岩田
先ほど話題に出た、
通信機能についてお訊きしたいと思います。
今作は、ニンテンドー3DSに備わるすべての通信機能に対応していますが、
やはり対戦コミュニケーションツールとしての充実度が
格段にレベルアップしていますよね。
この通信のあり方や、対戦の仕様は
わりと最初から設計できていたんですか?
矢吹
いや、そうでもないですね。
岩田
では、つくりながらまとめていったんですか?
矢吹
たとえば、インターネット上で気軽に気の合う仲間と集える、
「コミュニティ」は、制作当初から思い描いていました。
一方、すれちがい通信やいつの間に通信(※8)のための
「マリオカートチャンネル」(※9)という場所は、
だいぶあとになってから考えたものでした。
岩田
コミュニティはフレンドコード(※10)を交換していない相手とも、
インターネット上で何度も対戦できるのが魅力ですよね。
コミュニティをつくろうと思った、
はじめのきっかけは何だったんですか?
矢吹
もともとは3DS本体で、
友だちと集まれるような仕組みを実現したかったんです。
ただ、時間的にきびしくて3DS本体には入らない、
という話になったとき、
「じゃあ『マリオカート』でやります」と
言ってしまって・・・。
そう言った手前、何か考えておかないといけないと思って
1枚の紙に大まかなプランを書いておきました。
白岩
そもそも『マリオカート』でフレンドになりたい理由って、
「その人と対戦したいから」ですよね。
一度インターネットで対戦した人と
「もう一度対戦したい」と思っても、
いままでの仕様ではフレンド登録をするしか方法はありませんでした。
そこから、「せかいのだれとでも」ほどの一期一会感がなく、
「フレンド」ほど登録するハードルが高くない、
もっとゆるく集えるところがほしい、
という意見が出てきたんです。
岩田
実際、ああいうコミュニティがつくられると、
開発中にも盛り上がったんじゃないですか?
白岩
そうなんです!
気軽に遊べるというのもありますが、
コミュニティの遊び方のひとつに、
“ルールに縛りを決められる”というのがあって。
それがものすごく盛り上がります(笑)。
岩田
自分たちで縛りを決められるんですか?
矢吹
アイテムの出方を制限できるんです。
バナナしか出ないレースとか・・・。
3周すると、そこらじゅうがバナナだらけになります(笑)。
いつもとまったく違う遊び方ができるんですね。
白岩
ちなみに、
ボムへいしか出ないルールでバトルを遊ぶとすごく熱いんです!
『マリオカート ダブルダッシュ!!』(※11)で
「ドッカン!ボムへい」というミニゲームがありましたが、
あれに負けないくらい面白いですよ。
テストプレイのときはプログラマーが集まって遊んでました。
岩田
このアイデアのよいところは、
すごく小さい仕様なのに、遊びが大きく変わることですね。
もともとルールに縛りのあるゲームはありましたが、
コミュニティと組み合わせることで
アイデアがかけ算になっている感じがします。
この仕様は、はじめから設計されていたんですか?
矢吹
最初のプランの段階で、
「こうらのみ」といったことも書いていました。
スケジュール的に厳しい、ということで、
「もう、やめようか・・・」
という話にもなったんですけど。
岩田
でもこの仕様は、入れる手間に対して、
リターンが大きい気がします。
遊びがガラッと変わりますからね。
すごく手間やコストがかかるわけではないけれど、
ゲームを面白くするアイデアがポンポン出てくるときは、
仕上がりの素晴らしさも加速していくと思うんです。
ところで、もうひとつ、
「マリオカートチャンネル」のアイデアは
どこから生まれたんですか?
Wiiの「マリオカートチャンネル」(※12)とは
似て非なるものですよね。
矢吹
わたしは一時期、
『nintendogs + cats』(※13)の制作にも参加していて。
岩田
はいはい。
わたしも矢吹さんが『nintendogs + cats』を手伝っていると聞いたとき、
「『マリオカート』は大丈夫なんですか?」
という話を紺野さんとしたのを覚えています(笑)。
矢吹
でもそのとき、
「3DSのすれちがい通信って、こうなってるのか・・・!」
と、逆にいい勉強になったんです。
岩田
ああー、なるほど。
これも「ピンチはチャンス」ということのひとつですね。
矢吹
そう思います。
それから、すれちがい通信をしたあとに、
どうやってそれを確認できれば
お客さんの次の遊びにつながるだろう?
と考えていました。
岩田
そうなんですよね。
きちんと“気づく→うれしい→遊びが生まれる”
というサイクルがないといけないですからね。
せっかくすれちがいをしていても、
それに気づかれなければ放置されたままだし、
気づいても、それが遊びにつながらなかったり、
うれしくなかったりすると、
「すれちがいに行こう」という動機にならないですし。
矢吹
『nintendogs + cats』の中に、
「手帳」(※14)という、
すれちがい通信を確認する場所があるんですが、
それが「マリオカートチャンネル」のもとになっています。
岩田
ああ、そうだったんですね。
これまで頭の中でバラバラに存在していたので、
まったく気づいていませんでした。
矢吹
気軽にいつでも見ることができて、
ときどき、ちょっとのぞいてみると、
新しい情報が届いていることに気がつく・・・
そういう場所になっていると思います。
紺野
すれちがい通信に関しては、
普通に考えて出てくるアイデアでは、
『マリオカート』ならではの特徴にならないと思って、
何度も議論を重ねてもらいました。
岩田
最終的に実現したものは、
「おっ!」っていう驚きが感じられるものになりましたよね。
“通信で受け取った
ゴースト7人と一度に対戦できる”
というような新しい仕様はどうやって生まれたんですか?
矢吹
誰かとすれちがうたびに、ゴーストと1体ずつ戦うのは
さすがに面倒だろうと思っていました。
じゃあまとめて戦えるようにしたらどうか?
と考えたのがはじまりです。
岩田
はあー・・・それは発想の転換ですね。
見た目にも新鮮だと思います。
“すれちがった人のMiiが自分のレースに乱入してきて、
その人のクセに合わせた動きをする”
についてはどうですか?
矢吹
プレイヤー、ひとりひとりのクセを見ようというのは、
当初から考えていたんですが、
それをすれちがい通信で使えないだろうか?
と思ったんです。
岩田
ただ、それぞれすれちがった相手のクセをとらえて動かすのは、
かなりのチャレンジだったんじゃないですか?
プログラマーの白岩さん、その辺りはどうでしたか?
白岩
確かに100種類も微妙な差をつけろと言われたら
難しかったと思うんですけれど、
今回は「称号」という形で、
「バナナをたくさん使う」とか、
「こうらをたくさん投げてくる」
などの走り方の特徴をとらえるという形でしたので、
なんとか実現することができました。
クセのとらえ方は、わりといい調整に
まとめられたかなと思います。
僕はいつもバナナを上手に置くんですけれど、
「白岩くんはいつも『バナナ名人』だなあ」
と紺野さんに言われるんです。
岩田
バナナ名人ですか!?(笑)
紺野
そう、いつも称号が「バナナ名人」なんです(笑)。
白岩
そう言われると、
意地でもバナナ名人らしい置き方をしたくなります(笑)。
岩田
インターネット対戦も、
今回は以前すれちがった人がオンラインのときに
その場に合流することができたり、
最大8人で対戦できるようになったり、
いろいろなチャレンジがありますよね。
そのアイデアはどこから生まれたんですか?
白岩
僕、ふだん紺野さんといっしょに、
インターネットで対戦ゲームをやっているんです。
岩田
プライベートで、ですか?
紺野
そうですね。
まぁ、研究と言いつつ・・・(笑)。
岩田
家で遊ぶわけですね。
白岩
はい(笑)。
それで遊んでいるときに、対戦している人たちは
どういう機能があったらうれしいのか?
ということを常に話していたんです。
合流機能自体は『マリオカートWii』でもありましたが、
あれは『マリオカートWii』を遊んでいる人が合流できる。
つまり、『マリオカート』を起動していないと、
友だちがいまオンラインなのかどうかがわからないんです。
その部分をなんとかしたい、と思っていて。
岩田
今回は、友だちがどのソフトで遊んでいるかわかるし、
そこから合流もできますよね。
白岩
それがつくり手として理想としていたところでもあり、
プレイヤーとして僕が使いたかったものでもあるんです。
僕は『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※15)をやりながら、
「『マリオカートWii』の友だちを待ちたいんです」
といつも言っていましたから。
『マリオカートWii』をじっと見て待っているのは・・・
岩田
ちょっと寂しいですね(笑)。
矢吹
今回の制作では「友だちといっしょに遊べること」が、
もっとも大切だと考えていたんです。
だから、それに関するものはどんどんよくしようとしました。
岩田
そこは最初から優先することを決めていたんですね。
矢吹
はい、『マリオカート』は、
そうやってつくられてきたと思うんです。
初代から、ふたりで遊べるように2画面構成にしていましたし、
次は4画面、8人対戦、そしてインターネットと、
そういう思いがつづいてきたシリーズだと思います。