岩田
大々的に発表されたネコ目リンクに対して、
ファンの間では賛否両論の議論が
発売まで続いていた印象があるのですが、
発売されたあとの反応としては、
つくり手としてどんな印象を持っていましたか?
青沼
当時はいまのようにネットの反響が
直接見られる環境があまりなかったんですが、
発売後もやっぱりあの画のタッチの
好き嫌いがまずありきで、そこを超えて
自分たちの届けたい『ゼルダ』が
ちゃんと届けられたかというと、
そこまで到達できなかった印象がありました。
これは、いろんな人から話を聞いたうえで、
僕がなんとなく思っているところではありますが。
岩田
まず「画の好き嫌い」で分かれてしまった印象ですか?
青沼
そうですね。これは数年前の話なんですけど
ある日うちの妻から
「友達から、ゲームキューブの『風のタクト』が
すごく画がきれいって聞いたんだけど、
家にあったらやってみたい」
って言われたんです。
岩田
へえ、ちょっと出来過ぎた話ですけど(笑)、
青沼さんが『風のタクト』をつくっていたことを
奥さんは知ってたんですか?
青沼
僕がつくったことは知っていましたけど、
『風のタクト』を発売した当時は、
あまり興味はなかったみたいなんですね。
岩田
奥さんは普段からゲームをする方だったんですか?
青沼
『トワイライトプリンセス』(※11)あたりから
僕のつくったゲームは遊ぶようになりましたが、
その前は子供が小さかったこともあって、
あまりゲームは遊んでなかったんです。
岩田
滝澤さんは、どんな印象でした?
滝澤
僕も青沼さんと似た話になっちゃうんですけど、
うちの妻はまったくゲームをしない人なんですね。
その妻が、当時流れたCMを見て「おもしろそう」って
言ってくれたんですよ。そして、
「でもわたしはゲームができないから、残念」
っていうことを、はじめて言ったんですね。
岩田
あぁ、あの画から
伝わるものがあったんですね。
滝澤
そうだと思います。普段ゲームをしない人に
「遊びたい」と思われる画づくりが
できたわけで、そこは素直にうれしかったです。
青沼
たぶん当時はまだ「ゲームはむずかしい」という
イメージがあったんですよね。
コントローラーにどんどんボタンが増えていったし。
岩田
あの頃が、いちばんそのイメージが
高まった時期だったかもしれませんね。
より豪華に、よりリアルに、という路線に
多くの人が興奮していた時代でしたから、
どうやったらゲームを遊ぶ人たちの
人口を拡げていけるのか、
ゲーム業界としてまだ提案がなかった時代でした。
『風のタクト』はそんな時代に
発売された商品でしたから。
青沼・滝澤
そうですね。
岩田
わたしもやっぱり、あの頃を思い出すと、
「こんなにキャラクターが表情ゆたかに動いて
アニメを自分で操作しているみたいですごい」
と言って喜んでくださる方と、
「キャラクターをこんなにかわいくしたら
子供向けになってしまうじゃないか」
という抵抗感を持たれた方との
真っ二つに割れていた気がしているんです。
青沼
そうですね。ある意味きれいに分かれていました。
岩田
ところがその後、年月が経っていくと、
「ネコ目リンク=子供っぽい」という見方が薄れ、
「わたしはネコ目リンクが好き」という人が
市民権を得てきた感じがするんですね。
ちょっと、言い過ぎですか?(笑)
青沼
いや、それはありますね。
岩田
実際『風のタクト』の世界の表現をつぶさに見ると、
「よくぞここまで・・・!」とおどろくほど
アニメ調の世界ならではのリアリティーが追求されて
多くの発明が盛り込まれていますよね。
でもそれは、わたしが任天堂の社長で、
「魅力をわかろう」として見ているから
それに気づくわけで(笑)。
青沼
まず「さわるのに抵抗がある」というところで
はっきり分かれていたんですよね。
岩田
でもそこが最近は、変わってきたと思うんです。
青沼
“ゼルダ・サイクル”というのがあるんですよね。
岩田
はい。ゼルダ・サイクルというのは、
『ゼルダ』の海外版移植で毎回活躍される
NOAのビル・トリネン(※12)さんが
言っている言葉なんですけれど。
青沼
「『ゼルダ』は時が経つほど、
ネガティブな意見がポジティブに変わる」と。
僕も最初は「ほんとかな?」って
思っていたんですけれども
『風のタクト HD』の反響を見ていると
「合っているのかもしれない」と思いましたね。
岩田
しかも『風のタクト』に限らないんですよね。
『ゼルダ』は新作が発売されるたびに
ネガティブな意見も少なくないのですが、
1、2年経つとその意見を見直す声が増えて、
評価が高まっていくというのが、
ビルさんの分析なんだそうです。
青沼
北米のファンの『風のタクト』の反応が
まさにそうみたいなんですよね。
2001年のオリジナル版の発表当初は
反対意見が大多数を占めていたはずなんですが、
はじめてWii U版の情報を公開した
1月のニンテンドーダイレクト(※13)での反応はすごくよかったですし、
今年のE3(※14)と同時に行われたベスト・バイの体験会(※15)では、
1台しかない『風のタクト HD』の試遊台を
「どうしても遊びたい」と言って
並んでくださった方が多かった、と聞いています。
岩田
そこに、あえて呪縛のように言いますけど、
ゲームキューブはハードを
最大限に普及させることができなかった。
だから「おもしろそう」とは思ってもらえても、
ハードを買わずに様子見していた方も
かなりいらっしゃったと思うんです。
青沼
あと言えるのは、『ゼルダ』は
『風のタクト』でいろんなものを
ひっくり返してるわけですけど、
じつはこのあともまた
ひっくり返し続けているわけですよね。
『風のタクト』から『トワイライトプリンセス』で
シリアスで写実的な路線になったあと、
『スカイウォードソード』では
ハーフ・トゥーンの絵画調にしましたし。
新作が出るたび、変わり続けているんです。
岩田
そういう意味では、わたしは最近『風のタクト』を
評価いただける論調が高まってきた背景には、
『トワイライトプリンセス』も
『スカイウォードソード』も見たうえで、
「『風のタクト』ならではの魅力がたしかにあった」と
実感されている方が増えたのではないかと思っています。
青沼
そうかもしれません。
岩田
ネコ目リンク自体もその後
携帯機で定着しているわけですから、
あのキャラクターをいとおしく思う人も、
だんだん増えているわけで。
岩本
僕が『夢幻の砂時計』をつくったときは、
「なんだ、ネコ目リンクか」という声も
たしかにあったんですけど、『大地の汽笛』(※16)では
それがすっかりなくなった感はありますね。
青沼
DSで『ゼルダ』をつくっていく過程で、
「見た目は変わっても、やっぱり『ゼルダ』だ」
というのがわかってもらえたところが
あると思うんですね。
岩田
あとさすがに11年も経つと、
あらためて新鮮な感覚で受け止めてもらえる
十分すぎる期間ではありますよね。
2年前の長編ゲームを「リメイクしました」と言われても
いくらおもしろくてもよほどのことがない限り
また遊ぶ気にはなれないと思うんですが、
11年経っていると、0とは言わないまでも
新たな気持ちで楽しめるわけで。
青沼
そうですね、そういう意味では、
ゲームをあらためてプレイすると、
つくった僕らもけっこう忘れてるんです。
「あれ、こんなだったっけ?」って言いながら、
遊ぶ側のような感覚になるというか。
岩田
謎解きでつまったりするんですよね。
自分でつくったゲームなのに(笑)。
滝澤
そうなんです。だからいつもそばに
攻略本が置いてありましたね。
開発者が攻略本を見ながら、
つくったゲームをプレイするという・・・。
一同
(笑)