5. 『ポケモン』が大事にするもの

岩田

『ポケモン』はいま、先ほど話題になったように、
世界中で言葉を超えたコミュニケーションの媒体になっていますが、
『ポケモン』をつくるときに、みなさんは
何を大事にしてつくっていますか?

増田

自分が大事にしているのは、
「1回もゲームをしたことがない方が、いかに遊べるか」
ということです。

岩田

はじめて買ってもらうゲームが『ポケモン』、
というお子さんが、たくさんいらっしゃるからですね?

増田

はい。なので、わかりやすく遊べる要素を
入れるように心がけています。
バトルについては“深さを求める部分”と考えているので、
タワーのような施設をつくって、
バトルをしたい方はそこで楽しんでいただき、
興味のない方はスルーしてもらっても
かまわないと思っています。

岩田

「かわいいポケモンを集めたい」でもいいし、
「全種そろえたい」でもいいし、
「ストーリーをクリアーしたい」でもいいし、
「お気に入りのポケモンを強くしたい」でもいいし、
「バトルで世界一になりたい」でもいいし・・・。
全員が同じことを目標に遊ぶ必要はなくて、
間口がすごく広くて、深さもあって、
求める軸の自由度が大きいことが、
『ポケモン』の特徴かもしれませんね。

増田

そう思います。

岩田

わたしがずっと「ポケモンはすごい」と思っているのは、
みんなのお気に入りのポケモンが
驚くほどにバラバラなところなんです。
普通、たくさんのキャラクターがいると
人気のあるものって固まりやすいものですが、
遊んでいる人に訊いてみると
意外なポケモンがお気に入りにあがりますよね。

増田

はい。ポケモンの多様性は
非常に気にしているところです。
たとえばキャラクターのデザインで、
「ちょっと大丈夫かな?」と思ったときは、
どんな技を持たせて、どんな設定にして、
どんな場所で出すか、を考えることで、
違う魅力が出てくるんです。

岩田

ああ、なるほど。
キャラクターのデザインで完結せず、
登場する技や設定、世界観全部に個性をつくっているので、
それぞれに個性的な魅力が生まれて、
それぞれのポケモンに人気が生まれるんですね。

増田

はい、そう思います。
たとえば『赤・緑』(※18)のとき、
ピカチュウは“トキワのもり”で
なかなか出てこない設定だったんです。
これが、しょっちゅう出てくる状態だったら、
ここまで人気が出たかどうか、わからないです。

※18

『赤・緑』=『ポケットモンスター 赤・緑』。1996年2月、ゲームボーイ用ソフトとして発売されたRPG。シリーズ1作目。

岩田

確かに、それが簡単に手に入るポケモンだったら、
これほどの思い入れには
ならなかったかもしれないですね。

増田

そうですね。
一時期、ワールドチャンピオンシップスなどで
ケンタロスが大人気だったんです。
その理由は“強い”からです。
「強さに対する人気の出方はすごいな」と思いました。

岩田

強いものに対する
あこがれと敬意があるんですね。
でも、ゲームフリークさんから出てくるポケモンは、
個性の出しかたに非常に幅があり、多人数で共作した結果、
生き残っていくものの強さを感じます。

増田

新たなポケモンを考えるにはアイデアが必要なので、
ひとりでやるより、多人数でつくったほうがいいと思うんです。
意外と若いスタッフのほうが、あり得ないアイデアを
出してきたりします(笑)。

岩田

新風が吹き込まれるわけですね。

増田

はい。そうしないとマッギョみたいな、
平べったいヒラメのようなポケモンは、
なかなか登場しづらいです(笑)。

岩田

海野さんは、『ポケモン』が大事にするものの
見え方について、どう思いますか?

海野

そうですね・・・。
ずっとかかわってきて思うことは、
増田が言うように“多様性”がありつつも、
“入り口は非常にシンプル”ということです。
たとえば、「かわいい」という見た目から興味を持ったり、
バトルも、仕組みはじゃんけんに近いシンプルなものだったり、
物語も、“ごく普通の少年が旅をして成長する”
という王道が守られています。
そんなふうに一見、シンプルに見えて、
じつは込められている意味が非常に大きいところが、
『ポケモン』の大事にしているところだと思います。

岩田

シンプルな遊びで長く生き残っているものは、
じつは奥が深いんですよね。

海野

はい。増田はよく
「じゃんけんは奥深い遊び」
と語ってくれます。

増田

はい(笑)。
よく、じゃんけんを分解させるんです。
たとえば、はじめに「じゃんけん・・・」
と声を出さずにやると、勝負にならないんですね。

岩田

じゃんけんが成立する条件には、
複数の要素があるんですね。

海野

そうです。たとえば
「目隠しでじゃんけんしたらどうか」
って話題もありました。
ポケモンのデザインに関しても、
「なぜこのポケモンはほっぺが赤いのか」とか、
「なぜしっぽがああいう形なのか」とか、
生き物としての意味が必ずあるんです。

岩田

キャラクター商品ができるときに、
「それがこのポケモンであるという理由」を、
商品全部に求めるのが、
『ポケモン』の特徴ですからね。

海野

はい。シンプルに見える中にも、
きちんと“意味”があることが
自然に受け止められるから、
無意識下で共有できるのだと思います。
じつは、自分が最初に『ポケモン』に携わったとき、
街の中の花の置きかたについて、
増田に怒られたことがあるんです。
派手にきれいに置いていたら、増田から
「海野くんは、街の中でここに花が置いてあったら、
 踏んで歩きたいと思う?」って言われたんです。

増田

(笑)

海野

それでハッと気づきました。
家の前に無造作に花を置くのではなく、
そこには生活している人がいて、
「なぜそこに花が生えているか?」
「それは小さな花なのか、大きな花なのか?」
ということまでも意識しなければいけないんです。
「普通に生活して、目に触れたり感じたりすることを、
 強調せずに盛り込むことが大切」
と思っています。