『ドラゴンクエスト』の面白さは
堀井さんがイメージしていたようなプロセスで、
世の中に広がっていったんですか？

わりとそうでしたね。
けっこう最初の段階から手ごたえがありました。
面白いと思ってつくったら、
ちゃんと面白いと思ってもらえましたし。

ゲームの中身に関しても、
人にどうしても言いたくなるための仕掛けを、
いろいろ考えてつくられたんですか？

それはある意味、
いまから考えるとすごくカンタンだったんですよ。
というのは、当時、
コンピュータゲームはそれほど普及してないし、
そんな時代に、テレビの画面から
自分の名前を呼びかけてくれるだけでも
みんな驚いちゃうわけですよ。
たとえば「すぎやん」とかね（笑）。

うん、あれはうれしかったねえ（笑）。

ああ、なるほど（笑）。
自分の名前を付けるという行為自体が、
あの時点では発明でしたからね。

「これ、俺？」みたいな（笑）。
それで、主人公を自分の分身だと思うようになって、
しかもモンスターと闘えば、どんどん強くなると。
それに、さっきはすごく苦戦したのに、
すぐにカンタンに倒せるようになったりとか。

あれもうれしいですよね。
成長の実感が感じられて。

それで勝つと、お金がもらえて、
そのお金で武器を買おうと。
武器を買うと、さらにもっと強くなって、
町の人たちからほめてもらえるようになると。
そうやって、どんどんハマっていったと思うんです。

そういう成長の感覚を、初めて味わった人たちが、
次々と“先生”や“宣教師”になって
どんどん広めていったということなんでしょうね。

宣教師になったもんね、僕も（笑）。

あの当時は確かに、
いろんな著名な人たちも宣教師になってくれたんですよね。

そうですよね。いろんな分野のいろんな方が、
ドボッとハマって、いろんな場所で、
『ドラクエ』の面白さを熱く語ってましたからね。
ちなみに、すぎやま先生のゲームでのお仕事は、
『ドラゴンクエスト』が最初なんですか？

ファミコンソフトは『ドラクエ』が最初だったんですけど
その前に１本ありましてね。
『ウイングマン２』^（※11）という
当時、エニックス^（※12）から出たソフトで。

パソコン用のソフトだったんですね。

そうなんです。
そもそものキッカケは、『森田将棋』^（※13）という
パソコンソフトを遊んで、
それに入ってたアンケートはがきを書いて送ったら、
千田さんたちの目にとまって、電話がかかってきたんですよ。

アンケートはがきを書いたことが
ゲーム音楽をつくるキッカケだったんですか？

そうなんです。

なんとアナログな、なんとすばらしいご縁（笑）。

（笑）。そのアンケートはがきには
「終盤は強いけど、序盤の駒組みがイマイチ」みたいに、
ちょっと生意気なことを書いて、
そのままほったらかしにしておいたんです。
そしたら、たまたまうちのカミさんが
それを見つけて、買い物に行く途中に
ポストに放り込んだみたいなんです。

最初、そのはがきを見た千田さんたちは
小学生からのアンケートだと思ったそうですよ。
名前が全部ひらがなだったので（笑）。

（笑）

だからなのか、電話をかけてきたとき
「ひょっとして作曲家のすぎやまさんですか？」と
確認してきましたね（笑）。
それで「ゲームの音楽をやってみませんか？」と。
もうそこは、将棋で言うと“ノータイム”（笑）。
「やるやる」と即答しちゃったんです。
そのあと、新宿の場所を指定されて行ったんですけど、
当時のエニックスはとてもちっちゃな建物でして。

当時のエニックスさんは、
パソコンのビジネスをはじめて間もない頃でしたしね。

そうなんです。
それで、『ウイングマン２』という
パソコンゲームの音楽をやった後、
何日かたってから
「実は『ドラゴンクエスト』という新しいゲームが出るので、
音楽をやってほしい」と言われて。
それが最初なんです。

当時のファミリーコンピュータは
音源の数がとても少なくて、
出せる音の種類の幅も狭かったんですよね。

ノイズ音を除いて、３（スリー）トラックでしたから。

そういった、
とても限られた音しか出せないということは
すぎやま先生がふだん関わっておられる音楽と
ぜんぜん制約の程度が違いますよね。

あの当時、いろんなゲームメーカーが
作曲家に音楽を頼むようなこともあったようなんです。
ところが「３トラックで音楽ができるわけないよ」と
断られる例がほとんどだったみたいなんです。

一方で、ゲームをつくってる側にも
遠慮があったかもしれないですね。
ファミコンの序盤の頃は、
音楽を専門にやってきた方にアプローチするのは
まだ早いんじゃないかと。

そうですね。遠慮してたかもしれないし、
実際に頼んでみたら断られるし。
ちょうど２０年前、あの頃のポップスの世界では、
「サウンド勝負」と言われていたんですよ。
ギターでどういう音を出すかとか、
エレキでどういう音を出すかとかね。
でも、ファミコンの音源だと
サウンドで勝負することができないんです。
もうメロディでしか勝負できないと。

そもそも音質が選べないわけですから。

でも僕には、面白かったんですね。
３トラック目は、
サウンドエフェクトに取っておきたいから、
２（ツー）トラックで音楽をつくってほしいと言われたんですが、
そういうことがある種のパズルに挑戦するような感じで。

先生が「面白かった」と
そのような姿勢で向き合ってくれたからこそ
先生のつくった音楽が、
みんなの記憶に残るものになったと思うんですね。
『ドラクエ』のテーマ曲はもちろん、
復活の呪文^（※14）の曲もそうですしね。
そもそも復活の呪文を打ち込むのは、
言っちゃあなんですけど面倒くさいわけですよ（笑）。
で、ときどきメモを微妙に間違えたりして
不幸な事故が起こる場所でもあったんですけど、
そこで流れていた復活の呪文の曲は、
あのストレスフルな場所には
おそらく最高の曲なんですよね。

あははは（笑）。

ものすごく心のなかに残ってるんです。
あそこでつきあった面倒な時間も含めて、
心地よい記憶のなかにあるような・・・。

でも、別の意味で復活の呪文は苦労しましたねえ。
初代の『ドラクエ』は１７文字だからよかったけど。

『ＩＩ』はすごく長かったですよね（笑）。

５０文字以上もありましたからね。

ストーリーが進むと
徐々に長くなっていくんですね。
最終的には５２文字になって。

だから僕、しまいには、
テレビ画面をプリントアウトできる機械を
わざわざ買ったんです。

（笑）

なにせ５２文字だから、
プリントアウトしてとっておかなきゃと。
その機械のおかげで「ね」と「わ」の間違いとか、
全部克服できました（笑）。