3. 「序盤は神。だけど後半は・・・」
岩田
ゲームの中身についてお訊きしたいんですが、
あの個性ゆたかなキャラクターや
海を舞台にした世界というのは、
どのように生まれていったんですか?
青沼
まず「海を舞台にしよう」という話は、
わりと早い段階で、ほぼ迷いなく決まりました。
ゲームのシステム的に海の構造を使った
世界の仕掛けができることと、
何よりあの画のタッチで海を表現すれば
おもしろいものができると考えたんですね。
「じゃあ、そこに浮かぶ島々はどんなもので、
そこに暮らしている人たちはどんな人たちか」
と、みんなが想像をどんどんふくらませていく
流れがうまくできていた気がします。
岩田
『風のタクト』は『ゼルダ』の中でもとくに
見たことがない
個性的な人たちが
たくさん出てきますよね。
滝澤
あれは当時、プランニングスタッフと、
春花さんをはじめとするキャラクター制作チームとの
“かぶせ合い”がすごかった記憶はありますね。
青沼
春花さんは『時のオカリナ』の時から、
ちょっとアクの強いキャラクターを、
どんどん提案してくる感じだったんですけど、
『風のタクト』ではよりパワーアップして、
リミッターが外れたかのような感じで(笑)。
岩田
なんか、そのアクの成分が煮詰まって、
濃密になったものが『風のタクト』の世界全体を構築し、
醸し出している気がするんです。
有本
それはやっぱり、あの画の力ですよね。
アニメ的なデフォルメになったことで、
どんなに頭がでかくても、足が短くても
違和感が出るどころか「印象的でいいよね」って
許せてしまう力があるというか。
青沼
そうですね。
キャラクターが本当に表情ゆたかで。
岩田
そう、表情がとにかく豊富で印象的なんです。
実際のところリアルを目指すほどに、
表情を見せるということに関しては
現実との違和感が出てしまうものなんですけど、
あの画なら、それを気にせずに、
いろんな表情やしぐさが表現できますしね。
青沼
そうですね。『時のオカリナ』までは、
たとえば口の動きひとつにしても
表現としてむずかしい部分があったので、
そこは『風のタクト』ではかなりこだわっています。
滝澤
せっかくあそこまで目が大きくなったんだから、
目や口の動きのパターンを増やして
表情ゆたかに見せたかったんですよね。
途中「目からビームを出したら?」なんて
話までありましたけれど(笑)。
岩田
えっ、「目からビーム」ですか!?
滝澤
宮本(茂)さんや手塚(卓志)(※17)さんに、
「だからこんなに目が大きかったのか、と
ゲームの中で納得する要素がほしい」
と言われたんですね。
さすがにビームはないと思いますけれど。
有本
それで、止まっていると
キョロキョロあちこち見るようにして
目を動かすようにして。
青沼
そう、そう。
「リンクの目線がヒントになる」というのは、
そこから生まれたアイデアなんです。
あとから『時のオカリナ 3D』などでも採用していますが、
最初に入ったのは『風のタクト』からなんです。
岩田
あれは、そんなきっかけがあったんですね。
青沼
それまでの『ゼルダ』では、
自分がリンクになりきって遊んでもらおうと
意識して抑えていた部分があったんですね。
そこが『風のタクト』では、
リンクというキャラクターを自分で操作しつつも、
客観的に見て、インタラクティブに楽しむ感覚に
変わっているところはありますね。
感情移入のしかたがそれまでの『ゼルダ』とは
ちょっとちがっていて、じわじわと
一緒に過ごすほど愛着がわいてくるんです。
岩田
まさに、当時のキャッチコピーにあった
「さわれるアニメーション」ですよね。
開発がはじまってからは、迷いなく
最後まで一直線に走りきった感じでしたか?
青沼
「まったく新しい『ゼルダ』をつくりたい」
という思いに、迷いはありませんでした。
ただもちろん、発表した際の
ネガティブな反応も認識していましたし、
不安に思うことはありました。
でも発表したからには、中途半端に恐れながら
やることがいちばんよくないわけで、
「とことんやって、認めてもらおう」と
覚悟して突き進んでいった気がします。
岩田
岩本さんは『風のタクト』の開発当時、
その様子を外からどんなふうに見ていました?
岩本
僕はそれほど間近で見てはいないんですが、
実際にゲームを買ってプレイして、
アニメーションがすごく生き生きしていて、
本当におどろきました。
ただ画以外のところでは、
気になるところがいくつかあったので・・・。
青沼
岩本さんからはけっこう
厳しい意見を言われましたね。
でも、そんなふうにちゃんと見てくれる人なので、
今回ディレクターをお願いしたんです。
岩田
そこに関してちょっと踏み込んで言うと、
当時『風のタクト』は
「序盤は神。だけど後半は根気がないとしんどい」
というような話を言われていましたよね。
もちろん、あの世界はすごく居心地がいいし、
「最後まで楽しめました」と言ってくださる方も
多くいらっしゃいますが、
あの言葉は当時『風のタクト』を遊んだ方の
代表的な評価を言い表していると思うんです。
岩本
自分は完全にお客さん目線なので、
さわっていて「惜しいなぁ~」と思ったり、
「これができればもっといいのに」という点が
気がつきやすかったんですね。
それに今回、あらためてゲームをプレイし直して
「いま風にするならここは変えるべきだ」
というところもいくつかあって。
岩田
まあ、時代が変わっているという
ところもありますよね。
岩本
そうですね。ですから今回は
そういった点をリストアップしたり、
つくったスタッフたちの意見を聞いて、
最終的に調整する項目を決めていきました。
青沼
そうやって直してみると、
やっぱり劇的によくなるわけです。
「なんであの時、こうしなかったんだ?」
と思うくらい変わるところもあって。
岩田
宮本さんがよく
「ゲームは2度つくるとよくなる」って
言っていますけど、その言葉を
かみしめるような話ですね。
まあ「普通は2度つくれないんですよ」って
わたしは言うんですけど(笑)。
青沼
本当にそうです。
岩本
2度つくるところまで行かなくても、
最後ゴールにかけこむときに、
振り返る余裕があれば、
気がついたこともあると思うんですけどね。
青沼
わかります・・・!
いや、それはそのとおりなんだけど、
走っている状態で振り返ることって
ある意味で絶対不可能だとも、思うんです。
岩本
それもわかります(笑)。
岩田
もちろん、あのときベストを
尽くしてないとはまったく思っていませんし、
実際、スタッフの情念ともいえる
おびただしいエネルギーとアイデアが
注ぎ込まれている作品だとやっぱり思いますよ。
そうでなければ今回HDに
リメイクしようという話も出ないわけで。
青沼
そこはやっぱり、
11年経ったからはじめて
振り返れることでもあるんですよね。
滝澤
こんなふうに冷静な目で
もう一回つくり直せる機会って、
普通はないですからね。
一同
(声をそろえて)ないですね。
岩田
今回は「それができた」っていうことですね。
青沼
その「前半が神で、後半が・・・」っていうことも、
ずーっと「痛いなぁ」と思いながら、
生きてきてるじゃないですか。
だからたとえば5年前だったら、機会があっても
まだやる気にはなれなかったかもしれないです。