岩田
第2部は「社内スタッフ篇」ということで、
第1部で話題に挙がった矢吹さんにも来てもらいました。
紺野さんにも引き続き同席してもらいます。
では、お隣の矢吹さんから自己紹介をお願いします。
矢吹
情報開発本部制作部の矢吹です。
『マリオカート7』のディレクターを担当しました。
白岩
同じく制作部の白岩です。
プログラムディレクターを担当しました。
永田
同じく制作部の永田です。
音楽を担当しました。
岩田
みなさん、今日はよろしくお願いします。
一同
よろしくお願いします。
岩田
まずはじめに、矢吹さん。
前回、レトロスタジオ(※1)のみなさんが、
「任天堂のスタッフたちと初顔合わせをしたとき、
矢吹さんの乾杯がすごく印象的だった」
という話をしていたんですが、
どんな話をしたのか、訊いてもいいですか?
矢吹
(首をかしげながら)
いや、正直・・・あまり記憶にないんですが(笑)。
でも、「レトロと情報開発は、1つのチームになります!」
ということを言った覚えはあります。
岩田
それが印象的だったんじゃないですか?
矢吹
そうなんですかね。
紺野
もしかすると、
矢吹さんの髪型にインパクトがあったんじゃないかな・・・?
というのは冗談で(笑)。
『マリオカート7』はどういうことを目指すゲームなのか、
矢吹さんがその場でプレゼンをしてくれたんですよ。
「『マリオカート』シリーズ(※2)は、
みんなでわいわい楽しむゲームなんです」ってところを
とくに強調して話していました。
一見、当たり前に思えることなんですけど、
「こういうコンセプトなんだ」って
きちんと最初に説明したんです。
そういうところが印象的だったんじゃないですかね。
岩田
ははあ、なるほど・・・。
矢吹さんは「『マリオカート』とは何ですか?」
と問われたら、どのように答えますか?
矢吹
“みんなでいっしょに遊ぶための、コミュニケーションのひとつ”
と答えます。
単なるゲームソフトというだけでなく、
日常のコミュニケーションのひとつになってほしいんです。
岩田
これは先日のニンテンドーダイレクト(※3)の
動画「社長が訊く」インタビューで、
紺野さんが『マリオカート』を“対戦コミュニケーションツール”
と言っていたんですが、それと共通していますね。
矢吹
はい。みんなが気持ちよく走れて、
誰でも1勝できる、3勝できる、優勝もできる・・・
そういうゲームにしておかなくちゃいけない。
そこが、ほかのゲームとは違うところかなと思います。
岩田
確かに、うまい人と下手な人がいっしょに遊んでも、
必ずうまい人が勝つわけじゃないのが
『マリオカート』なので、参加した人みんなが
それぞれの技量に合わせて楽しめなきゃいけないんですよね。
とはいえ、レースの結果は
アイテムの出方などの運・不運だけじゃなくて、
「自分がカートを走らせた結果」
と思えないといけないという、
そのバランス感覚が独特なゲームだと思いますね。
矢吹
そうなんです。
たとえ負けたとしても
「楽しかった!」と思える何かを
得られるようにしてきたつもりです。
岩田
今回はデザインの半分くらいを
レトロさんといっしょにつくってきましたが、
プログラマーの白岩さんや音楽担当の永田さんは、
それについてどのように思いましたか?
白岩
最初は少し心配したんです。
というのも、開発中にプログラマーとデザイナーは、
データを同時に変えなきゃいけないことがあって、
そこがかみ合わないと、作業が進められなくなるんです。
「データを直してほしい」とこちらが思ったとき、
レトロさんたちは寝ているわけで、
逆に向こうから質問があってもこっちは寝ています(笑)。
「本当に、いままでと同じサイクルでつくれるのか?」
と思っていました。
岩田
おたがい物理的に離れた場所にいて、
しかも、はじめていっしょに仕事をする相手で、
ともなれば、はじめは不安になりますよね。
白岩
でも、その点は向こうのエンジニアの方々が
しっかりサポートしてくれたんです。
プログラムやデータがおかしくなったときは
レトロさん側で作業がストップしないように
バックアップをしてくれたりとか。
いつもレトロさんと仕事をしている日本の任天堂スタッフにも、
データをどうやりとりすればいいのかを相談したりして、
結果的にはトラブルなく進めることができました。
岩田
レトロさんと仕事をしてみて
新鮮な発見はありましたか?
白岩
もちろん発見もあったんですけれど、
「僕たちもレトロさんもいっしょなんだな・・・」
と感じることが多かったです。
国や文化の異なるアメリカの方々なので、
もっと僕たちとは感覚が違うと思っていたんですが。
岩田
レトロさんは長年、
田邊(賢輔)さん(※4)たちと仕事をしてきたので、
任天堂が大事にしていることを
理解していただいているのも大きいでしょうね。
白岩
そうですね。『マリオカート』の面白い部分や、
残しておきたい部分をレトロの方々がわかっていて、
「こうしたい!」というレトロさんからの提案も
「ああ、なるほど」と思えるものでした。
岩田
永田さんは海の向こうでつくられたデータがやってきて、
どういう気持ちでしたか?
永田
レトロさんが考えたコースについては、
定期的に開いていたテレビ会議に参加させてもらって、
「ここはどういうつもりでつくったのか」
という共通認識を持つようにしていたんですが、
それがすごく役に立ちました。
紺野
『マリオカート』の場合、
サウンドコンポーザーは、デザイナーやプランナーと
コースのイメージや世界観を話し合いながら
作曲をすることが多いんです。
今回は、アメリカの方々との共同作業だったので、
大変だったと思います。
岩田
社内スタッフと違って、
気軽に席まで聞きに行けませんからね。
永田
あと、過去の『マリオカート』シリーズから
選りすぐりのコースを集めた「クラシックコース」ですが、
そこはプレイヤーとして、
BGMも昔のままのものを聞きたかったんです。
ですから、クラシックコースのBGMは
オリジナルの再現を第一に考えてつくりました。
コース自体もかつての雰囲気を大切にしつつ、
新しいものができたので、
そこが共感できてよかったなと思います。
岩田
いろいろと新鮮な感じがあったんじゃないですか?
永田
はい。いや・・・でも、
どちらかというとわたしも白岩さんと同じで・・・。
岩田
思っていたより同じ感覚だった、ということですか?
永田
そうなんです。
新しいコースを遊んだときに、
どんな曲にしようか考えてからミーティングに行くんですが、
たいてい自分の考えと同じようなことを言われるんです。
「あっ、同じことを考えているんだ・・・」
と安心しましたから(笑)。
岩田
紺野さん、このゲームを何の前情報もなく遊んだとき、
「じつははじめて日米合作でつくったんです」
ということに、誰も気づかないでしょうね。
紺野
そう思います。
本当にがっちり手を組んで作業をした感じですね。
たがいに制作したコースを遊ぶことで
いい刺激になったと思いますし、
本当によかったと思います。