岩田
王道のゲームとして、堀井さんが
絶対に押さえなきゃいけないと考えることは
どんなことなんですか?
堀井
なんとなくですけど、
“ゲームの安心感と温かみ”ですかね。
岩田
“安心感と温かみ”というのは
実際に遊んでいても、すごく伝わってきますね。
堀井
それに、何をやっても許してあげるみたいな
“自由に遊べる”ところですね。
やっぱり、いろんなことができるようにしたいですし
「ああ、こういうこともできるんだ」
みたいなことがあると、やっぱりうれしいですよね。
それに“わかりやすさ”も大事にしています。
「何をしていいのかわからないよ」と言われるのが、
作り手としてはいちばんツライですし。
そういったわかりやすさを基本にしながら
あとは“雰囲気”だったりとか、
“面白さ”ということになるんでしょうけど、
とにかく触っていて、何をしていいのかわかんないんだったら、
面白さすらわかってもらえないですからね。
岩田
ただ、作り手としては、
ついつい独りよがりになることも多いですよね。
堀井さんはどうやって、
お客さんにとってわからないようなことが
起きないようにしているんですか?
堀井
僕自身が実際にやってみるんです。
それで「あ、これじゃわかんないな」と確認したり。
岩田
堀井さんが自分で触ることこそが、
最大のチェックなんですね。
しかも、ゲームシステムをつくった人としてではなく、
堀井さんがお客さんの気持ちになって
チェックしてるんですね。
堀井
そうです。
岩田
それは堀井さんのすごく特別なところかもしれないですね。
自分が送り手としてつくったものは、
なかなか受け手の視点では見られないですから。
堀井
雑誌の記事とかを見ても思うことなんですけど、
記事を書く人は基本的なことがわかってるので、
ついつい飛ばして書いちゃうんですよね。
そのことに書いてる本人も気づかないことが多いんですよ。
だから「いきなりそこから書いちゃあダメでしょう」
と思ったりするんです。
岩田
そういったモノの見方は、昔から得意だったんですか?
堀井
そうだったかもしれないですね。
自分がいちばんのユーザーだったので。
岩田
世の中には、よくできてるゲームもあれば、
よくできてないゲームもありますよね。
堀井さんは、昔からたくさんのゲームを遊んできて、
そういった差が敏感にわかるんでしょうね。
堀井
そこはもう、肌感覚ですよね。
なかには惜しいゲームもけっこうあるんですよ。
やりこめば面白いんだけど、
やりこむ前にたぶん飽きちゃうだろうなとか。
岩田
わかると面白いゲームは
世の中にいっぱいあふれてますからね。
だけど、その大半は面白さがわかるところまで
なかなか到達できないんですよね。
堀井
そう、敷居が高すぎるんですよ。
そこは、もったいないなと思うんですけどね。
岩田
そういった、堀井さんがものづくりに関して
すごく大事にされているところに
わたしたち任天堂としては、
すごくシンパシーを感じますね。
堀井
そういった感覚は、僕もすごく近いと思います。
僕はマニュアルをあんまり読まない人なんですけど
やっぱり宮本(茂)さんがつくるゲームは、
そういったものを読まなくても
触れば感覚的にわかっちゃうんですよね。
「こうやればこうなるんだろうな」ということで
実際にやってみると「ああ、やっぱりそうだった」と。
そういったことの繰り返しで
ずっと遊んでいけるようなところがあって。
岩田
そもそも、わたしたちのつくったもので
お客さんがどうしていいのかわからないことがあると、
それは説明書を読まないお客さんが悪いんじゃなくって、
わかりにくいゲームをつくった
わたしたちに責任があるわけですからね。
そこを乗り越えない限り、
たくさんの人に受け入れてもらえることはないですし。
すぎやま
それは、すべての商品に言えることですよね。
ゲームにしても、デジカメにしても、家電製品にしても、
マニュアルを読まなきゃ使えないものは、
商品としてはダメなんだと、僕は思うんです。
でも、堀井さんのゲームや、『スーパーマリオ』なんかは、
マニュアル読まなくても遊べますしね。
堀井
『マリオ』とかで、自分の好きなように遊んでいると
自分が思わないことも起こったりするんですよね、
「うひゃあ」という感じで。
岩田
(笑)
堀井
そういう意外性が『マリオ』にはすごくあるんですよ。
それに後ろから見ていても面白いですし。
思いがけず、すごいワザを使ってしまったりとか、
「いまの見た? すごかったでしょ」というのが
起きるというのがすごいなと思いまして。
すぎやま
僕はアクションが苦手ということもあって
『マリオ』は自分でやるより、
後ろから見てたほうが多かったくらいでしたから。
『マリオ』の名人を家に呼んで
やってもらったりしてたんです(笑)。
岩田
やっぱり面白いゲームは
後ろから見ているだけでも楽しいんですよね。
堀井
そこは重要だと思いますね。
岩田
さきほど堀井さんは、
「自分で触ってわかる」と言いましたけど、
そう断言できるのはすごいですね。
たとえば初めてプレイする人を観察して
それをゲームづくりに活かすようなことは
よくあることなんですけど、
「自分がアンテナなんだ」と、
そう言い切れるのはすごいなあと思いますね。
やっぱり堀井さんの場合、
お客さんの立場でゲームを触って、
そのときに感じてたことが、
実は全部、ものづくりに生きてるんですね。
堀井
それでも漏れはありますけどね。
すぎやま
堀井さんはゲーマーだから、ゲーム大好き人間だから。
やっぱり理屈ではなくって、感覚的に面白いもの、
楽しいもの、それを感性で判断してるんですよね。
岩田
変な話、生理的に気持ちいいか、よくないかということは
すごく大事じゃないですか。
「うーん、なんか気持ち悪いなあ」とか。
堀井
ありますあります。
実際に触ってみると、
なんとなく触り心地が悪かったりとかして
それがすごくイヤだったりするんですね。
岩田
それこそ延々と何十時間もつきあうものが、
生理的に気持ち悪いと、いい記憶になるはずがないんですよね。
だけど、その感触の違いを感じる人と感じない人の差は格段に大きくて、
ちょっと触って一発で「あ、これダメ」と判断できる人と、
「え? どこが悪いんですか?」という人が
ハッキリ分かれるんですよね。
こういったことは残念ながら、
なかなか教えられないような気がするんですが。
堀井
そこはもう、すごく感覚的なことですからね。
すぎやま
それは、音楽も同じだと思いますね。
岩田
そうなんですか。
すぎやま
理屈で、理論でいくら立派な音楽を書いても、
聴いてつまらなきゃ、それはつまらないんですよ。
やっぱり音楽も感覚的にいい音楽じゃないと。
だから僕は、たとえばダンジョンのなかの曲でも
恐いけど、どこか美しい、
恐いけど、心地よい、
そんな音楽を心がけてつくってますし。
岩田
恐いけど、不快なものじゃいけないんですよね。
すぎやま
そう。不快じゃいけないんですよね。
だから、世の中ですごい音楽理論で、
理屈だけでつくった音楽というのはね、
だいたいダメですね。
聴いていて楽しくないですから。
ゲームでもそうでしょう、きっと。
堀井
だからこそ、
最後のさじ加減みたいなものが
大事になってくるんですね。
岩田
ああ、おんなじですね(笑)。
堀井
おんなじとは?
岩田
いまの堀井さんのその言葉、
社内で口癖のように言う人がいるんですよ。
堀井
それって宮本さん?
岩田
はい(笑)。