4. ニンテンドー3DSでオーケストラサウンドを
岩田
今回、横田さんは
十数年前に近藤さんがつくった曲の数々を
再現することに徹したんですね。
横田
そうです。
でもじつは、オーケストラで録った曲も入れているんです。
1曲だけなんですけど。
岩田
任天堂のオーケストレーション担当としては
ガマンできなかったということですか?
横田
それは・・・はい(笑)。
どの曲かは、ゲームをやってからのお楽しみなんですが。
岩田
ゲームファン冥利につきる仕事をしてますね(笑)。
横田
はい、おかげさまで(笑)。
3DSでもオーケストラの音源がキレイに鳴るので、
ぜひ聴いてもらいたいですね。
近藤
じつは僕も3DSのスピーカーとか、
アンプなどといったハードの設計の仕事にも
かかわりまして・・・。
岩田
ああ、そうでしたね。
じつはニンテンドー3DSの開発では、
本体の大きさの制約があるなかで、
どれだけ音質を高めるか、ということで
サウンドチームの人にも加わってもらいました。
近藤
スピーカーを何センチにするかということで、
いろんなサイズで聴き比べたりしました。
岩田
スピーカーの口径が1ミリ違うと、
聴こえ方も劇的に違ってくるんですよね。
近藤
そうなんです。
それに、オーケストラの音がキレイに聴こえるように、
といった調整も行っていました。
岩田
ああ、そうなんですか。
オーケストラサウンドを聴くことも想定して、
スピーカーを選んだり、アンプの調整も行ったんですね。
近藤
あと、サラウンドもキレイに聴こえるように、
3DSには特別なプログラムを入れています。
横田
だから、スピーカーは本体に付いてるのに、
耳の周りから聴こえてくるんですよね。
岩田
あの拡がる感じを一度聴くと、
なくなったらさみしくなるくらいですよね。
横田
ですよね。
たとえば『時のオカリナ 3D』のロンロン牧場では
たくさんのコッコが飼われていて、
3羽のスーパーコッコを捕まえる
「コッコ当てゲーム」というミニゲームがありますけど、
あのミニゲームを遊ぶとき、サラウンドでやると、
いろんな方向から「コケコケ」と聴こえてくるので、
効果バツグンなんです。
岩田
だから、スピーカーから音を出して
ぜひサラウンドでお楽しみください、
ということですね。
横田
はい。できれば音量も大きくして楽しんでほしいですね。
岩田
ちなみに、横田さんが
これほどまでに『時のオカリナ』について熱く語れるのは、
サウンドがいいから、という理由だけではないんですよね。
横田
もちろんそうです。
岩田
世間には「『時のオカリナ』は特別」と
言ってくださるファンの方も多いんですけど、
なぜ、『時のオカリナ』に対して
それほどの愛を感じていただけるんでしょうか?
ファン代表の横田さん、どうですか?
横田
言ってもいいんでしょうか?
岩田
はい、お願いします。
横田
そもそも『時のオカリナ』が出るまでは、
2Dの『ゼルダ』だったんです。
それを3Dにつくりかえるということを任天堂が発表したときに、
わたしはめちゃめちゃガッカリしたんです。
岩田
『時のオカリナ』が出る前は
上から見下ろす『ゼルダ』が当たり前でしたからね。
横田
そうなんです。なので、
「あんなに面白かったゲームを、どうして?」と。
自分としては『ゼルダ』ブランドを壊されるような
そんな衝撃を受けたんです。
でも、任天堂ファンとしては、買わないで
文句だけを言うのは卑怯だと思いましたので、
「まあ、買いますよ」と。
岩田
とりあえず触ってみようということですね。
横田
はい。それに宮本茂さんがつくった
最新作の『ゼルダ』なわけですから、
「まあ、見るだけ見ますよ」みたいな、
すごく上から目線ですけど(笑)。
岩田
はい(笑)。
横田
で、買って、やってみたら・・・
(うれしそうに)ジャンプしなくていいんですよ、これが。
岩田
オートジャンプですね。
横田
ボタンを押さなくてもジャンプができて、
しかもZ注目(※12)で自分の攻撃がちゃんと
敵に当たるんですよ。
岩田
そうでしたね(笑)。
横田
「これ、3Dなのに、2Dみたいに遊べる!」
というのが、最初のステージのコキリの森でわかって、
そこからはもう何も言えなくなりました。
「これは自分の想像を超えた3Dのゲームだ」と・・・。
まあ、そんなわけで、3Dアクションゲームへの偏見は
初めの5分くらいで、一気に解消されました。
さらにこのゲーム、やめ時がないじゃないですか。
やればやるほど、次から次にお題がふってきて、
これがまた、自分に対する挑戦的なお題なんですよね。
しかも、ダンジョンのなかの
ひとつひとつの謎解きがすごくつくりこまれていて、
人に話したくなるようなネタばっかりだったんです。
「おれはクリアできたけど、お前は?」みたいに、
自分だけが解けたように思えたりしました。
岩田
『ゼルダ』の謎が解けたときの音がすると、
「おれって、なんて頭がいいんだろう!」と思うじゃないですか。
横田
ええ(笑)。
岩田
「世界中で気がついたのは、おれだけ!?」とか。
まあ、そんなこと、あるわけないんですけどね(笑)。
横田
ですよね(笑)。
あと、最後まで遊んでみたら、
ものすごいボリューム感のあるゲームで、
いろんな場所に行って、世界を見渡すのも楽しくて。
岩田
高いところから下を見て、
足がぞわっとしたのは、
『時のオカリナ』が初めてだったように思います。
横田
高いところから見るとゾクゾクするんですよね。
そこは今回の3DSでも、ぜひ見てほしい部分です。
カカリコ村でハシゴをのぼったところに高台があるんですけど、
そこから見下ろす景色はすごくいいです。
岩田
もともと『時のオカリナ』には
絶景ポイントがたくさんありましたけど、
3DSならではの、立体視でそこの部分も楽しめそうですね。
横田
そう思います。
岩田
ですから、今回の横田さんは
ゲームを長く遊んでいる人たちにとって、
すごく特殊な存在である『時のオカリナ』というものが、
「いまの技術でつくりなおされたら、どう変わるか」ということを、
サウンドの面から参加できたということなんですね。
横田
本当においしい仕事でした。
岩田
(笑)
横田
もちろん仕事なので大変なんですけど。
たとえば、人がつくったゲームを見て
「ああ、ここのサウンドは
もう少し、こうしてほしかったんだけどなあ」
と思うところを、今回は自分でこだわって
精一杯やることができましたので、とても満足です。
岩田
近藤さん、いまの横田さんの熱い語りを聞いていて、
つくった立場から見ると、どう感じますか?
近藤
まあ、かんたんにそのまんま移植できると思ったら、
そんなにかんたんにはいかないということなんですよね。
ただ、横田さんのように
ゲームに対して、深い思い入れがないと、
あそこまで調整したいとは思わないんですよ。
岩田
そういう意味では、いい人に当たったんですね。
近藤
そう思います。
横田
そんな・・・。
ああ、今日は来てよかったです(笑)。
一同
(笑)