3. 森からオカリナが聴こえてくるように
岩田
ハイラル平原の曲をインタラクティブにする以外に、
横田さんが『時のオカリナ』を3DSで再現するにあたって、
どんなところで難しさを感じましたか?
横田
そもそも、据置機であるNINTENDO64の音を、
携帯機のニンテンドー3DSで再現するというのは、
とても難しいことなんです。
岩田
ハードが違うので同じ音にならないということですよね。
横田
そう、ならないんです。いままでわたしは
リメイクのゲームをつくることはあったんですけど、
とくに今回は「これはえらい作業だな・・・」と思いました。
岩田
それはたとえば、どんなところが?
横田
印象的な音色の再現です。
岩田
印象的な音色・・・ですか。
横田
たとえば「森の神殿」の曲がありますけど、
「ホヘッホヘッホヘッホヘッ」みたいな、
とても奇妙な声が聴こえるんです。
岩田
はいはい。
横田
自分としては、その特徴的な声を
できるだけ再現しようと思ったのですが、
やっぱりN64とは同じ音にはなかなかならないんです。
そこで、3DS用のスピーカーに合わせて
何度もチューンナップしまして、
最終的には、イメージに近い曲にしていきました。
近藤
そうですね。
あの曲の再現度はすごく高いです。
ただ、若干いい音になってるかなと思いますけど。
横田
そうです。音質はちょっとあげてます。
岩田
では、近藤さんも太鼓判ですか?(笑)
近藤
はい(笑)。
横田
よかった(笑)。
でも、近藤さんから注文を受けた曲もあったんです。
たとえば
「タイトルBGM」の曲をつくったときは、
「もっと調整してほしい」と言われました。
岩田
「タイトルBGM」というのは、
エポナに乗ったリンクがハイラル平原を駆け回る、
いちばん最初の映像で流れる曲ですよね。
横田
はい。そこで流れるのは、
オカリナのメロディとピアノ、そしてストリングスの
すごくしっとりした曲なんですけど、
近藤さんに聴いてもらったら、
「オカリナの音量が大きいな・・・」と言われたんです。
自分としては、オリジナルを忠実に再現したつもりなのに、
「あれ? 何が違うんだろう」と思ったんです。
そこで、繰り返し聴いてもらうと、
「あ、リバーブがないんや」とおっしゃられたんです。
近藤
うん、そうだったね。
横田
リバーブというのは、
たとえばコンサートホールで感じられるような
残響効果を出すエフェクトのことなんですけど、
『時のオカリナ 3D』には、それを入れていなかったせいで、
オカリナの音がすごく立って聴こえちゃってたんです。
岩田
だから、オカリナの音が
ハッキリ聴こえすぎちゃったんですね。
横田
ええ。
近藤
僕のイメージでは、どこか遠くのほうから聴こえてくる感じなんです。
姿は見えないけど、誰かが森のなかでオカリナを演奏しているみたいな、
そういう雰囲気を「タイトルBGM」で出したいと思ったんです。
で、横田さんがつくった曲を聴いてみると、
音符の長さとかは、忠実に再現してくれていたんですけど、
どこからともなくオカリナの音色が聴こえてくる表現が
できていなかったんです。
横田
そうなんですよね・・・。
で、そのときもじつは諦めかけたんです。
というのも、3DSでリバーブの処理をかけようとすると、
ゲームが重くなって、ちゃんと動かなくなってしまう
恐れがあったんですね。
岩田
そのくらい負荷がかかる処理なんですか。
横田
ええ。でも、近藤さんからは
「N64版の音を忠実に再現するように」
というお題が与えられていましたので、
なんとか森のなかから聴こえてくる感じを出しました。
それに、最初にお話しした、ハイラル平原の曲を
インタラクティブにすることになりましたので、
CPUのサウンドへの割り当てを、ふだんのゲームよりも
大幅に増やしてもらうようにしました。
岩田
つまり、どの3DSソフトよりも、最も贅沢に、
サウンドのためだけにCPUを使うことにしたんですね。
横田
そうです。たぶん最も
サウンド負荷の大きいゲームになったと思います。
現時点では、3DSの性能を
限界まで活かすことができていて、
パワーもめちゃめちゃ使っていますので、
ハイラル平原の曲もシーンに応じて
シームレスに切り替えできるようになりましたし、
「タイトルBGM」の曲でも、
森のほうからオカリナの音色が聴こえてくる感じも
表現できたんじゃないかと思っています。
近藤
そうですね。
横田
それに、N64版の音を忠実に再現するには、
N64のロムカセットのように、
テンポ感を出すことがすごく大事だと思うんです。
たとえば、黄金のスタルチュラを集める遊びがありますよね。
岩田
フィールド内に隠れているクモを
100匹集める遊びですね。
横田
ええ。暗いところに隠れている
黄金のスタルチュラを見つけて、
フックショットでやっつけると「しるし」が現れますので、
それをフックショットで引き寄せて取るまでの
サウンドの流れが、とても心地いいんです。
「しゅるしゅるしゅる、ずしゅっ! しゅるしゅるしゅる」となって、
最後にファンファーレ、というテンポがとてもよくって・・・。
近藤
ただ、うまく調整できないと、
テンポがズレてくるんですよね。
横田
そうなんです。
再生するタイミングがちょっとズレたりするので。
というのも、NINTENDO64と3DSでは
1秒間に表示できる絵の数・・・
つまりフレームレートが違っていますから。
岩田
NINTENDO64のときは、
1秒間に20枚くらいの絵を描いていたんですが、
3DSではフレームレートが上がって
1秒間に30枚描いていますからね。
横田
ええ。そのために、
効果音や音のタイミングがズレちゃうんです。
フレームレートがズレると、音の処理もズレるので、
そこも1個、1個、納得いくまで調整しました。
岩田
そうしたことで、
かつてN64版を遊んだ人も、違和感なく
自然に遊べるようになったということですね。
横田
そうなったと思います。
そのことで、すごく印象的なことがありまして・・・。
年明けに開かれたニンテンドー3DS体験会(※11)に
わたしも行きまして。
岩田
横田さんはステージで演奏されましたよね。
横田
はい。『ゼルダ』の曲をピアノで弾きました。
で、会場では『時のオカリナ 3D』も出展したんですけど、
体験したお客さんの感想を、あとから見せてもらったんです。
そしたら「曲がN64版と同じでうれしい!」
と書いてくださった方がいて・・・。
岩田
N64版と変わらないサウンドが
3DSでそのまま再現されているのが、
ファンの方にはうれしかったんでしょうね。
遊んだ当時のことを思い出したりしますし。
横田
そうなんです。
なので、そのコメントを読んで、
自分の励みにすごくなりました。
それに、いまの時代はエミュレーションのように
ゲームを移植する技術があって、
「同じなのは当たり前」と思われることがあります。
岩田
でも今回は、ひとつひとつ調整しながら、
N64版を3DSで再現しようと頑張って・・・。
横田
はい。だから、
「曲がN64版と同じだ」というコメントを読んだときは、
すごく報われた気持ちになりました。
そう思うと同時に、ヘタにアレンジしなくてよかったと。
岩田
ちゃぶ台を返されてよかったと?(笑)
横田
はい、そう思います、本当に(笑)。