわかるネーミングが多いじゃないですか。
「リンク」も「結びつける」という意味の
“LINK”だったりしますし、
そのように機能的なシンボルとして、
名付けられることが多いと思うんです。
岩田
「機能的なシンボル」というのは
まさに、宮本さんの価値観だったりしますよね。
大澤
だと思います。
なので、「ナビィ」と名付けたのも、
僕のベタなセンスだけがそうさせたわけではなくて、
『ゼルダ』のネーミングにあやかって
付けるべくして付けたという感じなんです。
小泉
でも、僕は大澤さんから
「ナビィ」という名前を聞かされて、
すごくうれしくなったんです。というのも、
もともとはシステムのひとつだと考えていたのに・・・。
岩田
つまり、マーカーという無機質だったものが、
名前を与えられることで、命が吹き込まれたんですね。
小泉
そうなんです。
「こいつはナビィなんだ」と思ったら、
いろんなアイデアが次から次に浮かぶようになったんです。
たとえば、行った先で、向かい合う人が
いい人か悪い人かを、色でわかるようにしたりとか、
しゃべるようにすれば、狂言まわしもできますし。
だから「ナビィ」という名前を与えられたことで
すごく拡がりが生まれたんです。
大澤
攻略のヒントとかもしゃべりますしね。
小泉
なので、大澤さんが書く
テキストの量もすごく増えましたよね。
大澤
あはは、そうだね(笑)。
でも、「ナビィ」が加わることで
シナリオ的なメリットも生まれたんです。
“妖精との出会いと別れ”をひとつの軸にして、
物語にふくらみをもたせることができましたし。
岩田
へぇ~、なるほど。
小泉
メリットが生まれたのは、シナリオだけでなく
システム的にもそうだったんです。
いちばん最初の舞台はコキリの森ですけど、
その村にはたくさんの木が生えていて、
しかも人がいっぱい住んでいるんですが、
それらを同時に表示するのが難しかったんです。
岩田
N64では、性能上の制約もあって、たくさんのキャラクターを
同時に表示することは難しかったんですよね。
小泉
そこで考えたのが、住んでる人たちに、
それぞれ妖精が付いている設定にしようと。
そうすれば、妖精だけを出しておいても・・・。
岩田
そうか。妖精のところに
住人がいるのがわかるんですね。
小泉
そうです。で、その妖精に近寄ると
住人が現れるようにすれば、処理がまかなえると。
青沼
しかも、「もともとリンクには妖精がいない」
というシナリオにつながりました。
大澤
だから、妖精をまず見つけるところからスタートして、
最後には別れるという、“妖精との出会いと別れ”に
つながっていくんです。
岩田
うん、なるほど。
小泉
そもそもそのような設定は
もともと考えていたわけではなく、
言ってみれば、“でっちあげ”なんです。
岩田
はい(笑)。
小泉
でも、でっちあげることは
僕らの仕事で重要なことのひとつだと思っているんです。
岩田
その“でっちあげ”なんですが、
『ゼルダ』をつくるときは、
まずゲームシステムが最優先されて、
「シナリオはあとから」と、よく言われますけど、
シナリオを考えるのは大澤さんの役割でしたよね。
大澤
はい。
岩田
たとえば「こども」と「おとな」といったテーマは
最初から考えていたことなんですか?
大澤
いえ、最初は「おとな」だけでした。
岩田
おとなリンクしか登場しなかったんですか?
大澤
そうです。
最初は「おとな」だけでいこうと。
チャンバラをするというシチュエーションからすれば、
やっぱり「おとな」なんですね。
「こども」だと、剣は小さいですし、手も短いですし、
とくに大きい敵と戦おうとすると、絶対不利なんです。
岩田
だからといって、
敵を小さくすることもできませんしね。
大澤
そうなんです。
ところが、開発の途中になって、
「かわいいリンクも見たい」という声が、
宮本さんやスタッフからも出てくるようになったんです。
岩田
すると、シナリオも大きく変わりますよね。
大澤
ええ。そこで、どうすれば「おとな」と「こども」が
同時に存在する世界をつくれるのかを考えて、
マスターソードを抜いたら7年後に行き、
さしたら7年前の「こども」に戻るという
システムを考えたんです。
岩田
一瞬で行き来できるようにしたんですね。
大澤
はい。なので、このシナリオも後付けなんです。
岩田
でも、そんな大きな変更をして、
よくもまぁ破綻しませんでしたね。
一同
(笑)
岩田
え? みんなが笑ってる、ということは、
微妙に破綻していたんでしょうか?(笑)
青沼
破綻というか、激論を闘わしていたんです。
大澤
毎日のように言い合いをしていました。
シナリオを書いても、「これはおかしい」とか、
「こういうことはありえない」みたいに、
つじつまが合わないところは
みんなからどんどん指摘されるので、
僕もどんどんシナリオを書き直していったんです。
直したシナリオを持って、「こうしたけど、どう?」みたいに。
確かみんなに見てもらって、「これなら大丈夫」と
ひとりひとりからOKをもらいながら・・・。
小泉
え? そこまではしてないと思うんですけど・・・。
してましたっけ?
青沼
そこまではしてないです。
大澤
あれ? 僕はしたと思うけど・・・。
青沼
それは「した」気持ちになってるだけで(笑)。
岩田
記憶が書き換わっているんですかね(笑)。
一同
(笑)
大澤
そうかなぁ・・・。
小泉
あの当時は、みんな
自分の目の前のことで精一杯でしたから。
それで、「こども」も出てくるということになって、
僕がいちばん困ったのが、
リンクのモデルやアニメーションなんです。
岩田
つくる量が2倍になってしまうんですね。
小泉
そうです。仕事も2倍になってしまうと。
つくっていたのは僕なので、
「どうしようか・・・?」と。
岩田
そもそも「こどもリンクもつくろう」
という話になったのは、いつ頃だったんですか?
小泉
開発がはじまって2年目くらいだったでしょうか。
岩脇さん、覚えてますか?
岩脇
ええ、確か発売の1年半くらい前だったと思います。
岩田
ああ・・・そんな時期だったんですか。