岩田
では岩崎さん、アイテムの話をしましょうか。
岩崎
はい。
岩田
『ゼルダ』におけるアイテムづくりというのは、
それを任せられた人は何を考えてつくるんですか?
岩崎
アイテムにもいろいろあるんですけど、
まずはどこでつくられたかを考えるようにしています。
岩田
アイテムの生産地を考えるんですね。
岩崎
そうです。「スカイロフト」で生まれたアイテムは、
そこに住んでる人がデザインし、
そこに住んでいる人がつくったものなんです。
岩田
空中にある「スカイロフト」は
地上の世界と隔絶されてるわけですからね。
岩崎
そうです。
なので、そこからいろいろ妄想してみるんです。
「スカイロフト」はけっこう素朴な土地ですので、
すごく細かい模様だとか、ゴージャスなデザインではなく、
きっとシンプルなデザインをするはずなんです。
しかも、モチーフにするのは、
たぶん雲とか鳥のように、身近なものだろうと・・・。
岩田
スカイロフトの人になったつもりで
妄想し、デザインをする・・・。
岩崎
はい。なので、いろんなものに
鳥の絵が描いてあるのはもちろんのこと、
羽根だとか、鳥の足跡だとか、風であったりとか、
そういうものをたぶん模様にするんだろうな、と思って
盾にも、そういうモチーフを入れたりしました。
岩田
岩崎
そうです。で、そのように
素朴なデザインをする人たちがいる一方で、
今回は女神さまがつくったアイテムだとか、
昔に栄えていた古代文明がありますので、
それらは不思議な金属であったりとか、
あとはよくわからないツルッとした
不思議な素材でつくられたものを考えました。
岩田
だから、生産された土地や
その背景にある文化を意識しながらデザインするので、
それぞれに個性が立つものになるんですね。
岩崎
そうです。ひと目でそれがどこでつくられたのか
わかるといいなと思ってデザインしました。
久田
わたしは、「スカイロフト」の地形を担当しましたけど、
1軒の家をつくるだけでも、それが木でできているのか、
それともレンガづくりなのか、というところでまず悩むんです。
岩田
そこで、妄想をはじめるんですね。
久田
はい。空に浮いている土地なので
そこに木がたくさん生えてるというのもおかしいですし、
そもそも風が強いでしょうから
高木が育ちにくいはずなんです。
すると、木は彼らにとってはすごく贅沢品になっていて、
建築資材としては、潤沢には使えないと。
そこで、「やっぱり土づくりかなあ」と、
デザイナー間でいろいろ妄想して。
岩田
建物の素材まで考えるんですね。
久田
そうです。
岩田
なるほど。
そのデザインがとても自然に感じられるよう、
ゲームには出てこないところでも
いろいろ考え抜かれているということなんですね。
久田
はい。
岩田
デザインといえば、
そもそも、今回の絵柄そのものが
とても新しいチャレンジですよね。
久田
そうですね。
岩田
いわゆる、コンピューターグラフィックスの
ツルンとしたフォトリアリズムの世界でもないですし、
『風のタクト』のようにトゥーンレンダリング(※13)の世界でもなく、
「今回は新しいデザインの方向をつくろう」という
強い意志のようなものを感じるんですけど、
どうやってそれは生まれたんですか?
※13
トゥーンレンダリング=3Dコンピューターグラフィックスのひとつ。3次元のデータから漫画やイラスト風にレンダリングする技術のこと。
久田
そもそもわたしは
ゲームがあまり得意ではないということもあって、
わたしと同じような人でも
入り込みやすい世界観をつくろうと思ったんです。
そこで、全体的に明るく色鮮やかな印象を意識してつくりました。
ぱっと見の印象が怖くないほうが、手に取りやすいですよね。
岩田
確かにダンジョンも含めて、
明るくなった印象がありますね。
久田
あと明るいというのには
もうひとつ理由があって、
見やすさというのもすごく重視しました。
岩田
画面が暗いと、どうしても迷いやすくなりますよね。
久田
はい。そこで、どこにネタがあるのか、
敵はどこにいるのか、どの道に進めばいいのか、
ということを、わかりやすくすることも
今度の『ゼルダ』では必要だという話になったんです。
なので、バクダンのようなアイテムも
「これはオブジェクトだ」と
はっきりわかるようにつくりました。
岩田
つまり、オブジェクトとか人物とかが、
背景に埋もれないようにしようとしたんですね。
久田
そうなんです。
岩田
でも、それをあまりにやりすぎると、
そのオブジェクトだけが目立ちすぎることになって
違和感が出ることになりませんでしたか?
久田
はい、そこがいちばん悩んだところでした。
岩田
たとえば、とても優れたアニメを見ると、
背景はすごく細かく、リアルに描き込まれているんだけど、
その手前で動くキャラクターは、
とても対称的なシンプルな線で描かれているのに
何の違和感もなく見られたりしますよね。
久田
そうですね。
岩田
今回は、そのようなアニメにも似た新しい
チャレンジだったんじゃないかと思うんです。
実際、そういった部分の違和感がないんですけど、
それがうまく成立できたのは、どうしてだと思いますか?
久田
じつは、開発初期の頃は、背景だけでなく
敵やオブジェクトも水彩画調にしていたことがあったんですが、
敵とかも全部が背景のなかに埋もれてしまって、
目的がぜんぜんわからなくなってしまうんです。
そこで、キャラクターなどの表現は全部、
トゥーンレンダリングに近い「ハーフトゥーン」という技法にして、
あえて目立つようにしたんです。
岩田
トゥーンレンダリングの技法を
部分的に使っている、ということですね。
久田
そうです。で、試しにその技法を使ってみると、
トゥーンレンダリングほどペタッとした表現ではなく、
少しフンワリした柔らかい表現になるんです。
先ほどのアニメの話にあったように、
背景は写実的に描かれているのに、その上で
シンプルかつ柔らかく描かれたキャラクターが動いていても
何の違和感もなかったので、
「これでうまくいけるかな・・・!?」と思ったんです。
ただ、それでも目立ちすぎたり、
背景に埋もれたり、という問題はあちこち出ました。
なので、あとはもう、常にチェックしながら、
色味や明度を細かく調整したりとか、
背景の水彩画調具合を調整したりとか、
あとはライティングとかも・・・。
岩田
ああ、やっぱり1個1個の
細かな調整をすごくやったんですね。
久田
もう、それはすごい調整をしました。
最後は夜なべをしながらの調整になりましたから。
丸浪
ホントに1個1個調整しました。
たとえば、草や木のように、
ただ純粋にリアクションを楽しむだけのものであれば、
ある程度は背景に埋もれていても
それに気がついた人に楽しんでもらえればいいんですけど、
そうじゃないオブジェクトもありますので。
岩田
それに気がつかないと、謎解きができなくて
先に進めないということもありますからね。
丸浪
そうなんです。
なので、水彩画調に馴染ませつつも、
そこにあることに気づいてもらえるように、
ひとつひとつ調整していきました。
岩田
アイテムはどうだったんですか?
岩崎
今回のバクダンは水色なんですけど、
最初はもっと色が濃かったんです。
ところが、暗い地下ステージに持っていくと
見えなくなってしまって・・・。
岩田
バクダンが見えなくては困りますよ(笑)。
岩崎
はい。そこで、地上でも地下でも
ハッキリ見えるように、思い切って色を明るくして、
さらにまわりと馴染むようにしました。
岩田
だから、今回のような水彩画調の絵柄を
うまく成立させることができたのは、
最後は、ひとりひとりが、それぞれ担当するものを
みんなで寄ってたかって、手作業で調整して入れました、
ということなんですね。
一同
はい。