岩田
すぎやま先生が、
今回の『ドラクエIX』の楽曲をつくるにあたっては、
いろんなエピソードがあったと思うんですが。
すぎやま
僕はね、今回、
「堀井さんがすごいな」と思ったことがあるんですよ。
岩田
それはどんなことですか?
すぎやま
まずフィールドを歩く曲をつくったんです。
トットットットと歩いてるような音からはじまる曲を。
その曲を、打ち合わせ会議で聴いてもらったんですけど
堀井さんは黙ってじっと聴いてるんですよ。
で、ひとこと・・・「これ、町ですね」と。
岩田
フィールドの曲としてつくったのに?
すぎやま
町の曲だと(笑)。
それで、テストROMに、その曲を町にのせて
実際に遊んでみたら、なるほど、これがピッタリなんです。
ああ、堀井さんの感覚、すごいわと。
そう思ったこともありましたね。
岩田
へえ〜。
すぎやま
それからねえ、これも裏話に近いんですけど、
戦闘の曲を作って、実際にそれをROMに乗せて、
しばらくそれで開発が進んでたんですよ。
そうしたらそのうち、堀井さんが
「あの戦闘の曲ね、やってるうちに飽きた」と。
岩田
これはまた衝撃的な・・・(笑)。
すぎやま
「先生に悪いけど、この曲は飽きるわ」と
スタッフに言ったらしいの。
堀井
やってるうちに、
出だしの音が耳につくようになってきたんです。
なんとなくなんですけど。
岩田
いやあ、それにしてもすごい話ですよね。
すぎやま先生のほうが遙かに年長で、
音楽の分野で著名な存在であっても
堀井さんは自分の感性を信じて
言うべきところはちゃんと言い、
先生のほうもそれを信頼していると。
すぎやま
そりゃあそうですよ。
だって、映画の「七人の侍」(※22)で言えば、
黒澤明(※23)みたいなものですからね、堀井さんは。
だから、最終的には堀井さんの判断に従うべきで、
こちらも過去からずーっといっしょにやってきて、
堀井さんの感覚的な判断が当たってるというのは
僕はもうわかってるから。
それで、そのときにつくった戦闘の曲を
自分で実際にテストROMで遊んでみたら、
「やっぱりこれ、飽きるわ」と。
岩田
(笑)
※22
「七人の侍」=1954年4月に公開された、黒澤明監督の日本映画。名作として名高く、スピルバーグ監督やコッポラ監督など、世界の映画人にも多大な影響を与えている。
※23
黒澤明=世界的に名の知られた映画界の巨匠。「七人の侍」のほか、「羅生門」「生きる」「天国と地獄」「影武者」「乱」など、数多くの名作を遺し、1998年に死去。
すぎやま
それでまた、戦闘の曲をつくりなおして、
繰り返し使用に耐える曲ができたんですけどね。
堀井
先生はそう言ってるけど、逆の話もあるんですよ。
先生から提供された曲を最初に聴いたとき
「変かな?」と思うこともあるんです。
ところが、先生が
「とりあえずゲームにのせてやってみてよ」と言うので、
実際にのせてやってみると、
「合うよ、これ。やっぱりよかったんだ」と。
すぎやま
そういうこともあるね。
堀井
そういうこともありますよね。
岩田
(笑)
すぎやま
初代の『ドラクエ』のときにつくった
フィールドの曲なんかは、
堀井さんからも、チュンソフトの中村さんからも、
「冒険に行くという感じがぜんぜんしない」
という評価をされたんです。
ところが僕には自信があったから、
最終的にダメだと言われたら、
絶対につくりなおすつもりだったけど、
「とりあえずテストROMでやってみてよ」と言ったんです。
そしたら3日後に、中村さんから電話がかかってきて、
「テストプレイヤーがやりながら、
あのメロディを鼻歌でうたってますよ。
いいですね、これ!」と(笑)。
堀井・岩田
(笑)
すぎやま
♪タリタ〜、タタタタタタ、タリ〜タ〜という曲ね。
岩田
ちょっと寂しい曲なんですよね。
堀井
冒険に行くという勇ましさはないんですけど
逆にその寂しさがすごいよかったんですよね。
『III』であの曲が流れると、泣いちゃうし(笑)。
すぎやま
そうやって決まることもあるんですけど、
やっぱり最終的には堀井さんの判断で決めてもらうと。
僕もそのほうが気が楽というのもあるんだけど(笑)。
岩田
(笑)
堀井
でも、僕が何を言っても、
先生が「これは」と、頑固なときもあるんです。
でも逆に、僕の言うことを素直に聞いてくれるときは、
先生自体も「どうかな・・・?」と、
ちょっと心配だったりするんじゃないかと。
すぎやま
あははは(笑)。
岩田
ただ乱暴に自分の意見を振り回してるわけじゃなくって、
そういう信頼関係の温かさみたいなものも含めて、
『ドラクエ』というゲームのムードなんですよね。
温かくてやさしい『ドラゴンクエスト』の世界は、
こういう関係の人たちがつくってるんだということを
改めて感じますね。
すぎやま
滑ったり転んだりという裏話はいろいろあるんですよ。
『IX』で大きくひっくり返ったのは、ラスボスの曲。
最初にイメージを聞かされて
それに合うような音楽をつくって持って行ったら、
「ラスボスのイメージを変更しました」と。
おいおい、それはないでしょうと(笑)。
堀井
(苦笑)
すぎやま
そこでキャンセルして、また新たにつくりなおして。
最初につくった曲は大事にとってありますけど、
まあ、滑ったり転んだりしながら
いろんなことが決まっていくんですよ。
そういったことも開発期間が長いからできることで、
時間がかかるのはいい面もありますね。
岩田
確かにもっと早いペースで、
次々と『ドラクエ』の新作が遊べたらという人も
当然いると思うんですけど、
一方で時間をかけてつくってるからこそ、
できていることがあるような気がしますね。
堀井
それはもちろんありますね。
岩田
任天堂の商品でも、
「これは時間がかかっちゃったな」ということが
ときどきあるんです。
でも、それをもっと効率よくつくったとしても、
同じように満足できるような商品にはなっていないだろうなと
思うことがけっこうあったりするんですよね。
堀井
そうですよね。
岩田
まあ、今回の『IX』をまとめられる上では、
方向性が1回でポーンと決まったわけではなくって。
堀井
けっこう何回も変わってますよ。ハッキリ言って。
岩田
そこで何度も悩んだんですね。
堀井
うん、悩みましたね。
すぎやま
そうやって悩みながらつくってるので、
クオリティが保たれてるところもあるんでしょうね。
岩田
だから、そういう点では、
絶対にお客さんの期待を裏切らないことの繰り返しが、
いまの『ドラクエ』のブランド価値ということになるんですよね。
堀井
ただ、その期待に応えようとするあまり
発売日を延期するようなことにもなって・・・。
岩田
わたしはゲームをつくってきた人でもあるんですけど、
会社経営者をやっていますので、
ゲームがいつ出るのかわからないようなことは、
どんなに会社経営でツライのかは一応わかるんです。
でも、だからといって
せかしてもうまくいかないんですよね(笑)。
堀井
『ドラクエ』だから
許してもらってる部分もあるとは思うんですけど
そういう気持ちに甘えてはいけないですよね。
何より、お待たせしたユーザーのみなさんには
本当に申し訳ないなと思っています。