1. キッカケは焼肉パーティー
※
この社長が訊くインタビューは通訳を介して行われたものですが、
全文を日本語にして掲載しています。
岩田
今日は『マリオカート7』の「社長が訊く」第1部として
アメリカのテキサス州オースティンにある
レトロスタジオ(※1)のみなさんと、
情報開発本部の方々にお集まりいただきました。
現在、ここ京都は朝ですが、アメリカは夜になります。
レトロのみなさん、遅い時間まで
おつき合いいただき、ありがとうございます。
今日はよろしくお願いします。
一同
よろしくお願いします。
岩田
じつは今回、『マリオカート7』の開発は、
レトロスタジオさんと共同で進めています。
今日は『マリオカート』シリーズ(※2)初の
インターナショナル開発がどのように行われたのか、
という話をお訊きしたいと思います。
ではまず、みなさんに自己紹介をお願いします。
紺野
情報開発本部制作部の紺野です。
『マリオカート7』のプロデューサーです。
森本
デザインディレクターを担当した、
情報開発本部制作部の森本です。
今作のグラフィック全体のまとめ役と、
実作業ではレトロさんと情報開発スタッフと共に
コース制作を行いました。
石川
キャラクターやカート関連の
リードデザイナーを担当した、
情報開発本部制作部の石川です。
キャラクターとカートのデザインのとりまとめを行い、
情報開発のスタッフと共にレトロさんとモデル制作や
アニメーション制作を行いました。
一条
情報開発本部制作部の一条です。
主にレトロさんとの連絡窓口や通訳を担当しました。
また、今回はプランニングも担当しました。
岩田
はい。次にレトロのみなさんからもお願いします。
ライアン
レトロのライアン・パウエルです。
地形デザインのリードデザイナーを担当しました。
主にコースデザインに関して、
森本さんとやりとりをさせていただきました。
ヴィンス
ヴィンス・ジョリーです。
レトロのアートディレクターとして、
コース、キャラクター、カートに
関するデザインを担当しました。
トム
トム・アイビーです。
コースデザインのリードプランナーとして、
情報開発のみなさんと共に
コースづくりを担当しました。
岩田
では、まず紺野さんから、
どうして『マリオカート7』が
日本から見たら地球のほぼ裏側にある
レトロさんと一緒につくることになったのか、
お話ししてもらえますか?
紺野
あ、はい。いきなりですね(笑)。わかりました。
えー、そもそも『マリオカート7』の企画は、
2010年のはじめに
『nintendogs + cats』(※3)と同時に立ち上げました。
先に『nintendogs + cats』の発売が予定されていましたので、
最初はそちらの制作に力を注ぎつつ、
『マリオカート7』は8名という少人数で制作進行していました。
ところが、いざ本格的に作業をはじめる段階で、
いろいろなタイトルが部内で動いてしまっていて
開発できるメンバーが足りない、
という問題が発生してしまったんです。
岩田
・・・正直な話をすると、
『ゼルダ』(※4)の制作を延長することにしたので
あてにしていた人が空かなくなったんですよね。
紺野
はい。正直に言うと、それも理由のひとつです(笑)。
企画開発部の高橋(伸也)さん(※5)や
同期の田邊(賢輔)さん(※6)に、
「田邊さんがおつき合いしている会社と
一緒につくれませんか?」と相談したところ、
ちょうどレトロさんが開発を担当していた
『ドンキーコング リターンズ』(※7)がおわる時期と
必要とするタイミングが合うということもあって、
今回、実現することになりました。
岩田
紺野さんは、ゲームキューブ時代、情報開発の中で
社外の方と仕事をした経験が2年半ほどあるんですよね。
紺野
はい。
岩田
『マリオカート』をつくるなら、
本当に力のあるチームにお願いしたいということで、
その問題については、わたしも加わって話し合いましたが、
いろいろな条件を考慮した結果、
レトロさんにお願いしよう、という結論になったんですよね。
紺野
そうです。
岩田
レトロさんとは物理的な距離は離れていますが、
『ドンキーコング リターンズ』という
任天堂の看板タイトルのひとつを預かってもらいましたし、
仕事のうえでも非常に近い距離にありましたからね。
ただ、レトロのみなさんにお訊きしますが、
「さぁ、次は『マリオカート』を・・・」
と言われてどう感じましたか?
「またハードな日々が待ってるのか・・・」
と思ったんじゃないですか?(笑)
トム
そうですね(笑)。
まあ、確かに『ドンキーコング リターンズ』がおわって
ようやくリラックスできると思ったら、
今回の話がきたので・・・面白かったです(笑)。
『マリオカート』は個人的にも
思い入れがあって、とても興奮したんですが、
一方で情報開発のみなさんとは初仕事になりますので、
若干の不安はありました。
でも、みなさんとお会いしてディナーに行ったとき、
矢吹(光佑)さん(※8)が非常に印象深い乾杯をなさって、
「ああ、大丈夫だ、この方々とやっていける・・・」
と確信できました。
紺野
その日、主なメンバーで焼肉を食べに行ったんです。
そのとき、矢吹さんとトムさんが同じテーブルで、
「あのコースはちょっと違うと思うんだけど・・・」
みたいな議論が
「さぁ焼肉を食べよう!」
というタイミングではじまってしまったので、
「おいおい、まず焼肉食えよ!」
って僕はツッコミたくなったんですが(笑)、
トムさんは本当に熱い方なんだなあと
そのとき感心しました。
トム
いやいや、お互いさまですよ(笑)。
岩田
ヴィンスさん、ライアンさんはいかがですか?
ヴィンス
わたしも初期のタイトルから
『マリオカート』の大ファンでしたので、
とても光栄な機会だと感じました。
とりあえず「早くはじめたい!」
という気持ちでウズウズしていました。
ライアン
わたしは、日本でみなさんにお会いしたとき、
彼らの高い意気込みを感じて、
モチベーションがすごく上がりました。
任天堂さんともこのようなコラボははじめてなので、
本当にすばらしい機会だなと感じました。
岩田
ありがとうございます。
では日本側のスタッフにもお訊きしますが、
「今度はレトロさんとつくるから」と聞いて
森本さんはどう感じました?
森本
はじめて聞いたときは
「またまた冗談を・・・」みたいな感じで、
信じられませんでした(笑)。
いままで僕は、国内の社外の方とは
仕事をしたことはあっても、
海外の会社と仕事をする経験はなかったものですから。
岩田
森本さんは今作で4作目ですか?
森本
そうです。
岩田
『マリオカート』4作目にして
いままでとはまったく違うつくり方を
要求されたわけですから、すごく戸惑ったでしょうね。
石川さんの印象はどうですか?
石川
あの・・・じつは本当に申し訳ないことに、
「レトロさんって・・・日本の会社・・・ですか??」
と動揺のあまり、聞き返してしまいました(笑)。
いままで情報開発内でつくってきたので、
最初は本当にできるのか不安がありました。
岩田
そうなんですよね。
そんなふうに不安でいっぱいでしたから、
誰か経験者がいたほうがいいだろうということで、
急きょ、田邊さんのチームから送り込まれたのが一条さんでした。
一条さんは最初にこの話を聞いたとき、どう思いました?
一条
僕はものすごくワクワクしました。
『マリオカート』が大好きでしたので、
かかわれることがうれしくて、まず興奮しました。
それにレトロさんとは
『ドンキーコング リターンズ』で
すでにおつき合いがあったので、
まったく不安はなかったです。
岩田
すると、いまから1年ちょっと前は、
人手が足りず海外の力を借りてがんばろうという紺野さんと、
海外の方との初仕事で不安いっぱいの森本さん、石川さんと、
ワクワクしながら入ってきた一条さんが、
チーム内で混ざり合いながらスタートしたわけですね。
紺野
はい、そうなります(笑)。